Lespedeza Museum of Photography レスペデーザ写真美術館

カメラマンな管理人のおたく趣味の雑記と二次創作&コスプレ写真のブログです。Lespedeza(萩)の花言葉は柔軟な精神。

二次創作マクロスF「Solo Wing Fairy」part3

2008年07月10日 21時25分24秒 | 二次創作小説

翌日の午後。

マクロス25の格納庫にアルト、ミハエル、ルカ、シェリルの新生スカル小隊のメンバー全員が集まっていた。

加えてクラン・クラン、キャサリン・グラスもその場に。

元スカル小隊隊長のオズマはカナリアから絶対安静を言い渡され、モニターでこの場の様子をみている。

本来なら完全に内々でのお披露目だったのだが、あの銀河の妖精がS.M.Sの正式隊員になったということで遠巻きのギャラリーもかなりの数になっていた。

彼らの視線の先、格納庫の中央にカバーで覆われたシェリルのバルキリーが鎮座していた。

「えー、それではシェリル・ノーム准尉のVF-25のお披露目を開始したいと思います」

シェリルのVF-25の改造に携わったルカがこのお披露目の司会である。

「細かい仕様説明は後にして、まずは機体をお見せしたいと思います、シェリルさんお願いします!」

ルカの合図でシェリルがウィンチのスイッチを押す。

カバーが取り払われ姿をあらわしたシェリルのVF-25を見てギャラリーからどよめきが起きた。

「グラス中尉、これは…」

「ええ、完全に想像の範囲外だわ…」

とクランとキャシーが呟く。

「これはまた“らしくない”な。なかなか素だけど」

とミハエルが感想を漏らす。

「お嬢さん、なかなかやるじゃないか」

モニター越しのシェリルのVF-25をみてニヤリとするオズマ。

「シェリル、この機体は…!?」

「どう?“片羽の妖精”に相応しい機体だと思わない?」

驚くアルトにシェリルが満面の笑みで答える。

アルト達やギャラリーが驚いたのはシェリルのVF-25の“色”が原因だった。

シェリルのVF-25に関しては誰もが明るい系統の色、中にはピンクや黄色という予想をたてた者までいたがとにかく明るい系統のペイントがされていると考えていた。

ところが実際のシェリルのVF-25は機体が漆黒に近いダークグレーで塗られていた。

それだけでも驚きに十分値したが、漆黒のボディーで一部分だけ、右の主翼だけが真っ赤に塗られていた事が驚きをさらに大きくしていた。

「“片羽”っていうぐらいだから右翼が真っ赤に塗られているのは解る、けどなんでこんな黒い色の塗装をしたんだ?シェリルらしくないぞ」

あまりに意外なシェリルのVF-25の塗装にアルトが問い質す。

「今の私はあの人に公式には生存を抹消されたいわば“亡霊”。そんな亡霊にはこういう色が相応しいんじゃない?」

アルトの質問に少しはにかみながら答えるシェリル。

「そういえば、格闘戦に特化した機体にしてあるって言ってたけど…」

クランが不思議そうにシェリルのVF-25を眺める。

「それなら、ほらそこですよ」

そうルカが指差す先、変形後に人の上腕部に相当するところに巨大な折りたたみ型のブレードが対で取り付けられていた。

「W-06“カルディア”、VF-25の試作兵装の一つである大型ブレードに手を加えて装備させました」

ディスプレイを使い、特殊兵装の説明をするルカ。

「でもルカ、うちでまだこんな装備のテストしてないだろ?どうやってこんな兵装のデータを手に入れたんだ?」

「アルト先輩それなら、このカルディアを含めたVF-25の技術データを実家と新統合軍のコンピューターから勝手に貰って、あとはここのラボで仕上げました」

アルトの質問にしれっと返答したルカだったが答えを聞いたアルトの方が青ざめた。

「おい、それってまさか…!」

「??」

アルトとルカのやり取りが理解出来ず困惑するシェリルを見かねてグラス中尉が言葉をかけた。

「フロンティアでは企業に対するスパイ行為に関して厳しい罰則があるの」

「ましてやルカのやった事は軍事機密の漏洩だ」

「露見した場合よくて20年以上の懲役刑。最悪の場合、僕は銃殺刑です」

グラス中尉に続いてのミハエルとルカの言葉にシェリルは言葉を失った。

「そんな、ルカくん…。」

「シェリルさん、そんなに悲しい顔をしないで下さい」

シェリルに微笑むルカ。

「僕の実家のL.A.I、そこがディメンション・イーターのようなあんな恐ろしい物を作って、しかも首席補佐官やグレイスの悪事に荷担している。僕はその事を絶対に許しません」

「アルト先輩達のお陰で救われたこの命です、彼らの悪事を止める為ならなんだってやってみせます。大丈夫、ばれるようなへまはしませんから」

「ルカくん…」

ルカの決意に涙ぐむシェリル。

またルカの言葉を聞き、場に神妙な空気が流れた。

グレイス達の策謀により、反逆者の汚名を着せられたS.M.Sマクロス25。

しかしS.M.Sのメンバー全員がこのままでは終わらせないと心に誓っていた。

グレイス達の企てを打ち破り、必ずマクロスフロンティアに帰る、アルト達S.M.Sの確固たる決意である。

「ゴホンッ」

妙に雰囲気の良いルカとシェリルを見かねてアルトが咳ばらいをする。

その咳ばらいに我に帰る二人

「シェリル・ノーム准尉」

「は、はいっ!」

いつになく真面目なアルトの声に姿勢を正すシェリル。

「本日、一五三○時をもって貴官をS.M.Sスカル小隊の一員として正式に迎える」

アルトがシェリルに向かい敬礼する。

「Yes Sir!!」

シェリルがビシッと敬礼を返し、場内が拍手と歓声に包まれた。

「よろしくな、シェリル」

「ええ、アルト」

周りの喧騒をよそに固く握手を交わすアルトとシェリルだった。

おわり

あとがき:マクロスF第14話の放送に間に合わせたいと思いましたが、なんとかそのように出来ました。

“もしシェリルがスカル小隊に入るんだったらこんな展開がいい”

という思いで書き上げた次第です。ちなみに、今回登場させたシェリル専用のVF-25、カラーリングに関して元ネタがあります(そもそも“片羽の妖精”というネーミングも同じ元ネタから来ている訳ですが)

マクロス世界的に考えれば、シェリルのVF-25に一番イメージが近いのは

『SV-51γ イワノフ機』

のカラーリングなんですが、作者の頭にあったのは

『ラーズグリーズの英雄(亡霊?)+片羽の妖精(Solo Wing Pixy)』

だったりします。某フライトシューティングゲームに登場する戦闘機のカラーリングを二つひっつけたイメージがシェリルのVF-25だったりします。

マクロスF(アルト×シェリル)に関しては本編が思いっきりシリアス展開のため、本編から切り離して話を考えないと難しいかなという思いです。時節ネタなんかも書きたいかなぁというところです。

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二次創作マクロスF「Solo Wing Fairy」part2

2008年07月10日 01時25分14秒 | 二次創作小説

「お隣り、いいかしら?」

シェリルの言葉にアルトは黙ってうなずく。

カウンター席のアルトの左隣に座ったシェリルの顔を見てアルトはハッとした。

僅かだが目が赤くなり、少しやつれた顔立ちに彼女がつい先程まで泣いていた事を思い知らされた。

シェリルは黙ったまま持っていたミネラルウォーターのボトルに口をつける。しかしそれ以外何か言葉を発する訳でもなく、そして決してアルトの方を向こうとしなかった。

「…シェリル」

そこまで言ったものの、どう切り出せば良いか分からず言葉に詰まるアルト。

逆に話を切り出したのはシェリルからだった。

「アルト、私はどんなにあなたに戦う事を反対されても今の気持ちを変える気はないわ。わがままと思われようと身勝手な女と思われようと、この戦いから逃げ出したくないの」

アルトの方を決して見ようとせず言葉を紡ぎ出すシェリル。

彼女の発する言葉はゆっくりと、しかししっかりとした決意が込められた言葉だった。

その言葉を聞いて気持ちの整理がついたアルトが口を開く。

「シェリル、俺はあんたを戦場に出して死なれる事が怖かった。シェリルを失いたくない一心であんたの切実な思いから目をそらしたんだ」

そのアルトの素直な言葉にシェリルはようやく彼の方を向いた。その表情は驚きと嬉しさが入り交じったものだった。

「馬鹿ね、私がそんな簡単に死ぬ訳ないでしょ?そんなのだったら当の昔にこの世とお別れしているわよ」

アルトの優しさに触れ、その嬉しさで溢れそうになる涙をごまかそうと笑ってみせるシェリル。

しかし、すぐに何かを思い出したのか、シェリルは急にしおれてしまった。

「おい、大丈夫か?」

「ごめんなさい。今の私、考えてみたら“半分死んでいる”って思ったら切なくなっちゃって」

「半分死んでる?確かに俺やシェリル、それにミシェルも公には死亡扱いだけど」

「それもあるけど、ねぇアルト私のあだ名何か覚えてる?」

そう問われてアルトは考えを廻らせた。

「確か“銀河の妖精”だったよな?」

「ええ、そして今の私は『歌』という羽をもがれた“片羽の妖精”なのよ」

「片羽の妖精?」

「そう、今の私があるのは“歌”を歌ってこれたから。“歌”があったからここまで羽ばたいてこれた。けど今の私はその歌を奪われてしまったわ。“あの人”の手によってね」

シェリルが『あの人』という言葉を発した時、彼女が落ち込むのがアルトにも判った。

シェリルが長く信頼していたマネージャーのグレイス・オコナー、その彼女が一連の事件の黒幕の一端を担い、ましてシェリルを亡き者にしようとしていた事実はシェリルをおおいに落胆させていた。

マクロス25に来てからシェリルはグレイスの名を口にせず、“あの人”と呼んでいた。

「けどね、アルト」

そう話すシェリルの口調は少しだけ明るさを取り戻していた。

「私の羽は全てもがれた訳じゃないわ」

「?」

「今の私にはアルトやS.M.Sの人達がいる。そしてバルキリーという羽がある。だから私はまだ羽ばたく事ができる」

「そして“歌”という羽をもう一度取り戻すの」

シェリルの言葉を聞いてアルトは安堵していた。

シェリルの言葉を聞いて彼女の決意が確かなものだと確信を持てたからだ。

「けどシェリル」

アルトが口を開く。シェリルの決意が本当に本物か確かめる為に、あえてある質問をする事にしたのだ。

「“あの人”と対決することになってもシェリルは戦う出来るかい?」

アルトの言葉にシェリルの表情が固まる。

そしてシェリルは唇をキュッと噛んだ。

「ずいぶんと意地悪な質問をしてくれるわね、アルト」

そう言ってシェリルは一つ深呼吸し、言葉を続けた。

「“あの人”との対決、出来るわ、いやしなきゃいけないの」

「だってそうでしょ、私が知っているあの人が悪事を企て、何の罪もない人達を惑星一つ巻き込んで平然と殺してしまうような事をして、そんな事誰かが止めなきゃいけない。でも他の誰かじゃなく、自分で彼女と決着をつけたいの!」

そこまで言って感情が高ぶったのか、シェリルの目から涙が溢れはじめた。

鳴咽の為に言葉が続かずうなだれるシェリル。そんな彼女を見ていられず、アルトはシェリルを抱きしめた。

「すまない、シェリルの決意を確かめたかったとはいえ君に辛い思いをさせてしまって」

その言葉を聞いてアルトの腕の中でシェリルは静かに首を横に振った。

「出来ることなら私あの人に直接、問い質したいの。なんでこんな悪事を企ているのかって」

「知らないままなんてあまりにも目覚めが悪すぎるもの、プロになってすぐのころから私と共に歩んできたあの人があんな恐ろしい事をした理由を」

長らく自分と共に歩んできた敏腕マネージャー。その彼女が惑星一つを消滅させ、様々な謀略を企て、自分を亡き者にしようとした。その事実を目の前にしてもシェリルは心のどこかでグレイスの事を信じていたいと思っていた。

だからこそ、自分が直接彼女に問いただしたいとシェリルは考えていた。

「その為にも俺達と一緒に戦いたいと?」

アルトの言葉に頷くシェリル。

「それに…」

「それに?」

「私の為に戦ってくれる人がいる。そしてその人は私が好きな人。好きな人の力になりたいの」

その言葉を発した後シェリルはとんでもなく恥ずかしい台詞を吐いた事に赤面し、アルトの胸に顔を埋め、アルトはアルトでどう対処して良いか判らず、その場で固まってしまった。

そんな二人の様子を遠くから見守る人影が。

ミハエル・ブランとクラン・クランの二人である。

「なぁミシェル、これで良かったのか?」

「こうでもしなきゃあの二人いがみ合ったままになってたからな」

実はアルトにクランが接触したのはミハエルのアイデアだった。加えてシェリルにそれとなくレクリエーションルームに向かうよう仕向けたのもミハエルだった。

彼らを含めS.M.Sの人達はアルトとシェリルの関係をひそかに応援していた。だからこそ二人の喧嘩に心を痛めあれこれ裏工作をしていたのだった。

「そろそろ行こう、今の二人に気付かれたら後が怖い」

「そうしよう、ミシェル」

二人はアルト達に気付かれないよう、その場を後にした。

その後もしばらく抱き合うような形になっていたアルトとシェリル。先に口を開いたのはアルトだった。

「シェリル、きみのVF-25だけど、何かアイデアはあるのかい?」

「え!?」

「シェリルの空戦格闘術の高さを生かせる機体をチューンナップできないかと思ってさ」

「それならルカくんの協力を既に仰いでるわ」

「ルカの?」

ガリア4からアルト達が帰還したあと、スカル小隊のルカ・アンジェローニはひどく落胆する事になる。

グレイス・オコナーとレオン・三島の謀略を垣間見た為に、グレイスにキャサリン・グラス共々殺されそうになった事に加えて自分の実家であるL.A.Iで開発された人工フォールド断層発生装置、通称

ディメンション・イーター

がアルト達を抹殺する為にガリア4で使われた事を知り、すっかり気を落としてしまったのだ。

仲間の助けもあり何とか持ち直したルカだったが最近はハンガーに篭る事が多くなっていた。

「それであいつ、最近自由時間にあまり姿をみせなかったのか」

「こんなこともあろうかと彼にいち早く協力を頼んで良かった。実は明日の午後には仕上がる予定なの」

「意外と手回し早いんだな」

「まあね」

そんなシェリルの言葉を聞きつつ、室内の時計に目をやるアルト。時刻が午前0時少し前を指していた。

「シェリル、今日はもう遅い、そろそろ寝るぞ」

「了解です、隊長どの」

軽く敬礼をするシェリルの頭をアルトがコツンと小突く。

「調子に乗るな」

「はい」

部屋を出る際、シェリルがアルトの肩を軽く叩いた。

アルトの振り向き様にシェリルが彼の頬にキスをして、そのまま走っていく。

アルトは頬に残る柔らかな感覚の余韻を感じながら部屋を後にした。

つづく

あとがき:昨日のアルト×シェリル小説の続きになります。本当はシェリル専用VF-25のお披露目でしめとしたかったのですが、本編が長くなりすぎた為にその部分は後日掲載にすることにしました。

『そんなのどうでもいいじゃん』

と言われそうですが、シェリル専用VF-25はこの話を考えた時の肝の為、省くことが出来ませんでした。

マクロスF14話の放送も間近ということで本編も色々と楽しみな状況です。

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二次創作マクロスF「Solo Wing Fairy」part1

2008年07月09日 01時31分40秒 | 二次創作小説

マクロスFの二次創作小説ですが、この先

○本編から逸脱した独自展開
○極度のアルシェリ展開
○ネタ三昧

となっております。苦手な方は引き返す事をお勧めします。

-これまでのあらすじ-

ガリア4から帰還したアルト達。バジュラ艦隊も撃滅に成功するもバジュラ母艦に囚われていたランカ・リーは謎のバルキリー乗りブレラ・スターンに連れ去られ行方不明に。

しかもS.M.Sは再び現れたグレイス・オコナーと彼女と結託したレオン・三島の策謀により、ガリア4の崩壊の引き金を引いた張本人に仕立て上げられ、強制武装解除直前に辛くもマクロス25はフロンティアからの脱出に成功。

しかしオズマ・リーがこの脱出劇のさなかに深手を負い、アルトが新たなスカルリーダーに任命される事に。

一連の事件の裏にマクロスギャラクシーの存在が見え隠れするなか、マクロス25は手掛かりを求め、かろうじて判明した謎のバルキリーの行方を追っていた…。

マクロス25のレクリエーションルームの一角。

早乙女アルトは一人昼間の出来事を思い返していた。

「アルトの馬鹿!」

この日、アルトはシェリル・ノームと喧嘩になった。

当初(奇跡的に宇宙船で崩壊するガリア4から脱出出来たとしてフロンティアに再び現れた)グレイスによりアルト達共々ガリア4で死亡した事にされた揚げ句、グレイスと結託したレオンの配下に殺されそうになったシェリル。

アルト達S.M.Sの助けでマクロス25に匿われた彼女は自分もアルト達と戦いたいとアルトに懇願した。

しかし、アルトはシェリルの頼みを頑なに拒み、その結果激しい言い争いになったのだ。

ミハエルに窘められたアルトだったが、それに対してアルトは押し黙ったままだった

シェリルは昼以降自室に篭ったきりで一度も顔を合わせることがなく、一方、寝付けないアルトは同室のミハエルに申し訳なく思い一人レクリエーションルームで時間を過ごしていた。

「どうした、少年」

その声にアルトが振り返るとピクシー小隊のクラン・クラン大尉が視線の先にいた。

「大尉」

「ちょっと隣いいか」

アルトがうなずくとクランはマグカップを手に彼の隣に腰掛けた。

「大尉も寝付けないんですか?」

「まあな、色々ありすぎたせいかも知れないがな」

「それ、温めたミルクですか?」

「寝付けないときはこれに限る。まさかこの身体で酒という訳にもいかないしな」

そういってクランはカップの中身を一口飲んだ。

そして一息ついてアルトを見つめるクランの瞳はいつになく真剣だった。

「ミシェルから聞いたぞ、シェリルと昼間に喧嘩したそうだな」

「…。」

「一部隊を率いる人間が些細なことで喧嘩するとはな」

「些細なことじゃありません」

「些細なことではない?」

「彼女が無茶を言うからです」

「何が無茶だというのだ?」

「パイロット技能も不確かな人間がいきなり一緒に戦いたいだなんて無茶ですよ」

「ガリア4や先のバジュラとの戦いでの彼女の技量を見ても不確かと言えるか?」

クランが指摘するとおり、ガリア4やバジュラ艦隊との戦いの際、ミハエルの機体を任されたシェリルは類い稀な技量を見せていた。

「でも彼女は素人です」

「お前だって半年前はただの素人だった」

「うっ」

半年前のバジュラ襲撃事件、それを契機にアルトは戦場に身を置く事になったが、それ以前はバルキリー乗りを目指していたとはいえ一介の学生でしかなかった事をクランに突っ込まれだまるアルト。

「今の我々には少しでも戦力が欲しい。一体彼女が実戦に参加することの何が不満なのだ?」

「不満は、ないです」

「?」

「怖いんです、彼女をシェリルを失う事が」

アルトの言葉を聞いてクランはむっとした。そして少し語気を強めて話を切り出した。

「アルト、おまえは死にたくてここにいるのか?」

「えっ?」

「シェリルも死にたくて自ら戦場に赴きたいと思った訳ではあるまい。そして我々と一緒に戦いたいという決意が生半可なものではないことも判っているはずだ。何故彼女の気持ちを汲み取ってやれないのだ?」

「それは…」

「戦士なら、男なら仲間を戦友を守って戦い抜こうと何故思えない?今の貴様はあのオズマが認めた男とは到底思えないぞ」

クランの激しい言葉にアルトは返す言葉がなかった。シェリルの気持ちが生半可なものでないことはアルトも判っていた。

しかし、シェリルを失う事への恐怖から彼女の気持ちに目を背けていたアルトだった。

「もしシェリルの事が本当に好きなのなら、彼女の決意を信じてやれ。それが隊長のいや男としての責務だと思うぞ」

「…!!」

クランの言葉に目を丸くするアルト。思わずクランを凝視する。

「なんだ、その顔は?いくらニブイ人間でもあれだけ仲睦まじければ気付かないほうがおかしいと思うがな」

そこまで言ってクランはまたカップに口をつける。

そして何かの気配に気付き後ろを振り向く。

視線の先の人物に

『御武運を』

とウィンクしてクランは席をたった。

「大尉、もう行かれるんですか?」

「まぁ、な。私は邪魔になりそうだからお暇するとしよう。後はお前の頑張り次第だ、頑張れよ少年」

「大尉?」

部屋を出るクランを視線で追っていくうちにアルトは部屋の入口に立っている人物にようやく気付いた。

「…シェリル」

S.M.Sの制服を身に纏ったシェリル・ノームの姿がそこにあった。

つづく

あとがき:先週放送分で急転直下となったマクロスF。

今後の展開を妄想しつつ、アルシェリをメインに考えたのが今回のお話だったりします。

せっかくパイロットを目指すようになった以上、シェリルにはS.M.Sに入って貰いたいなぁという強い思いがあります。

それもあって今回のお話を書きました。

早くに続きを書きたいところです。

7月9日追記:タイトルを変更しました。

直訳すれば

「片羽の妖精」

というタイトルです(判る人にはわかるネタです)

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二次創作マクロスF「Mobiltelefon」

2008年06月22日 00時24分32秒 | 二次創作小説

「ねぇ、アルト」

「ん、どうかしたか?」

「あなたの携帯、見せて貰えるかしら?」

シェリル・ノームの泊まるホテルの一室。早乙女アルトはこの日も彼女の部屋を訪れていた。

揃って部屋でくつろぐ中、突然のシェリルの一言。アルトは

「ほら」

とズボンから愛用の携帯を取り出しシェリルに手渡した。

「あんまり変に弄るなよ」

「わかっているわよ」

そう言いつつアルトの青い携帯をためすながめつするシェリル。

「どうしたんだ、急に。人の携帯に興味持つなんて」

「私も携帯持とうかなって思っているの。それでね」

「そういえばシェリルって携帯持ってなかったよな」

考えてもみればシェリルとの連絡は以前はホテルの部屋にアルトから電話を掛けるぐらいで、最近では美星学園で直接会えるようになったこともあり電話でのやり取りそのものが無い状態だった。

「歌手になる前は携帯なんて持つ余裕なかったし、歌手になってからはグレイスが色々取り仕切ってくれるから持つこと無かったのよ」

「それにギャラクシーじゃ“携帯電話を持つ”って感覚が一般的じゃなかったし」

「?」

シェリルの言葉の意味が解らず困惑するアルト。

「グレイスが携帯を持っているところ見たことある、アルト?」

「いや」

そう言ってアルトは首を横に振る。

「ギャラクシーでは携帯を使うぐらいの経済力のある人なら大抵サイバネティック手術で通信装置を体に埋め込んでいるの。グレイスもサイバネティック手術を受けているから彼女の身体の一部が携帯そのものなのよ」

シェリルの言葉にマクロスギャラクシーの凄さを改めて思い知るアルト。

「でもなんだって急に自分用の携帯が欲しいなんて思ったんだ?」

「実はグレイスに

『いざというときの連絡手段を確保しておきなさい』

って注意されたのよ。ここ(フロンティア)に来てから勝手に部屋を抜け出したり色々心配を掛けることが多かったし」

「そういうことか」

「それに携帯があればフロンティアにいる限りいつでもアルトの声が聞けるから…」

シェリルのその一言に驚き、思わず彼女を見つめるアルト。シェリルのアルトの声をいつでも聞きたいという言葉は嬉しくもありまた恥ずかしくもあった。

「どうかしたの?」

「あ、いや、別に。それはそうとシェリル、どこの携帯会社にするかもう決めてあるのか?」

シェリルにつっこまれ照れ隠しに必死なアルト、とっさに話を逸らそうとする。

「それなのよ、問題は。確かフロンティアには三つ携帯会社があったのよね。ちょっと待ってて、アルト」

そう言って席を立ったシェリル。別室から数冊の冊子を抱えて戻ってきた。

「これって、携帯会社のパンフレットかい?」

「そう。携帯を持つのは初めてだし、何を基準にしたらいいのかさっぱりなのよ」

シェリルの言葉を聞きつつ目の前に置かれたマクロスフロンティアの携帯会社

  • ユーバーアルモバイル
  • ag(all galaxy)ネット
  • Sanft Kasse

のパンフレットに目を通すアルト。

各社それぞれに特徴があり、他の企業同様に移民船団という限られた市場でしのぎを削っている状態だった。

「どの会社も特徴があるし、携帯のデザインとかシェリルの好みで選んだら良いんじゃないか?」

とアルト。

「そうねぇ…。ところでアルトはどこの携帯会社なの?」

「携帯をよく見てみなよ」

そう指摘されアルトの携帯を見直すシェリル。携帯には

「Sanft Kasse」

の文字が刻まれていた。

「アルト、私どの携帯会社にするか決めたわ」

「決めたって、どこにするんだ?」

「アルトと同じところ」

「えっ!?そんな理由で決めていいのか?」

「“そんな理由”とは何よ。携帯会社選びに迷った時にアルトと同じ会社にしようと決めていたの。何か問題ある?」

その言葉を思いっきり首を横に振り否定するアルト。

「でもシェリル、確かユーバーアルのCMやっていなかったか?」

アルトの言葉通り、以前彼女はユーバーアルモバイルのCMに出演していた。

歌舞伎役者の家元に生まれ、CM等々の契約に関する話も耳にすることが多かったので諸々の契約上他社の携帯会社のユーザーになるのはまずいのではとアルトは思った。

「あ、あれ?もう半年以上も前に契約切れているから問題なしよ」

とあっさり返すシェリル。

「そうなれば決まりね。今度契約をしに行く時にアルトもつき合って貰えるかしら?」

「もちろんさ」

後日シェリルが携帯会社を訪れた際、突然の歌姫の訪問に店側が密かにパニックなったという。

携帯電話というありふれたツールもシェリルにとって大切な思い出の品となるのでした。

おわり

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

あとがき:しばらく小説を書くのをお休みしていた管理人です。久しぶりのアルト×シェリル小説ですが、上手く書けたのか内心不安な状態です。

「シェリルが携帯使っているシーンって今まで無かったよなぁ」

という思いから思いついたネタなんですが、実際にシェリルが携帯を使いたがるかは書いた本人が言うのもなんですが疑問だったりします(アルトの声が聞きたいなら直接会いに行きそうなので)。

携帯会社のネーミングやらなにやらは完全なネタです。実在の携帯会社とは一切関係ございませんのでご了承下さい。

マクロスFに関しては書きたいネタがまだまだあるので頃合いを見てアップしていきたいところです。

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二次創作マクロスF「A rainy day」part2

2008年05月25日 19時13分22秒 | 二次創作小説

「ギャラクシーでも一応天候の変化はあったわ」

「でもその変化ときたらものすごく在り来りで日常生活に影響も殆どなかった」

アルトにマクロス・ギャラクシーの天気について聞かれたシェリル。

ギャラクシーの事を振り返りながら語るシェリルの口調はどこか淋しげだった。

「とくに特徴的なのは“雨”だったわ」

そういってシェリルは窓に視線を向ける。雨が先程と相変わらず窓を濡らしていた。

「雨?」

アルトもつられて窓に視線をやる。

「ギャラクシーでは夜にしか雨が降らなかったの」

「夜だけ?」

「子供の頃は知らなかったけど経済活動への影響を少なくする為と雨そのものに環境維持の薬剤が含まれていて、人体への影響は少ないんだけれどなるべく影響を避ける為に人の活動が少ない夜間に雨を降らせていたのよ」

「なんだか凄まじいな」

「ええ、でも歌手になって外の世界を知るまではそれが当たり前だって思ってたわ」

そこまで言ってシェリルはふと何かを思い出し、アルトに視線を向ける。

それに気付いたアルトもシェリルに視線を合わせた。

「ねぇ、アルト。あなた私がなんで雨を嫌っているか不思議だって言ったわよね?」

そう言われてアルトは昨晩の事を思い出した。

雨でもショッピングに行くのに問題はないだろうというアルトに対してシェリルは頑なに外出を嫌がり、アルトはそれが不思議でならなかったのだ。

「あ、あれはちょっと俺が気にし過ぎただけで…」

シェリルに申し訳ないことをしたのではと少したじろぐアルトだったが、とうのシェリルはそんなアルトの反応が可愛かったのか、クスリと笑ってみせた。

「いいのよ。せっかくだからその理由も教えてあげましょうか?」

「えっ?」

驚くアルトを尻目にシェリルは話始めた。

「私ね子供の頃、施設のベッドの中で聞く雨音が凄く嫌だった」

「決まって真っ黒な空から雨粒が降り注いで、それが一晩中続いて。得体の知れない何かに心も身体も蝕まれる、そんな錯覚に陥ったわ。だから今でも雨は苦手なの」

「それであんなに雨の中の外出を嫌がったのか」

アルトの言葉にシェリルは黙ったまま頷く。その姿は先程と違いすっかり元気を無くしていた。

「ごめんなさい、自分で教えてあげるって言って話したのに色々昔の事を思い出して勝手に切なくなっちゃって」

「シェリルが謝る事なんかないさ」

そういってアルトは席を立つとシェリルの横に腰掛けなおす。

「俺の方こそシェリルに謝らないといけないさ。嫌な思い出話させてしまって」

その言葉にシェリルは今度は横に首を振った。

「確かに嫌な思い出だけど、どんなにギャラクシーが最低な場所でも、私の過去が嫌なものでもあそこは私の故郷だし、私が歩んできた道。アルトにはそれをきちんと知っておいて欲しかったから」

「そうか…」

アルトはそっとシェリルの体を引き寄せ、ギュッと抱きしめた。

「アルト?」

「もしかしてギャラクシーはもう駄目なんじゃないかって思ってないか?」

「えっ!?」

「誰もギャラクシーの話題に触れたがらないのも、シェリルがギャラクシーの事を話して落ち込んでしまうのも『ギャラクシーの生存はもう絶望だ』って思っているからじゃないか?」

アルトの言葉にシェリルは返す言葉がなかった。

シェリル自身、公の場ではギャラクシーの生存を信じていると発言していたが、内心ではギャラクシーの生存を絶望視していたのだ。

「“希望のない奇跡を待って、どうなるの?”ってシェリルは歌っているけど、こんな時ぐらい奇跡を待ってもいいんじゃないか?誰かそういう奴がいたっていいと思うぞ」

アルトが楽観論を語る筈がない。シェリルにはそう思えた。

自分を元気づけようという彼なりの配慮だということは薄々シェリルは感じていた。

しかしアルトの言葉が例えどんなに気休めにしか過ぎない言葉であってもシェリルには今そういってくれるアルトが嬉しくてたまらなかった。

「ありがとう、アルト」

そのまましばらくシェリルはアルトに抱きしめられたままでいた。

彼の温もりが優しく彼女を包み、雨は相変わらず窓を濡らしていた。

-そして-

「やった!これで私の三連勝ね」

持ち駒を手に満面の笑みのシェリル。

「なんで、ど素人相手に勝てないんだ!?」

ガックリと肩を落とすアルト。結局将棋でもシェリルにボロ負けするアルトでした。

おわり

あとがき:相変わらず余裕がない管理人です。週末にあれこれ出来たので多少は落ち着いた感じですが、月内下手をすれば来月初めぐらいまでドタバタしそうです。

アルト×シェリル小説の第二弾です。シェリルの過去話とか捏造しすぎな感じではあります。まだ自分自身、マクロスFの第八話を観ておりません。(それどころではなかったというのが実際です)

伝え聞く話だとものすごい展開だったそうですが、何とか九話放送前に観たいところなんですが実際どうなるかかなり微妙な感じです。

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二次創作マクロスF「A rainy day」part1

2008年05月21日 23時16分32秒 | 二次創作小説

「これが“歩”で、これが、“角”?」

「そう、チェスでいう“ポーン”と“ビショップ”」

シェリルが本黄楊で作られた将棋の駒を手に取り、それぞれの役目をアルトが説明している。

マクロス・フロンティアのホテルの一室、シェリル・ノームが利用しているこの部屋でアルトとシェリルの一対一の将棋講座が行われていた。

この講座、もともとシェリルにチェス勝負を挑まれボロ負けしたアルトが何とか彼女に一矢報いろうと得意としていた

「将棋」

で勝負を挑もうと考えたのがそもそもの始まりだった。

チェスと将棋ではルールが似て非なるのでその説明のために実家からこっそり将棋の駒(本格仕様の将棋盤は持ち出せないので安物の折りたたみできる物で代用)を持ち出してきたのだ。

しかし、この日アルト達がホテルの一室に詰めていた理由は別にあった。

将棋の駒をためすながめつしていたシェリルがふと窓に目をやる。

「よく降るわね」

さびしそうにシェリルがつぶやく。ホテルの大きな窓を雨が打つ。この日のアイランド1は珍しく雨だった。

人工的に地球環境を再現している大型移民船では当然天気もコントロールされている。

やりようによっては一年中同じ天候にする事も可能なのだが、直前にならないと天気の予定を発表しない、あるいはコンピューターがランダムに算出したスケジュールに基づいて天候をコントロールするという天候管理が当たり前になっていた。

マクロス・フロンティアをはじめとする移民船団は最終的には居住可能な惑星への移住を目標としていて、当然そのような惑星では気象のコントロールは不可能であり、また年がら年中晴れの天気になるなどありえる話ではなく、将来の移住惑星において

「天気の完全な予測、またコントロールが不可能であることを認識させる」

教育の一環としてこのような政策が採られていた。

もちろん天気といっても災害が発生するほど強烈なものはなく、雨の日や風が強い日、暦によっては暑い日や雪の日など市民生活に重大な支障が出ない程度の気象コントロールが行われていた。

とはいえ、直前にならないと天気が判らないために天候のために予定を立て直す羽目になるなど市民への影響がゼロではなかった。

この日、本当ならアルトはシェリルのイヤリングをなくしてしまった詫びとして(マクロス・ギャラクシー船団救出作戦の際にシェリルから託されたイヤリングを乗機もろとも吹っ飛ばしてしまったので)ショッピングに付き合う予定だった。

しかし、前日になって天気が雨になると発表され、シェリルが雨を嫌がり急遽将棋講座となったいきさつがあった。

「まさか、昨日の晩になって『明日、明後日は雨になります』なんて言われるなんて思わなかったわ」

シェリルが愚痴をこぼす。

「仕方ないさ、ここ(フロンティア)では天気計画が変わるなんていつもの事だし」

シェリルに向かいあって座り、テーブルの上の将棋盤に駒を並べていたアルトが答える。

「そういえば、マクロス・ギャラクシーでは天気どうなっていたんだ?」

アルトの何気ない質問。しかし、自分でその質問を発した直後アルトは

<しまった!>

と思い将棋盤から視線を外すことも駒を並べることも出来なくなった。

もし今シェリルをみたら彼女が悲しげな顔をしているかも知れない、そう思うとアルトはいたたまれなかった。

マクロス・ギャラクシー船団の救出作戦は事実上の失敗に終わっていた。

S.M.Sマクロス25を基軸とした救出部隊の活躍もあり、ギャラクシー所属の新統合軍の残存艦艇の救出は成功したものの、肝心のマクロス・ギャラクシー本隊は影も形も、その残骸すら発見出来なかった。

残存艦の乗組員の証言もバジュラ襲撃の混乱も手伝い、全く要領を得なかった。

バジュラ襲撃の可能性がある以上、捜索の為の艦艇を割くことも出来ず、バジュラがどこから来ているのかすら判らない現状では捜索のあてもなく、マクロス・フロンティアは警戒体制を維持しつつ現在に至っていた。

シェリルとマネージャーのグレイスは帰るべき故郷が行方不明になり、今もフロンティアに滞在している。

アルトもアルトなり気を使い、ギャラクシーの話題に触れないようにしていたのだが、ついギャラクシーの事を口にしてしまい、激しくその事を後悔した。

「アルト」

そう呼ぶシェリルの声は明らかに苛立ちを含んでいた。

アルトが顔を上げるとどうみても不機嫌な様子で彼を見つめるシェリルの姿が目に入った。

「あなたまで私に変な気遣いをする気なの?」

「シェリル…?」

「貴方が考える程、私はやわな女じゃないのよ」

「すまない、シェリル。君に悲しい思いをさせたくなくてさ」

その言葉を聞いて納得したのか軽く息を吐くとシェリルの顔に笑顔が戻った。

「ごめんなさいね、貴方の気持ちも知らないで。ギャラクシーが行方不明と判ってから誰もがギャラクシーの話題に触れるのを避けていてそれが凄く嫌だったの」

そう言うシェリルの言葉にはどこか悲しさを含んでいた。

そして手にした駒をそっとテーブルに置く。

「せっかくだから貴方の質問に答えてあげる」

つづく

あとがき:何かと忙しくてドタバタしている管理人です。おまけにIEの調子も変でちょっと参ってます。

マクロスFの二次創作小説の第二弾になります。アルト×シェリルです。一気に掲載しようと思ったのですが結構長くなったのであえて分割しました。

フロンティアの天気のこととかギャラクシー船団の行方とか全くの捏造です。ギャラクシー船団の安否については今度の放送分で明らかになるのでしょうが、シェリルがまだフロンティアにいることを考えても無事では済まなかったと思ってます。

チェスと将棋に関してはシェリルがもし雨のOFF日に何をやっているのか想像した際にとっさにひらめいたことだったりします。将棋は洋に対する和、アルトが純日本的な存在なのに本編だとそれが殆ど出てこないので和らしいものということで考えてみました。

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二次創作マクロスF『FRONTIER ACES(フロンティア エイセス)』vol.5

2008年05月14日 01時46分00秒 | 二次創作小説

僅かな振動と後部座席のパイロットの吐息の音だけが聞こえる。もうすぐ戦いが始まろうというのに驚くほど静かな世界。

ふいにバイザーを上げ、深く息を吸い込む。

そして…。

「あたしの歌を聴けぇえええ!!」

そのかけ声とともに新統合軍の通信に突如

「射手座☆午後九時 don't be late」

の音楽が割り込み、新統合軍C.I.Cに混乱が起きた。

はぐれゼントラーディとの接触を目前にした状況下で突然の事態に当直士官は驚きと怒りを隠せなかった。

「一体何事だ!!」

「かなり広範囲の周波数帯に向けてこの音楽が流れています。どうやらこれ、シェリル・ノームさんの歌のようですが…」

当直士官の問いにオペレーターが答える

「それは言われんでも判る。一体この通信の出所は?」

「それが、S.M.Sの艦からのようです。主にゼントラーディ軍で使用される周波数帯に向けられています」

「S.M.S?一体連中何を…!?」

新統合軍もS.M.Sの航空隊がはぐれゼントラーディの艦のすぐ近くにいることは確認できていたがこのような行動に出るとは想像もしていなかった。

ゼントラーディ軍に対して「歌」が戦意喪失など戦闘を優位に進めるために一定の効果があることは知られていた。

しかし目と鼻の距離まで接近されて尚かつ臨戦態勢をとっている敵軍に対して「歌」を用いることは効果が出るまで待つのは危険すぎると考えられていた。

にもかかわらず民間防衛組織の艦から突然「歌」が流れ出した事は当直士官にとっては不可思議でしかたがなかったのだ。

「作戦に支障が無い限りこの通信は無視しろ、前衛部隊が敵と接触するまであと何分だ?」

「あと、5分です」

そのころオズマとクラン達ピクシー小隊はミハエル、ルカ両名のVF-25と接触を果たし、突入のタイミングを伺っていた。少し離れたところではカナリアの乗るVB-6が同じように突入のチャンスを伺っていた。

通信機からは広周波数帯でシェリルの歌声が流れている。

シェリルが提案した作戦はこうだ。自分が歌を歌うことで文化や歌に免疫のないゼントラーディ人にショックを与え、少しでも攻撃の手をゆるめさせる。その隙にオズマとカナリア、それにクラン達がアルト機の撤収に障害となりうる敵機を一掃。

ミハエルとルカの機体が援護する形でアルト機が撤退、後は新統合軍の無人機&バルキリーに任せてその場から逃げ出すという作戦だった。

「隊長、敵の様子が変です。どうやらシェリルさんの歌、効いているみたいです」

ルカから通信が入る。

「まったくあのお嬢さんには驚かされるな」

「我々ゼントラーディ人より肝が据わっているのかもしれんな」

当初シェリルの提案に否定的だったオズマとクランだったが、このような状況下できちんと歌い続けているシェリルと実際に効果が出だしていることに驚きを隠せなかった。

「よし、そろそろ全機突入するぞ。ミシェル、アルトへの通信頼んだぞ」

「了解です、隊長」

<…まったくなんて奴だ>

シェリルの圧倒的な歌声に包まれてアルトはそう思わずにはいられなかった。前座ではシェリルが夢中で「射手座☆午後九時 don't be late」を歌っている。

レーダーで敵の動きを追ってみると先ほどとは明らかに挙動がおかしい。どうやら歌の効果が出ているようだ。

こんな状況下で歌うことの出来るシェリルにアルトは畏敬の念を抱いていた。そこへミハエルから通信が入る。歌で音声が聞き取りにくいことを考慮して手信号で自分たちがまもなく突入することを伝えてきた。

アルトも手信号でその旨を了解したことを返信し、今度はモニター越しにシェリルに手信号(といってもごく簡単なものを)送った。

モニターにシェリルがうなずくのが見える。打ち合わせではミハエル機とルカ機が直下に到着次第離脱する手筈となっている。それに備えアルトは操縦桿を握りしめた。

「よし、全機突入!!」

オズマの合図と共にS.M.Sが突入を開始する。オズマ機がはぐれゼントラーディの戦闘ポッドに接近するが相手は一向に発砲する気配がない。戦闘ポッドのすぐ脇をオズマ機はそのっま、すり抜けてしまった。

「…これは。クラン、カナリア、敵ポッドは無視してこのままノプティ・バガニスに突っ込むぞ」

「おい、こいつらは放っておくのか?」

カナリアが尋ねる。

「こいつら完全に戦闘意欲を失っている。注意は必要だがこのまま敵母艦にちょっと脅しをかけてやる」

「脅し?」

「そうだ、軍人らしいやり方がないが上手くいけば必要以上に血を流さなくて済むかもしれん。ミシェル、ルカ、おまえ達はこのままアルトのところにむかえ」

「「了解!」」

ミハエルとルカのVF-25は敵部隊をやり過ごしアルトともとへと急ぐ。そしてオズマとクラン達は全く抵抗を受けないまま、ノプティ・バガニスの表面に取り付くことに成功した。遅れてカナリアのVB-6が到着するがあまりの重さ(100トン以上)に敵艦の装甲を踏み抜いてしまった。

「これからどうするのだ?この数の機体で一斉砲撃を仕掛けてもある程度ダメージを与えたところで撃沈など無理だぞ?」

カナリアが再び問いただす。

「沈める気はない。敵さんお嬢さんの歌に相当なショックを受けているらしい。ど派手に攻撃してやれば降伏を考え直すかもしれん」

「上手くいくとはかぎらんぞ」

「それでもやってみるさ」

先の治安部隊との戦闘でこのノプティ・バガニスが投降の呼びかけを無視して逃走したことをオズマは聞いていた。上手くいけば恐れをなして降伏するのではと考えたのだ。

「よし、一斉攻撃開始!!」

オズマ機のミサイルポッド、ピクシー隊のクァドラン・レアの砲門、VB-6のレールキャノンが一斉に火を噴く。

それと時を同じくしてミハエル達がアルトと合流。アルトは機体を発進させることを手信号でシェリルに伝える。体を踏ん張るシェリル。その間もシェリルはずっと歌い続けていた。

アルトが機体を操作し、ノプティ・バガニスから離脱する。ミハエル達を伴って敵艦を離れるのと敵艦上層部で大規模な爆発が起きたのはほぼ同時だった。

ノプティ・バガニスの構造は同型艦が新統合軍に在籍していたことから詳しく判っていた。艦上層部のエネルギータンクとその周辺を狙って砲撃を喰らわせたことで周囲が連鎖反応的に吹き飛んだのだ。

とはいえ巨艦であるノプティ・バガニスにとっては然したるダメージにはなり得ない爆発ではあった。爆発に紛れる形でオズマ達も撤収する。

そしてようやくシェリルが歌い終わった。

「お疲れ、シェリル」

「ありがとう、アルト。これって上手くいったと考えてよいのかしら」

「ひとまずは」

「どうやらアルトもお嬢さんも無事のようだな」

オズマから通信が入る。全員が無事帰還できて内心胸をなで下ろしていた。

「心配かけました、隊長」

「気にするな。まぁあとは向こうさんの出方次第か…」

「ちょっと、皆さん聞いて下さい!」

「どうしたんだ、ルカ?」

同じ頃新統合軍C.I.Cは予想外の展開に戸惑っていた。

「降伏?」

「はい、S.M.Sの機体が当該宙域から離脱した直後に」

「ゴースト隊とバルキリー隊を直ちに引き上げさせろ!」

「了解!」

後僅かで新統合軍部隊とはぐれゼントラーディの部隊が接触するというところでゼントラーディ側から降伏する旨の通信が届いたのだ。すんでのところで全面衝突が回避され、当直士官は安堵する一方でまたしても民間人にお株を奪われたことを苦々しく感じていた。

はぐれゼントラーディ達はシェリルの圧倒的な歌声に相当なカルチャーショックを受け、早い段階で戦意を完全に失っていた。

加えてオズマ達の攻撃による爆発の衝撃と敵の本隊(無人戦闘機ゴーストの大編隊)が接近中であることを察知してこれ以上の抵抗が無理だと思うにいたり、あっさり降伏したのだった。

S.M.Sにアルト達が帰還する。一番最初に格納庫に戻ったのはアルトの機体だった。

「どう、私のコンサートを特等席で聴けた感想は?」

「それが、操縦に夢中だったからあまり…」

「何ですって!?」

「あ、いや本当良かったよシェリルの歌」

「こんなサービス、滅多にしないんだから」

機体が駐機位置につき昇降用のタラップが設置される。シェリルはそそくさと機体から降りていった。

<…何を急いでいるんだ?>

そう思いつつ機を降りたアルトだったが機体からさして離れていない場所にシェリルが立っているのに気づき近寄った。

「シェリル、どうしたんだ。そんなところに…」

そこまで声を掛けてアルトはシェリルの異変に気づいた。うつむき加減だったが明らかに顔から血の気が引き、体が小刻みに震えている。

「おい、どうしたんだ、顔色悪いぞ」

「な、なんでもないのよ。ただちょっと…あなたにこんな姿、見られたくなくて…」

そこまで何とか言えたシェリルだったが自分の体のふるえを止めようと体をぎゅっと縮めるようにしてそのまま何も喋れなくなってしまった。

それを見たアルトは気づいた。彼女が今の今までずっと恐怖を誤魔化してあれだけ力強く歌っていたことを。そして無事戻ってこれたことでかえってこれまで押さえ込んでいた恐怖に今にも潰されそうな事に。

アルトは何も言わずそっと近づくとシェリルをぎゅっと抱きしめた。

「…!!」

「無理すんな。大丈夫、俺がついているから。シェリル、素敵な歌を聴かせてくれてありがとう」

「アルトぉぉ」

アルトの力強い腕に抱きしめられ、彼の優しい言葉を聞いて今まで張りつめていたものがほどけたのかシェリルは彼の胸の中でわんわん泣き始めた。おそらく今までずっと泣きたくても泣けなかった分も含めて。

「やるなぁ、姫も」

「ホントですよねぇ」

後から帰還したミハエルとルカが二人の姿を見つけ感慨にふける。

ところが、少し離れた場所からアルト達の様子を写真に撮っている人間がいた。デイリー・フロンティアのジュネットである。

単なるアイドルの同行取材と思っていたら銀河の歌姫と民間軍事企業の若者との睦まじい姿という大スクープに出くわしたのだ。記者魂が動かずにはいられなかった。

必死で写真を撮る内にいきなり人の姿が現れ、アルト達が隠れて見えなくなった。

「ちょっと、困りますよ。せっかくのスクープなのに…!?」

ファインダーから視線を外してジュネットは驚いた。

グラス中尉、オズマ、グレイスの3人が目の前にたっていた。3人とも微笑んではいるが目が笑っていなかった。

「困りますね、あの機体(VF-25)は最新鋭機で軍事機密に属します。勝手に撮影すると軍事機密漏洩の罪であなたを拘束しないといけません」

とグラス中尉。

「俺達は一応民間企業だが、民間企業でも『企業秘密』ってものがあるんだ。困るんだよなぁ、勝手に撮影されては」

とオズマ。

「あの、シェリルのプライベートを暴きたいってお気持ちは判らないでもないですが、忠告しておきますけどたとえ記者さんでも下手なものを発表したら社会的・生物学的に抹殺されますよ」

とグレイス。

「ちょっと待ってくださいよ、これは正当な報道の自由であって、フロンティア市民が知る権利の手助けを…」

「人のプライベートを好き勝手暴くのが『報道の自由』とやらなのか?」

自分の前にいる3人とは別の声にジュネットは驚き後ろを振り返った。クラン・クランが彼を見下ろしていたが、オズマ達とは違い、クランは本気で怒った顔をしていた。その表情に凍り付くジュネット。

「ともかく、あなたが撮影したものは新統合軍で一旦検閲します。クラン大尉、彼を別の場所へ連れて行ってください」

「了解した」

グラス中尉がジュネットからカメラを取り上げ、クランがジュネットをつまみ上げた。

「ちょ、ちょっとこれはないですよ!!」

ジュネットの声が格納庫内にむなしく響いた。

「若いっていいわね」

「まぁな」

グラス中尉がオズマに話しかける。

「私たちもああいう時期あったわよね」

「…!まぁアルト達は俺達と違って上手くやれるさ」

グラス中尉のツッコミに思わず赤面するオズマ。ごまかそうとグレイスに話をふった。

「マネージャーさん、あんたはいいのかい?」

「なにがです?」

「あの二人の関係さ」

「私とシェリルは仕事上のパートナーです。プライベートにズケズケと踏み込んだりはしません。それにシェリルが幸せになってくれるなら私もそれが一番嬉しいですし」

アルトとシェリルが本人達の意識は別として親密な関係にあるのはS.M.S、シェリルの関係者双方の公然の秘密となっていた。

オズマ達も二人の関係を影ながら応援していた。

「これでまた最初から撮影し直しですね」

モニタールームに残っていたグッドスピード大尉は頭を抱えていた。せっかくの最新鋭機を使ったデモ飛行撮影がはぐれゼントラーディ出現という事態にすべて吹っ飛んでしまったと思ったからだ。

無人追跡カメラも戦闘に巻き込まれて撮影どころではなかった筈で、また撮影プランの練り直しをしないといけないとグッドスピード大尉は陰鬱な気持ちだった。

「あの、大尉」

グッドスピード大尉の部下が声をかけた。

「どうかしましたか?」

「これを見てください」

「これは…!!」

後日、当初の計画とは違う形で新統合軍プロモーションビデモ

『FRONTIER ACES』

は完成した。全滅したと思われていた無人追尾カメラが全て無事で期待以上の映像が撮影できていたのである。

中途S.M.Sの部隊が映像に加わる構成になっていたことに軍の一部から不満は出たものの、グラス中尉やグッドスピード大尉の尽力もあり

『軍・民間共同の元でフロンティア市民の平和に寄与している』

と新たなメッセージも加えられマクロス・フロンティアだけでなく、ネットを通じて銀河系各地の移民船団、移民惑星にも広く配信されシェリルの人気もあって新統合軍のキャンペーンに貢献することとなる。

アルト達はビデオ内で一切顔も名前も出ることは無かったが、大役を果たせた事を誇りに思っていた。そしてアルトもシェリルも互いに一つの仕事を一緒にやり遂げた事を心から嬉しく感じていた。

おわり

あとがき:長かった個人的に初のマクロスF二次創作小説ですが、ようやく終わることが出来ました。

  • アルト×シェリル推奨
  • シェリルに歌わせながらバルキリーに乗せるorバルキリーに乗せて活躍させる
  • VB-6を活躍させる

を目指して話を書き始めましたが、途中で内容を大幅に練り直す(当初グッドスピード大尉に相当するキャラが別におり、その人物がシェリルのストーカーで「かわいさ余って憎さ百倍」でプロモーションビデを撮影に託けてシェリルの命を狙うという話を考えていたのですがやめた経緯があります)ことになったりと完成までにだいぶ時間がかかりました。

基本的にアルト×シェリル推奨なので、そこを目指せればと思ったのですが上手くやれたか読んで頂いた方にゆだねたいと思います。

本編がかなりハードな展開になっている状態ですが、こちらとしては基本ほのぼの系でマクロスFの二次創作を書けたらなと思う次第です。

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二次創作マクロスF『FRONTIER ACES(フロンティア エイセス)』vol.4

2008年05月11日 19時19分06秒 | 二次創作小説

ノプティ・バガニス

ゼントラーディ軍の戦闘艦の中でも艦隊指揮用として運用される艦で全長約4キロという巨艦(ゼントラーディ軍の中では中型クラス)である。

第一次恒星間戦争で人類と共闘したブリタイ・クリダニクの座乗艦としても知られ、後に新統合軍において地球の技術を用いて改良された「ノプティ・バガニスbis級」が運用されるなど知名度の高い艦である。

<…一体何が起きたんだ…!?>

そう思ったアルトだったが前座のシェリルの事が瞬時に頭をよぎった。

「おい、シェリル、大丈夫か!」

「…アルト?」

「大丈夫か、シェリル」

「大丈夫、だけど。ねぇ、もしここが地獄なら起こさないで。天国ならもう少しあとにして」

モニター越しにうつむき加減の姿しか見えないがどうやら無事だということは判った。

「馬鹿、お互いまだ死んじゃいないよ」

「…一体何があったの?」

そう言われてアルトは自分達が置かれた状況を振り返った。目前に現れた巨艦、回避できないと判るや否やVF-25をガウォーク形態に変形させ制動をかけようとしたもののそのまま艦に突っ込んでしまったところまではアルトも記憶していた。

どうやらぎりぎりで制動が効いて機体も自分達の体も無事のようだったが、具体的な状況は全く掴めなかった。

辺りを見渡すとどうやら大型艦の表面に不時着しているようだった。機体のチェックをしようとコックピット内を見回したとき、通信が入っている事にアルトは気づいた。不時着のショックで通話のスイッチが切れてしまっていたのだ

「こちらアルト」

「おい、アルト大丈夫か?シェリルさんはどうしている?」

「…!ミハエルか?こっちはお互い無事だ。そっちは?俺達一体どこにいるんだ?」

「俺もルカも無事だ。近くの小惑星に身を隠している。アルト達の機体、コバンザメみたいにノプティ・バガニス級の腹にへばり付いている状態だぞ」

「ゼントラーディ軍の大型艦の下部?なんでそんな艦が?」

「どうやら厄介なお客さんがやってきたらしい」

「厄介な客?」

「“はぐれゼントラーディ”です」

アルトとミハエルの会話にルカが割り入る。

「はぐれゼントラーディだって?」

「一週間前に軍の治安部隊とはぐれゼントラーディの艦隊との交戦があった報告があります。一部が撃破、また投降したんですが戦闘宙域から離脱したノプティ・バガニス級が確認されているんです。どうやら逃げ出したはぐれゼントラーディの艦がここにやってきてしまったようです」

「ちょっと、アルト!」

アルト達の会話に今度はシェリルが割って入った。

「なんだよ、こんな時に」

「私にも判るように説明してよ。私だって当事者なのよ。だいたいはぐれゼントラーディって何なのよ、クランさん達とはちがうの?」

「残念ながら違う」

「クラン大尉?」

アルトが聞いたクラン・クランの声はどこか悲しげだった。

「本来のゼントラーディ人がどういう存在か、知っているか?」

「ええ、かつてプロトカルチャーによって創造された戦闘を行う事だけが目的の種族なのよね」

「そうだ、そして彼らは指揮系統が失われた際は他の部隊と合流することが常だが合流に失敗した艦隊や部隊は闘争本能の赴くままに戦いを繰り返す。それがはぐれゼントラーディだ」

「そうなんだ…えっ何!?」

その時、ノプティ・バガニスの船体が僅かに振動を始めた。各所からゼントラーディ軍の戦闘ポッドが次々と発艦していく。

「どうやらのんびりと講義をたれる余裕はなくなったぞ。モニカ説明してやれ」

通信機からオズマ・リーの声が響く。

「皆さん、聞こえますか?」

通信機からオペレーターのモニカの声。

「先ほどはぐれゼントラーディの艦から多数の戦闘ポッドの発進を確認。艦共々フロンティア船団を目指しています。統合軍も無人戦闘機隊とバルキリー隊をそちらに向かわせています。あと10分で皆さんのいる宙域が戦闘宙域に入ると思われます」

「それって…」

「このままじゃ俺達の命が危ないってことさ」

シェリルの言葉にアルトが応える。

「けど今そこを離れるのはもっと危険かも知れません」

「ルカくん?」

「既に周囲に戦闘ポッドが展開していて今飛び出したらそいつらに加えてノプティ・バガニスから集中砲火を浴びる危険があります」

「そんな…」

ルカの説明にショックを受けるシェリル。

「もうすぐ俺とカナリア、それにクラン達ピクシー小隊がミシェル達に合流する。その後俺達が展開している敵部隊に陽動を仕掛ける。その間におまえ達は脱出しろ」

「了解」

オズマの命令を了承したアルトだったが前座からのただならぬ気配に背筋が凍った。

「…アルト、隊長さん達を危険にさらしておめおめと逃げ出す気なの?」

「シェリル?」

「私は嫌よ。隊長さん達に何かあって一生目覚めの悪い思いをする羽目になるのは」

「シェリル、俺達はあんたを無事帰還させなければならない、どんなことがあっても。それが今の任務だ。それに戦いに身を置いている以上皆死ぬ覚悟は出来てる。こんな時にわがままを…」

「わがままなんかじゃない!私は自分のために誰かが死ぬなんて嫌なの!隊長さん達にも、あなたにも!」

シェリルの激昂にさすがのアルトも言葉が続かなかった。

「だが、この状況をどう乗り切ろうというのだ?」

クランが問いただす。

「クランさん、私が誰か忘れたの?」

不敵な笑みを浮かべるシェリル。

「ねぇグレイス、聞いているんでしょ?」

突然の事態に呆然と推移を見守るしかなかったグレイスだったがシェリルの声に我に返った。

「なんです、シェリル」

「今から言うもの、すぐに用意できる?」

シェリルがリストアップしたものをメモに取るグレイス。

「幸いなんとかなりそうです」

「ありがとう、グレイス。頼りにしてるわ」

「それからグラス中尉」

「なんです?」

「軍の通信に関して色々して貰えるかしら?」

「…この際です、何とかしましょう」

その後、オズマ達にも色々と指示を出すシェリル。オズマ達にも戸惑いはあったが、シェリルの提案に賭けてみることにした。

そのやりとりを黙って聞いていたアルトだったが、彼女のやろうとしている事がにわかには信じられなかった。

「おい、シェリル」

「なによ」

「本気なのか?」

「…こんな状況で冗談をやろうなんて思うほど変人じゃないわよ、私。前にも言ったでしょ、自分の運命は自分で切り開くって。あなたにもしっかりやって貰わないといけないんだから」

「…了解!」

ここまで来たら一蓮托生。アルトも覚悟を決めるほかなかった。そしてそれ以上に彼女の提案に言い表しきれない高揚感を感じていた。

つづく

あとがき:すいません、前回のあとがきで「次回で終了」と書きましたが、結構長くなってしまったため話を分割することにしました。

次回で「歌手シェリル・ノーム」の本領発揮といきたいです。

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二次創作マクロスF『FRONTIER ACES(フロンティア エイセス)』vol.3

2008年05月08日 22時38分03秒 | 二次創作小説

-二日後-

アルト達スカル小隊のメンバーはS.M.Sの格納庫に勢揃いしていた。

「ミハエル先輩、なんか味気ないですね」

「しかたないさ。俺達はあくまでも裏方なんだから」

ルカの言葉にミハエルが返す。

この日の為に用意されたVF-25が彼等の目の前にあった。普段彼等が乗っているカスタム機ではなく、いずれの機体も新統合軍カラーで塗られた新品である。

あくまでも新統合軍のプロモーションビデオである以上、普段のS.M.Sの機体に乗る訳にもいかず、ミハエル達はこの新品に乗る予定になっていた。

そんな二人をよそにアルトは自分の乗機を考え深げに見つめていた。

彼のVF-25はミハエル達の機体とさらに様子が違っていた。

コクピット回りが少し大きくなっており、一見するとわかりにくいものの、複座式に改造されているのだ。

機種転換訓練用のこのVF-25を乗りこなす為にアルトは昨日一日訓練に明け暮れていた。

「久しぶりね、早乙女アルト。他のお二人さんも」

聞き覚えのある声にアルト達が振り向くとパイロットスーツを纏ったシェリル・ノームがそこにいた。

「素敵ですよ、シェリルさん!」

「なんともはや、素晴らしいですね」

その凛々しい姿にルカは目を輝かせ、ミハエルはただ感嘆の言葉を漏らす。

しかしアルトの反応は素っ気ないものだった。

「あんたも相当変わり者だな」

「何が?」

「普通、いきなりバルキリーに乗りたがる素人なんていないぞ」

「いいじゃない、適正試験はちゃんとパスしてるのよ」

「けどな…!」

「私はあなたと宇宙を飛びたかったの、何か文句ある?」

「なっ!?」

シェリルの言葉にアルトは顔を真っ赤にし、言葉が続かなかった。

「アルト先輩とシェリルさん、いつも通りですね」

「まあな」

アルトとシェリルの毎回の(痴話)喧嘩に慣れっこのミハエルとルカ。

「皆さんお揃いのようね」

ちょうどそこにキャシー・グラス中尉が二人の男性を連れてやってきた。

「紹介するわ」

「新統合軍広報局のグッドスピード大尉です」

新統合軍の制服を着た男性が自己紹介する。

「デイリーフロンティアのアルベール・ジュネットです。シェリルさんの取材で来ました」

青年が続けて自己紹介。

「早速ですが私から今回の任務について説明させて頂きます」

グッドスピード大尉が大型ディスプレイを背に説明を始めた。

「皆さんには事前の打ち合わせどうりに指定された宙域で編隊飛行を行って頂きます」

「その後、射撃訓練を行い、帰還した時点で今回の任務は終了です。全ての行程を無人カメラが追跡・撮影しますので皆さんは何も気にせず飛んで頂いて結構です」

ディスプレイにシーン毎の詳細が示される。アルト達は真剣な眼差しでそれを見つめる。

「なお、不測の事態が起きた際についてですが…」

「俺達の出番だ」

キャシーの声を遮ったのはオズマだった。

「俺のVF-25と」

「我々がつかず離れずで見守っている、何かあればすぐに逃げろ。大事なゲストにケガがあってはならないからな」

オズマに続いてS.M.Sピクシー小隊のクラン・クラン大尉のが続いた。

「私も忘れてもらっては困るぞ」

スカル小隊のVB-6パイロット、カナリア・ベルシュタイン中尉の声が格納庫に響いた。

「以上でブリーフィングを終了。各員出動準備だ」

オズマの声にアルト達はそれぞれ乗り込む機体へと向かう。

「あの、早乙女アルトさんでしたよね」

アルトに声をかけた一人の女性。シェリルのマネージャーのグレイス・オコナーである。

「何か?」

「あの、シェリルのこと、よろしくお願いします」

「…安心して下さい。彼女には怪我一つさせませんから」

アルトはそう言ってグレイスに敬礼すると乗機へと駆けていった。

主座席にはシェリルがすでに乗り込んでいた。シェリルの登場シーンの多くは別撮りの為、座して待つ以外にする事がなかったのだ。

「グレイス、あなたになんて言ったの」

おもむろにシェリルが尋ねる。

「あんたの事をよろしくって言われた」

「グレイスも心配性ね。私が1番あんたの事を信頼しているのに。そうでなければバルキリーに乗りたいなんて言わないわ」

「それ、褒め言葉と受け取っていいのか?」

「…勝手にしなさい」

そうこうしているうちにアルト機の発進の出番がまわってきた。

リニアカタパルトでの発進は未経験者には相当な負荷になるため使わず、滑走のみでアルト機は飛び立っていった。

先行するミハエル機、ルカ機と合流して三機は揃って目的の宙域へと向かった。

「アルト先輩、ミハエル先輩、そろそろ目的の宙域です」

ルカの声が通信機越しに響く。

「ねえ、アルト」

「なんだ」

「事前の打ち合わせどうりに飛ぶ気?」

「当たり前だろ」

事前の打ち合わせではある程度曲芸飛行はするものの、未経験者を乗せている都合、それほど激しい飛行は予定されていなかったのだが、アルトの言葉にシェリルは不快感をあらわにした。

「ダメよ」

「なんで?」

「か弱い女性を乗せてっているとか考えてちんたら飛ばれたら、こっちがかなわないわ」

シェリルの言葉にムッとしたアルトだったが、彼自身事前の打ち合わせどうりの飛び方は大人しすぎると薄々感じていた。

「ミハエル、彼女のリクエスト聞いたか?」

「歌姫がそうおっしゃるなら付き合うのは悪くないですよ」

「ルカは?」

「あの、シェリルさんいいんですか?僕は構いませんけど…」

「女に二言はないわ!」

「あなた達、何を考えてるの!無茶は止しなさい!」

通信機からキャシーの怒鳴り声が響いたが三人とも無視を決め込んだ。

「後で泣き言いうなよ」

「えっちょっと!?」

シェリルが何か言い終わらないうちにアルトはVF-25を急降下させた。ミハエルとルカの機体もそれに続く。

「ちょっ、何これ、キャー!!」

キャシー達のいるモニタールームにシェリルの絶叫が響く。

唖然とするキャシーとグレイスの両名。ゲストに何かあってはと慌てふためくグッドスピード。そんなモニタールームの情景をジュネットは克明に記録していた。

「あいつら何をやっているんだ」

「まったくだ」

後方で控えるオズマとクランがため息混じりに呟いた。

ちょうどその頃、S.M.Sのオペレーションルームではモニカ・ラング、ミーナ・ローシャン、ラム・ホアの三人が通常の警戒任務についていた。

突然鳴り響く警報。アルト達のやり取りに夢中になっていた三人ははっと我にかえった。

「何事だ!」

艦長のジェフリー・ワイルダーが問い質す。

「デフォールド反応です、場所は…アルトさんたちがいる宙域です!!」

「まさか、バジュラか!?」

「待って下さい、バジュラにしては反応が大き過ぎます」

モニカが答える。

「これって、ゼントラーディ艦の反応ですよ!?」

データ照合を行っていたラムが叫んだ。

時を同じくして急降下から上昇に転じていたアルト達の機体がデフォールドの警報を告げた。

「なんだ!?」

「デフォールド反応、僕たちの目の前です!」

ルカが言い終わらないうちにアルト達の進行方向に何かがデフォールドしてきた。

バジュラでないことはその巨大さが証明していた。

何かの艦艇と思えたが詳細を確認する間もなく、ミハエルとルカは回避する。

しかしアルトの機体は先行していたのに加え加速がつきすぎていた為、咄嗟にガウォーク形態に変形させ、軟着陸の態勢をとった。

「アルト!」

ミハエルが叫ぶ。必死にアルトの機体を確認しようとするが相手があまりにもでかく、アルト機の視認は不可能だった。

モニタールームで一部始終を見ていたキャシー達は巨艦の出現に声を失っていた。

「この艦は…」

ただ一言、グッドスピード大尉が驚きの声をあげる

「照合終了、ゼントラーディ、ノプティ・バガニス級です」

モニカが謎の艦の正体を冷静につげた。

(つづく)

あとがき:後半から終盤への話の展開に迷ってずっと放置しておりました。ノプティ・バガニス級に関してはネットなどで調べてください。

次回でこのお話もラストの予定です。本編の方もいよいよ盛り上がってきたマクロスフロンティア、今後の展開が楽しみです。

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二次創作マクロスF『FRONTIER ACES(フロンティア エイセス)』vol.2

2008年04月22日 22時01分55秒 | 二次創作小説

「新統合軍の広報ビデオに出演!?」

アルト達スカル小隊のメンバーが驚きの声をあげる。

新統合軍、キャシー・グラス中尉が持ってきた仕事。それは新統合軍の広報ビデオへの出演依頼という意外なものだった。

彼らの前に置かれた情報端末には広報ビデオの概要が解説画面が表示されそのタイトル

『フロンティア・エイセス』

の文字が青く輝いていた。

「なんで俺達に統合軍の広報ビデオへの出演依頼なんかするんだ?S.M.Sは民間組織で軍と繋がりがないんだぞ」

とアルト。

「それに、新統合軍の中には僕らを嫌っている人達もいた筈です。よくそんな話が許されましたね」

ミハエルが続けた。バジュラの襲撃が起きるようになってから、ことごとく失態を繰り返していた新統合軍への風当たりは強かった。

加えて新統合軍の失態をフォローする形となっているS.M.Sへの評価の高さに新統合軍の幹部の中にはS.M.Sへのあからさまな不快感を示す者さえいる始末だった。

アルト達にとってその手の軍人は頭の痛い話ではあったものの、驚異的な敵を前に生半可なプライドやメンツは意味がないと気にしないようにしていた。

そんな状態だったからこそ、キャシーの提案は予想外過ぎていた。

「まぁ、なんだ」

オズマが口を開く。

「軍は広報ビデオにVF-25を出演させたかったらしいんだが不慣れなパイロットに最新鋭機を任せるのをスポンサーが嫌がってな、貸し出しの条件として俺達にパイロットを任せる事を条件に出したんだ」

「スポンサーのお偉方さん達にしてみれば俺達の力を新統合軍に納得させる好機と踏んだらしい」

「でも隊長、本当にそれだけが理由なんですか?」

ルカが尋ねる。

「それなんだがな…」

「もちろん、軍は当初あなた達を出演させる事には渋々だったわ。けど広報ビデオのゲストからもあなた達を出演させろってねじ込まれたら、流石に断り切れなくなったのよ」

「ゲストって、一体誰なんだ?」

「あなた達も一度一緒に仕事をしてるわよ。そう、彼女とね」

アルトの問いにキャシーはリクリエーションルームに貼られたポスターを指差して答えた。

「げっ!?」

「光栄と呼ぶべきですね、これは」

「アルト先輩、ミハエル先輩、凄いですよ、これって!」

ポスターの女性、彼女こそ銀河の歌姫として名を馳せマクロスフロンティアでも絶大な人気を誇る

『シェリル・ノーム』

その人だった。

ミハエルとルカが喜ぶ中、アルトだけは別だった。

シェリルの勝ち気な性格に加え、初めての出会いとなったコンサートでのトラブル以来彼女に気に入られてしまったアルトにとっては気苦労が絶えない相手となっていた。

気苦労は絶えないが一緒にいるのが嫌という訳でもなく、アルトにとってシェリルは不思議な存在となりつつあった。

「おまえ達、歌姫の御依頼でもあるんだ、この仕事に異存はないな?」

オズマの声にハッとなるアルト。

「はい!」

スカル小隊のメンバー全員が立ち上がり敬礼をおくり、キャシーとオズマが敬礼を返す。

「何事もなければ明後日には本番となります、各自準備を怠らないように」

「それとアルトくん。あなたはシェリルさんと一緒の機に乗ることになります」

「了か、何だって!?」

キャシーの説明を聞いてアルトは耳を疑った。

中尉の説明にミハエルとルカも驚き、二人を見つめた。

「グラス中尉、俺が乗る機体、VF-25なんですよね?」

「そうよ」

「VF-25は単座戦闘機です、二人も乗れません!」

「その為に専用のVF-25を用意してあります」

「専用機、ですか?」

キャシーの説明の意図がわからず、困惑するアルトだった。

(つづく)

あとがき:まだマクロスF第三話を見ていない管理人です。間違いなく本編と整合性の取れない話になりそうですが、書き始めた以上投げ出すのは嫌なのでこのまま話を続けようかなと考えています。

今回の話に限ってはシェリルをヒロインに据えて話を進める予定でいます。

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