ホームページ「ちゃこ花房」からblogに記事を順番に移行中です。 この記事は、私が30代後半~40代の頃書いたもの
握り合う手にエロス感じ
~83歳にして自立、87歳で恋成就~
昨日の某新聞の、人生生き生きシニアという欄の
ラブラブノートいうコラムに、こんな素敵な話が載っていたので紹介しよう。
12年ほど前の毎日新聞の特集に、 皿を洗っている80半ばの男のでっかい写真が載ったのを、
ご記憶の方はいらっしゃるだろうか(いないって)。
彼は76歳で妻に先立たれたとき、自分のパンツがどこに入っているのかも、
米を洗って火にかけるとご飯になるのも知らなかった関西旧家のオトノサマ
長男のヨメは当事40歳。
泣く泣く東京から舅の住む奈良・斑鳩の里へ、
息子と娘も転校させて移り住む。
夫は、単身置き去り。
夫婦は家事・育児の男女共同を努力した核家族だったから、女が仕えて当然だと思っている舅をヨメは憎悪した。
子供にわからないように。
子供が次々と高校を卒業し、帰京して就職すると、ヨメは「退職金はいらないから印を押せ」と離婚。
舅を夫に返し、「家」から逃げた。
子供を追って帰京し、
練馬区の小さな借家に娘と住んだ。
息子はアパートで独立。
数ヶ月後、「ただいま」と舅が杖をついて玄関に立つ。
孫に会いたくなったかと元ヨメは「いてもいいから自分のことは自分でやってね」と言うと、
「教えて下さい」ときたもんだ。
リウマチ足が不自由な83歳が失敗を重ね、
泣き泣き家事を覚えていった。
一年後には、OLの孫娘とパートタイマーの元ヨメにとって、なくてはならない主夫に変身。
元ヨメの執筆業では秘書がわりまで。
皮肉にも、憎しみあって別れた舅とヨメが役割を脱ぎ捨てたとき、真の家族になれたのだった。
「愛しあってるのよ、フフフ」と人に言えるこの頃、
冒頭の本誌やNHKが舅を取材に来て、
好意的な記事や番組にしてくれた。
「ぼくは有名人やなあ」とシャイな彼が笑った。
87歳で両膝に水がたまって入院。
車椅子の生活になると言われ、 関西の身内にお返しすることになる。
病院で別れを告げようとする元ヨメは、痛い痛いと泣かれて彼の両膝をさするが、いっこうに泣き止まない。
「おじいちゃん、どうしたらいい?」
すると、布団から両手が出てきた。
思わず握りしめる。
とたんに泣きやんで眠る舅(まるで脚本のト書きだが字数がない)
彼の手を布団に入れようとするが、しっかり握って離さない。
ニブいヨメがようやく気づいた。
何と11年におよぶ明治の男の片思いだったのだ。
握り合う手と手のエロスの極み___
男どもがいう「何回やった」になぞらえば、
手と手を握っても一回よ、目と目でもセックスできる、と元ヨメのわたしが言うゆえんである。
書いたのは、ノンフィクション作家の「門野晴子」さん。
「老親を捨てられますか」が映画化された「老親」では11月から全国で順次上映されるらしい。
人は死ぬまで成長する可能性があるのだと、老いの輝きを示して逝った男の物語。
ぜひ見てみたいものである。