ビスクドール・雛人形店・オーディオ販売 佐久市 ヤナギダ店長ブログ

ビスクドール64体他お節句雛人形をフランスへ輸出128年、軽井沢方面がお店の場所。

それは、初めてのキスのあとに交わされた、約束だった。

2023年03月03日 12時57分36秒 | owarai
太陽が東の空に昇れば、儚く
消え去ってしまう、朝露の
ような、約束。

あなたは注文する。バーテンダ
ーの背中に向かって、ため息を
つく。

彼はまだやって来ない。どこか
らも、姿を見せない。エレベー
ターのと扉はさっきから何度
も、開いたり、閉まったりして
いる。が、彼は乗っていない。

あなたは気づく。やっとのこと
で、悟る。

今夜、彼は来ないかもしれない。
いや、来ない。来ないに決まっ
ている。きょうの約束は、あの
約束だったのだ。

あの約束―――

いつだったのか、このバーの
ちょうど真下にあるはずのベッ
トの上で、交わした指切り。

「いつものように待ち合わせ
をして、仮にどちらかが現れ
なかったら、それを『別れ』
のメッセージにしよう。

きれいさっぱり、あと腐れな
く、別れよう」

ついさっき見た、気持ちのいい
夢が一瞬にして、悪夢にすり替
わる。

夢のなかで、誰かの体を抱き
しめているのは夫だ。夫は
恋人の耳に囁いている。

「妻にきみのことを打ち明けた。
何もかも話した。別れるつもり
だ。俺にはもう、きみしかいな
い・・・・・」

まぶたをこすっても、こすって
も、あなたの目にはすべてが
二重に映っている。


もう一度おかえりなさいを言うために見送っている我かもしれず

2023年03月03日 12時08分20秒 | owarai
窓の外は紫色の光が、ゆっくりと
茜色に変わってゆく。
カーテンを引くと、部屋は再び
深海に戻った。

本物の夢と眠りが訪れる。
眠りが落ちる前の気怠さと
闘いながら彼女は呟く。


あなたが眠りにつくのを見る
のが最後だとわかっていたら
わたしはもっとちゃんとカバ
ーをかけて
神様にその魂を守ってくださ
るように 祈っただろう

あなたがドアを出て行くのを
見るのが 最後だとわかって
いたら
わたしはあなたを抱きしめて
キスをして
そしてまたもう一度呼び寄せ
て 抱きしめただろう

あなたが喜びに満ちた声をあ
げるのを聞くのが
最後だとわかっていたら
わたしは その一部始終を
ビデオにとって
毎日繰り返し見ただろう

あなたは言わなくても
分かってくれていたかも
しれないけれど
最後だとわかっていたら
一言だけでもいい・・・
「あなたを愛していると」と
わたしは伝えただろう

あいまいなビル立ち並ぶ街だから我ら愚直に愛を語らん

2023年03月03日 12時05分18秒 | owarai
男は、遊牧民だった。
けれど、羊も山羊も牛も
馬も犬もロバも飼っては
いない。

家族もいない。友だちも
いない。遊牧民はまった
くもって、ひとりぼっち
だった。


アーモンド色の瞳と、地図
のように広い背中と、ぶあ
つい手のひらの持ち主。

背中のまんなかまで伸びた
髪の毛には、銀色の白髪が
混じっていた。

きょうこそ、あの男に
好きといわせてやる。

鈴愛は握りしめたペンに
きりきりと力(りき)を入れた。

『他人の痛みを知ってますか』

2023年03月03日 12時03分35秒 | owarai
他人の痛みというものがわから
ない人間がたまにいる。
わからないのは、自分が痛い思い
をしたことがないからだ。

胃がしくしく痛んだ経験が一度も
なければ、しくしく痛む他人の
胃痛の不快さを想像しようとして
も、これは無理な話だ。

生まれて一度も病気になったこと
がない、お腹も痛んだこともない
し、頭痛も経験がないと言いきる
高齢の女流作家がいるが、

そのひとのエッセイを読むずっと
前に、彼女の小説を読んだことが
あるが、そのとき、この作家は
他人の痛みというものをぜんぜん
知らないのではないかと、

疑問を抱いたことを鮮明におぼえ
ている。



白い手紙がとどいて明日は春となるうすいがらすも磨いて待たう

2023年03月03日 12時01分21秒 | owarai
 春は、はじまりの季節。春は、
出会いの季節。さまざまな芽吹き
のなかに、恋が含まれいることを
期待するのは、とても自然なこと
のように思う。

 白い手紙は、無限の可能性を秘
めて いる。まだ何も書かれていな
い手紙には、何を書くことだって
できる。それは、豊かな未来の象
徴のように感じられる。あるいは、
春の神さまの言づてを、天使が運
んできたものだろうか。

 体の芯がうずうずしてきて、な
にかじっとしていられない気分。
そんな気持ちを落ちつけて、思う
ぞんぶん春の予感を浴びる—
うすいがらすを磨くとは、少し
脆(もろ)くて、透明で、そして
光り輝いて・・・・「うすいがら
す」は、春そのもののイメージ。

僕は見つけた。春を待つ若い女性
の心に、恋への予感がきらりと
宿っていることを。