コックピット内に響く轟音。対峙する目標は鋼鉄のモンスター。
圧倒的な砲撃の間隙を縫って早乙女アルトは自らが駆るVF-25を急加速させ相手との間合いを詰める。
相手と接触する寸前まで接近した刹那、ガンポッドが火を噴き相手は機能停止、爆散した。
「シミュレーター終了、あなたの勝利です」
合成音声がそう告げ、コックピット内が暗くなると同時に風防がゆっくりと開いていく。
「アルト先輩、お疲れ様です」
「すまない」
アルトが通う美星学園の後輩にしてS.M.Sスカル小隊のチームメンバーであるルカ・アンジェローニが差し出したドリンク剤をアルトは優しく受け取った。
マクロスFRONTIERに拠点を置く民間防衛組織S.M.S。
その実働部隊スカル小隊にアルトが配属になって数週間、この日もアルトはシミュレーター訓練の為に本部に出向いていた。
バルキリーの操縦に関して天性のセンスがあるとはいえ戦闘技術は素人のアルトにとってはシミュレーター訓練も大事な任務だった。
「でも不思議ですよね」
リクリエーションルームでルカが不意に声をかけた。
「何が?」
「だってあれだけ弾幕を展開していたのにあのVB-6、至近距離で何も反撃しなかったじゃないですか?」
ルカの言うVB-6とは今日のアルトの対戦相手、可変爆撃機『ケーニッヒモンスター』の事である。
半世紀前の第一次恒星間戦争時に製造された
『デストロイドモンスター』
の派生機種で大型シャトル、ガウォーク、バトロイドへの可変機能を備え、2050年代の可変軍用機の中でも抜きん出た火力を誇る文字通りの「モンスター」である。
規格外の火力を誇り、優れた長距離火力支援機としてS.M.Sにも配備されていた。
絶対的な火力を誇るケーニッヒモンスターが急接近された状態だったとはいえ、手も足も出ずあっさり撃破されたのがルカには不思議でならなかった。
「あれはな…」
「簡単な話ですよ」
「ミハエル先輩!」
アルトの言葉を遮るように美星学園の同期でスカル小隊のメンバーであるミハエル・ブランが話を始めた。
「今日アルトが対戦したVB-6は無人機、基本的に敵機の撃破と並んで作戦遂行能力の維持が優先事項としてプログラムされている」
「もし相手に至近距離まで接近された状態で下手に反撃したらどうなるか、ルカ判るか?」
「えっと巻き添えで自機が破損する可能性があります」
「そう、それでなくてもVB-6の四連装主砲は推進機を兼ねているから0距離射撃で破壊されるような事があったらまずい。そもそも長距離支援用の無人機には近接戦闘時の対応プログラムが基本的に組まれていない。故にあのVB-6はアルト機の攻撃に対処出来なかったのさ」
「そういう事だったんですか」
ミハエルの説明に納得するルカ。その一方、言葉を遮られたアルトは憮然としていた。
「ただし」
とミハエルが言葉を続ける。
「相手が近接戦闘時の対応プログラムを組み込んでいた場合等を想定すると今日のアルトのやり方にはあまりお勧め出来ないけどね」
「何を!!」
ミハエルの言葉にアルトがカッとなる。
「もし相手が自らの被る損害にお構いなし撃ってきたらどうなってた?やられていたのはアルトの方だぞ」
ミハエルの冷静な分析。アルトも返す言葉がない。
「けど、あれだけの弾幕をかい潜れる技量は凄いけどね、『アルト姫』」
「ミハエル!俺を『姫』って呼ぶな!フォローがフォローにならない!」
「まぁまぁ二人とも…」
口喧嘩を始めたアルトとミハエル、それをなだめるルカ。
アルトが入隊して以来繰り返されるこの光景はS.M.Sの風物詩になりつつあった。
「おまえ達、またいつもの喧嘩か?」
そこへやってきたのがスカル小隊の隊長、オズマ・リー、部下達の相変わらずの様子に含み笑いで言葉をかけた。
「隊長!」
三人が三人とも姿勢を正し敬礼し隊長を迎え、オズマも敬礼を返した。
「おまえ達、いきなりで申し訳ないんだが、仕事の依頼が来た」
「仕事、ですか?」
ミハエルが聞き返す。
「ああ、その内容なんだが…」
「そこからは私が説明します」
申し訳なさそうなオズマの言葉を遮り、彼の背後から歩み出る一人の女性。
「あんたは、確か…」
アルトが見覚えあるその人はかつて彼を新統合軍に勧誘し、S.M.Sとも縁が深い新統合軍参謀本部所属のキャシー・グラス中尉その人だった。
(つづく)
あとがき:放送開始から一月経っていない状態で妄想率120%でマクロスFRONTIERの同人小説を書き始めた管理人です。
仕事の休みにいきなりアイデアが思いつき早速ブログに書くことにしました。本編ではいつS.M.Sに入隊できるか判らない状態のアルトですが、こちらでは既に入隊させてしまっています。
書いてて思ったこと
「間違いなくミハエルのキャラ掴めてない…」。2話でアルトの駆るVF-25に追いすがるバジュラを狙撃で仕留める腕前を披露してくれましたが、まだ出番が少なく微妙にキャラを掴めてません。
以前ガンダムSEEDDESTINYの小説をこのブログで書き始めてネタが思いつかずに投げてしまった過去がありますが、今回はきちんとラストまであらすじは考えてあるのできちんと仕上げたいです。
次のお話でグラス中尉のいう「仕事」の内容を明らかになります。この仕事、アルトと縁のあるとある人が深く関わってきます。