たかみむすひのかみ。
天孫降臨を指令した神聖な生成力の神。
『古事記』に登場する神で、別名高木神(たかぎのかみ)、『日本書紀』では高皇産霊尊(たかみむすひのみこと)。
『古事記』や『日本書紀』神代上・第一段、第四の一書(異伝)にある天地創成(開闢)神話によれば、天地の初めに
高天原に出現した造化三神のうち、天之御中主神を(あめのみなかぬしのかみ)継ぎ、神産巣日神(かむむすひのかみ)に先立って出現した第二の神である。
『古事記』では、別天神(ことあまつかみ)五柱の一神で、独神[ひとりがみ(配偶神のいない神)]でもある。
神名は「ムス=産巣・産」(生ずる・生成する)と「ヒ=日・霊」(神霊)との合成語に美称(尊称)である「高御」という語がついたもので、偉大で神聖な生成の霊力の神という意味である(漢語表記の「日」を強調して、天照大御神以前から信仰された根源的な太陽神とする説とある)。
また、高木神という別称の通り、草木植物の生成、さらには農耕の成就をつかさどる神である。
生成という抽象性・一般性の高い働きと関係する神格ではあるが、天照大御神と並ぶ高天原の中心神として具体的にその活動を描写されている点で、他の別天神と比べて強い存在感を示している。
『古事記』や『日本書紀』では、天照大御神とともに天孫降臨を指令する一方、単独で降臨を指揮し、天孫・ニニギ尊を真床追衾[まどこおうふすま(神聖な床を覆う衾)]に包み、天降りさせたという記述も見られる。
また神武天皇の東征の際には記紀ともに現れるなど、もっぱら天孫系神話で活躍する。
これは国津神の活動を多く記す出雲系神話に頻出する、もう一柱の生成神である神産巣日神(かみむすひのかみ)と著しい対照をなす。
つまり、天地のうち天と強く関わる天津神系の生成神という事である。
律令時代には、神祇官八神殿における祭神の一柱として重視され、天皇の寿命を守る神ともされた為、御魂鎮め(衰弱した魂の回復)の祭儀である鎮魂祭に祀られている。
また、大嘗祭や祈年祭などの宮廷農耕祭儀でも祀られる点から、農耕の神としての性格もうかがえる。