当作品はアニメ「ガールズ&パンツァー」の二次創作ノベルになります。続きものなので最初に『ガールズ&パンツァー 新任教官、着任です!その1』をお読み下さる事をお勧めします。
廃校の危機にあった大洗女子学園が第63回戦車道全国高校生大会で奇跡の優勝を果たし危機を脱した後、大洗は戦車道有力校として全国に名を馳せることになる。
大洗を救った立役者、転校生の西住みほの戦車道は彼女の実家である西住流と大きく異なり、例え弱小戦車でも仲間との連携で苦難を乗り越えた、また奇想天外な戦法を即興で編み出すという孫子の兵法でいうところの
兵は詭道なり
をそのまま実践したようなものだった。
彼女の戦車道、「裏西住家」あるいは「大洗流」と呼ばれた独自の戦車道は全国の戦車道を教える学校で歓迎されたが一方の大洗女子学園の栄光は長くは続かなかった。
戦車道で有名になり生徒数が増加に転向し戦車道関連の補助金で学校の財政が潤うと金に任せて強力な戦車を揃え、力で相手をねじ伏せるという戦法を主眼に置くようになったのだ。
学園艦運営の制度改革に伴い、生徒会長以外の人間が学園艦の最高責任者になる事が可能になり、大洗女子学園に日本戦車道連盟の関係者が就任した頃から傾向はさらに悪化し、全国大会で好成績を残す事も減り、澤が戦車道の教官として招聘される前年には質で劣る知波単学園との戦車道全国高校生大会一回戦でフラッグ車が強襲を受けて惨敗するという事態に。
そしていつの頃からか大洗女子学園を含む戦車道関連の補助金の不正流用の噂がまことしやかに囁かれるようになっていた。
大洗女子学園の栄光はこのまま永遠に失われるかと思われ初めた頃、転機は突然訪れることに。卒業後、大学生戦車道で活躍し戦車道ジャーナリストとなった秋山優花里が母校である大洗女子学園と優花里と親交のあったケイの出身校であるサンダース大学付属高校の補助金の不正流用の証拠を掴んだのである。
しかし彼女はそれを公表する事ができなかった。問題が表面化すれば大洗女子学園もサンダースも無事では済まず、また一連の不正流用に戦車道連盟の幹部もかんでいた事から最悪の場合、戦車道そのものが槍玉に上がる可能性があったのだ。
ケイに相談する事も出来ず思い悩む優花里の元に角谷杏から連絡があったのはちょうどその頃だった。
大洗女子学園の戦車道の凋落を嘆いた多数の生徒、保護者が大洗中興の祖とされていた杏を学園の責任者に据えようと彼女に相談を持ち掛けたのがそもそもの始まりだった。
大洗女子学園の責任者となりそれまでの大洗流の戦車道とは相反する力による戦車道を是としていた戦車道連盟関係者を追い出せないか画策したのだった。
しかし、大きな権力を持つ人物を生徒達の要望とはいえ追放するのは難しく、杏は一計を案じる事に。
噂になっている戦車道関連の補助金不正流用の証拠を掴んで禅譲させよう
というのである。これには最初、杏と同様に相談を持ちかけられた元生徒会広報の河嶋桃が反対したが、元生徒会副会長の小山柚子が賛成した為に計画が実行に移されることに。
禅譲といえば聞こえはいいが実際には脅迫以外のなにものでもなかったこの計画。杏自身、大洗の戦車道の凋落を黙って見ている事が出来ず状況を変える為には手段を選ばないという決意からジャーナリストの秋山優花里に証拠を掴んで欲しいと依頼をしたのである。杏の真意を聞いた優花里は
渡りに船
とばかりに不正流用の証拠を杏に差し出す事に。
詳細を知った杏らはこれは自分たちだけの問題ではないとサンダースOBのケイと戦車道連盟にコネもある元黒森峰女学園戦車道チームリーダーの西住まほ(大洗女子学園を救った西住みほの実姉)に詳細を伝え合議。
社会人戦車道で活躍し、在校生から人気のあるケイをサンダースの責任者に、戦車道連盟のお目付け役として戦車道西住流の家元でもあるまほを、そして大洗女子学園の責任者に杏を就任させる事を目標として当事者たちと話し合いを持つことに。
危険な賭けではあったが結果、不正流用を行っていた連中が全面降伏し大洗女子学園と同様に戦車道連盟から関係者が派遣されていたサンダース校の責任者は体調不良に伴う療養を名目にその座を追われ、不正流用に関わっていた戦車道連盟の幹部も辞任する事に。(余談だが、証拠をつきつけられてもなお、禅譲を拒んだ戦車道連盟の幹部にまほが「イエスかノーか」と今まで見たこともない剣幕で迫ったのは最高だったと杏は澤に後日語っている)
後釜に杏、ケイ、まほ3人が就いたというのが戦車道を巡る大洗女子学園、サンダース、戦車道連盟の無血クーデターの実態だった。杏らが大洗女子学園を訪れたのは後処理について話し合いを持つためだった。
「…というわけ」
杏から事のあらましを聞いた怒りと悔しさで身の震える思いだった。知らないうちに母校がめちゃくちゃにされていた事が許せなかったのだ。
そしてその不正を正す為に戦ってくれた先輩達への言いようのない感謝の気持ちも澤の心に溢れていた。
「今はオッドボール(ケイは第63回戦車道全国高校生大会の時にサンダースに潜入調査した際にとっさに「オッドボール三等軍曹」と名乗った優花里の事を今もそう呼んでいる)とユズが書類関係の後始末の真っ最中。うちの学校もお金が余計にあった分、メチャクチャされてもう大変だったんだから」
ケイが続けた。
「危ういところだったが、結果として戦車道連盟の獅子身中の虫を退治出来たのは幸運だった。それに…」
まほが続ける。
「みほが哀しい顔をするのを見ないで済んだ」
その言葉に澤がほっこりする。
(西住隊長のお姉さん、本当優しい人なんだなぁ)
みほは現在戦車道日本代表として世界大会に参加しており日本に居ない。
姉のまほにしてみれば母校と戦車道がスキャンダルに晒される事で妹のみほを哀しませたくなかったし、悲しむ姿を見たくなかったのである。
「でも、澤ちゃん、本当にこんな話を聞かせて良かったの?」
杏が改めて尋ねた。
「全然大丈夫です、確かに驚きましたけど胸のつかえがとれましたし、大洗弱体化の原因の1つが取り除かれた以上私もやれる事が増えますから」
澤はにこやかに答えた。
この後、澤も同席する中、今回の騒動の後処理について会議がなされ、戦車道連盟の助成金関連についてはより一層透明化の推進を大洗女子学園とサンダース校が共同提案し、まほがそれを後押しする事で合意となった。
「なぁ、澤。今更聞くことでもないかも知れないがお前から見て今の大洗の戦車道はどう思う?」
会議のあと、桃が話を切り出した。
「正直、火力偏重で柔軟性に欠けてますね」
澤はきっぱり答えた。
今の大洗女子学園の戦車はM26パーシングやpfw.KW-2 754(r)(旧ソ連のKV-2のドイツ軍鹵獲仕様)など大火力の重戦車が主力でIV号やヘッツァーなどかつて西住みほや澤達が乗っていた戦車は予備車両あるいは記念品として静態保存の状態だったのだ。
「西住隊長の戦車道は戦車運用の柔軟さと何より仲間との連携あってのものです。今の大洗には柔軟さが無さ過ぎます」
大洗女子学園の戦車道の弱点をズバリと言い当てる澤。
「流石はミホの愛弟子、大洗流戦車道の第一人者ね、マホもそう思うでしょ?」
「ま、まぁな」
妹の戦車道とその戦車道の第一人者と目される澤をケイに褒められ顔を赤らめるまほ。
澤が大洗に招聘された一番の理由は西住みほの戦車道の後継者と目されていたからだった。 戦車道の教官というのであれば他の自衛隊員でも良かったのだが、大洗流の戦車道を実践出来る人物は澤が最適と杏が判断した事が大きかった。
万が一無血クーデターの件が澤の知るところとなっても彼女なら秘密を守ってくれるという思いも杏にはあったが、まさか自分から知りたがるとは杏にも想定外だったが。
「澤二尉、大洗の立て直し、どうするつもりだ?」
まほが尋ねた。
「とりあえずは戦車の再編ですね。柔軟性のある運用が出来る編成にしないと。必要なら不正流用の穴埋めに売ってもいいですし」
その言葉に桃が反応する。
「おい、いくらなんでも売却は」
「先輩や西住隊長達と戦った時はあれだけ貧弱な編成で黒森峰に勝ったんですよ?戦車の強さだけが戦車道じゃないんです」
そう澤に言われ、あまりの正論に黙る桃。
「だが、問題は生徒のやる気だな。みほにそれとなく聞いた事があるが去年の大会で知波単に惨敗して相当士気が下がったそうだが」
「それなら大丈夫」
まほの疑問に杏が答えた。
「というと?」
「『大洗女子学園を廃校から救った英雄が新しい教官として着任する』って戦車道を専攻する生徒にはそれとなく伝えてあるから。なんかみんなそれ聞いて盛り上がってるみたいだよぉ」
それを聞いた澤がさらに顔を赤らめた。
「ちょ、角谷先輩、恥ずかしいじゃないですか」
「いいじゃない、事実なんだし」
杏の言葉にさらに顔を真っ赤にする澤。
「澤二尉、妹の愛した大洗女子学園をどうか頼んだぞ」
まほの言葉に澤は静かに頷いた。
「こうなったら私達も負けてられないわね」
そんなやり取りを眺めていたケイが口を開いた。
「サンダースもなんだかんだで弱小校扱いになっちゃうレベルになってるし監督となった以上頑張らないと」
「お互い、頑張りましょう!」
澤がそれに答えた。その答えを聞いてケイが右手を差し出す。
「?」
「お互いの健闘を祈ってのHandshake!」
「はい!」
澤とケイ、2人がガッチリ握手をし、杏と桃とまほがその様子を暖かく見守った。 その時桃の携帯が鳴り出した。
「はい、河嶋です。そうか、分かった」
「かーしまー誰から電話?」
「柚子からです。問題の書類や資金の細工は終わったとの事です。柚子はこれから戻るとの事です」
「秋山ちゃんは?」
「別の取材が入ったとの事で学園には寄れないと。澤にはよろしくと伝えておいて欲しいとの事です」
「うーん、秋山ちゃんいないの残念だけど、澤ちゃんの着任祝いにパッと繰り出そうか?」
「そんな、角谷先輩、別にそこまでして貰わなくても大丈夫ですよ」
「いーからいーから。大洗にヴィンテージクラブむらいってオシャレなお店あるんだ。かーしまー、柚子に着任祝いをむらいさんでやるって伝えて」
「分かりました。柚子、学校には向かわず大洗町の方に行ってくれないか、店は…え?聞こえてた?あと桃ちゃんと呼ぶなとあれほど」
電話越しに桃ちゃんと柚子に呼ばれ、またしても顔を赤らめる桃。
「他の2人はこのまま帰る?」
「アズサの着任祝い、付き合わないわけないでしょ」
とケイが答える。
「今日は夕方から予定がなくてな」
と、まほの答えも同様だった。
「それじゃ大洗町にlet's go!」
「「「「おー!!!!!」」」」
この晩、新任教官の澤と杏ら大洗女子学園の新責任者とケイとまほは大洗で大いに盛り上がったのだった。
この年、澤の指導の元で大洗女子学園が戦車道全国高校生大会で数年振りの準優勝を果たしたのはまた別のお話。
まもなく劇場版が公開予定の「ガールズ&パンツァー」。
前にふと
大洗女子学園でも将来有望と思える生徒筆頭の澤梓を主人公にお話を読みたい
と思ったもののその手のモノが見つけられず
読みたいものがなければ自分で書こう
という結論に至り書いた二次創作だったりします。
目指したのは
1.澤が自衛官になって大洗女子学園に着任する
2.澤の着任までに大洗で一波乱あるシリアス仕立て
で自分でも久方ぶりにシリアスものを書いた感じです。
拙い二次創作ですが、皆さんに少しでも楽しんで頂ければ幸いです。