奈良県北東部の宇陀市にある室生寺(むろうじ)は、シャクナゲの可憐さや、日本一小さいけれど、美しさは抜群という五重塔などで知られる真言密教の寺だ。
この辺りは古代から霊力が強い地として知られていた。
まだ親王だった桓武天皇が病気になった時も、僧がこの山で祈りを捧げたところ、みるみる回復したという。
こうした経験を持つ桓武天皇が、室生寺を建立したと伝えられる。
ただ、密教寺院としては、室生寺は異例の存在だった。
ほかの密教寺院では、固く禁じられていた掟の女性の参拝を許していたからである。
真言密教のトップに立つ高野山は、今でこそ誰でも自由に訪れる事ができるが、かつては女人禁制の場所だった。
仏教では女性は穢(けが)れたもの、あるいは救われないものと考えられていて、聖域から閉め出されてしまったのである。
しかし、高野山をはじめ、多くの密教寺院が女性の立ち入りを厳しく禁じていた中で、室生寺だけは女性にもお参りを認めていたのだ。
女性も救済してくれる寺という事で、室生寺は女人高野と呼ばれる様になったのである。
また、室生寺は春分と秋分に太陽が通るレイライン上に建っている。
このラインには天照大神を祀った神社や伊勢の斎宮跡などもあるという。
レイライン上にある聖地は、女性と何らかの縁で結ばれているのかも知れない。
昔から女性を受け入れていた寺らしく、今も室生寺には穏やかに包み込んでくれる様な優しさが溢れている。