熊本県にある阿蘇山は、今も活動を続ける活火山だ。
阿蘇山は一つの山を指すのではなく、高岳(たかだけ)、中岳、烏帽子岳(えぼしだけ)、根子岳(ねこだけ)、杵島岳(きじまだけ)の五つの山の総称である。
その阿蘇山は古代から信仰の対象とされてきた。
確かに山が激しく火を噴き上げるなど、昔の人たちにとっては神が行ったとしか思えない、驚異の出来事だった事だろう。
その一方で、山々は豊かな水源となって田畑を潤した。
この様に災害と恵みをもたらす阿蘇山を、人々は神が宿る山として畏れ敬ったのである。
14~16世紀ころには山岳信仰の一大霊場にもなっていて、多くの修行者が集まった。
ところで、近隣の住民がその噴火に怯えるのは当然だが、じつは遠く離れた京都でも、阿蘇山の活動には神経をとがらせていた。
なぜなら、阿蘇山の噴火を朝廷は不吉な予言として恐れていたからである。
噴火は、国家的な変事の前兆だと信じられていた。
そこで、どんな小さな変化でも朝廷に報告され、その度に阿蘇神社で神の心を鎮める為の祈りが、捧げられたのだという。
こうした事は海を越えた中国にも伝わっている。
7世紀に書かれた中国の歴史書『隨書』には、阿蘇山が噴火すると住民は祭祀を行うと記されているのだ。
阿蘇山は国の異変を予測できるほど、霊威の強い山だと考えられていたのだろう。
阿蘇神社では、山の神に五穀豊穣を祈る火振り神事も行われている。
火をつけた茅の束に縄をつけて振り回すという幻想的な祭だ。
この神事を終えないと農作業は始まらないのである。