塩といえば普段の生活に欠かせない物だが、昔はそうではなかった。
今でも神社では祭壇に塩を供えたり、相撲では塩を土俵に撒いたりする様に、日本では古くからの清めの儀式には欠かせないものだった。
そんな神聖な塩を作る事を神事としている神社がある。
宮城県塩竈(しおがま)市にある塩釜神社だ。
ここでは毎年7月に、古代から伝わるという製法で藻塩焼(もしおやき)神事が行われているのだ。
3日間を掛けて行われるこの神事は、1日目に花渕浜でホンダワラという海藻を刈り取り、2日目に松島湾の釜ヶ淵で海水を汲んで神釜を満たす。
そして3日目に、境内に置かれた直径1mの御釜の上に竹の柵が乗せられ、その上にホンダワラが敷かれる。
さらに、このホンダワラで濾(こ)す様にして御釜に海水が入れられ、1時間以上煮詰めてようやく塩が作られるのだ。
この製法を伝えたのは塩釜神社の主祭神である塩土老翁神(しおつちおじのかみ)で、その記録は『古事記』に残っている。
だが、不思議なことに塩釜神社の本殿には塩土老翁神が祀られておらず、どちらかと言うと付属的な存在である別宮に安置されているのだ。
本殿に祀られているのは、塩土老翁神が連れてきたと言う鹿島神と香取神だ。
この二人の神はすぐに去っていったが、塩土老翁神はこの地で人々に漁業や塩づくりを教えたと伝えられている。
そんな謙虚にも思える塩土老翁神は、海上安全から大漁満足、そして国家安泰の神として篤く信仰されてきた。
そして、その製塩法は神事として受け継がれているのである。