人の事を思いやって親切にして、相手から「ありがとう」と言われ、貴方は幸福な気分になり、その人から尊敬される…。
人を愛し慈しみさえすれば、相手も喜び、自分も「ああ、良い事が出来た」という達成感に包まれ、安らかな心持ちになれる…。
しかし、世の中はそんなに甘くない。
人に親切にして、心から「ありがとう」と感謝され、お互いに友愛の心が通う様になる好機は、実はあまり無いかも知れない。
人の事を心から思いやっても「ああ、あの人は世話好きだからね」とか「他人の事より、もっと自分の事を考えれば良いのに」と言われてしまう場合もあるだろう。
そんな時に「なんで、あの人はこんなにも無礼なのでしょう。ありがとうと、お礼の一つも言わないんだから」と言う様に、相手の心なさを批判したりしてはいけない。
「仁を好む者」は、つまり相手の慈しみ、思いやって生きる人は「不仁を悪む者を見ず」(冷たく思いやりの無い態度を取る人を、悪まない)である。
そこで、考えてみなくては、ならないだろう。
自分が人から世話を受けたり、思いやって貰ったりした時の事を…。
「ありがとう」という言葉は、ちょっとドアを開けて貰ったとか、席を譲って貰った時には、簡単に言えるものだ。
だが、あまりにも過大な援助を受けると、簡単には「ありがとう」と言えないものだ。
「ありがとう」という言葉だけでは、とても済まないと思ってしまうからだ。
そんな人は「ありがとう」と言わなくても、もっともっと深く感謝しているのだから。