シェリルがひょんな事から知った地球の古い歌。
“素敵な曲”と自身が評する歌をシェリルはアルトに披露した。
「♪Fly me to the moon Let me sing among those stars」
伴奏なしに軽やかに歌い出すシェリル。アルトはさすがはシェリルだと彼女が歌う姿を眺めながら改めて感心した。
「♪Let me see what spring is like On Jupiter and Mars」
「♪In other words, hold my hand」
そのフレーズと共にシェリルがそっとアルトの左腕を引き寄せる。
「♪In other words, darling kiss me」
シェリルが何かを切望するような瞳でアルトを見つめながらそのフレーズを歌ったときアルトは顔を真っ赤にした。
「お、おいシェリルいきなり何を言い出すんだ!?」
アルトの言葉にシェリルが歌うのを止める。お互い既に深い仲の筈なのにこういう事だけは未だにアルトは苦手としていた。
「何って、ただの歌のフレーズじゃない、一体どうしたって言うのよ?」
しれっと答えを返すシェリル。それを聞いたアルトは顔を真っ赤にしたまま黙り込む。そんなアルトの様子を見てシェリルが何かを閃いた。
「ねぇ、アルトここで『キスして』って言ったらしてくれる?」
あまりにストレートなシェリルの問いかけ。あまりのことにアルトは絶句して何も答えることが出来なかった。
そんなアルトを様子を見たシェリル。答えが返ってこないことにショックを受けた様子で
「アルト、酷い!」
と顔を背けてしまった。シェリルの態度にアルトは別の意味で慌てふためいた。シェリルの左側に回り込んで必死に説明する。
「まった、シェリル!キスしたくないとかそうじゃなくて、その急にそういうこと言われても俺慣れてないし…」
恥も外聞もなく答えを返せなかった事を自分のウブさが原因だと説明するアルト。
「だからシェリル、機嫌をなおして…」
そこまで言ってアルトは自分の必死な姿をにっこり眺めているシェリルに気づき、自分がシェリルにあそばれていたことを悟った。
「そういうウブだけど真面目なところもアルトの素敵なところよ」
シェリルがそっと顔を近づけ、お互いの唇が触れる。その過去に何度か経験した感触にアルトはシェリルに対するほんの僅か起こった怒りの気持ちも吹き飛んでしまった。
安堵感からかソファーにへたり込むアルト。そんな彼を見ながらシェリルは歌の続きを紡ぎ始めた。
「♪Fill my heart with song Let me sing for ever more」
<シェリルが気に入るのも判るな>
歌を聴いてそんなことを思うアルト。
「♪You are all I long for All I worship and adore」
さらに軽やかに歌うシェリル。歌詞の意味を理解したアルトはまたしてもハッとなる。
「♪In other words, please be true」
「♪In other words, …」
シェリルはアルトの耳元でそっと囁くように最後のワンフレーズを歌った。
「……!!!!!」
もし同じ部屋に誰か居ても全く聞こえないであろうと思えるほどの小さな囁きだったがアルトにとって
「I love you」
という最後のフレーズは強烈きわまりないインパクトだった。嬉しさと恥ずかしさで完全にノックアウト。ここにアルトの被撃墜記録がもう一つ加わったのであった。
その後二人はしばらくソファーで寄り添って座っていた。何を語るでも何かするでもなくただお互いが近くにいるという事だけで十分満足に思えたからだった。
「ねえ、アルト。私久々に曲を出すわ」
話を切りだしたのはシェリルだった。芸能活動を徐々に復活させていたとはいってもシェリルはまだ新しく曲を出していなかった。
「曲を出すって?」
「アルトに歌ってあげた“Fly Me to the Moon”。あの曲もっと色んな人に聞いて貰いたいの」
「良い事じゃないか」
「ありがとう、アルト」
そう答えたアルトはそっとシェリルの左手を握りしめる。そしてシェリルも同じようにアルトの右手を握り返した。
「ねえ、アルトいつか“私を月に連れて行って”」
「ああ」
そう答えてアルトは今度は自分からシェリルにそっと口づけをしたのだった。
後日、アポロ計画90周年特番にてシェリルはアポロ計画にまつわる数々の雑学問題を難なく突破。番組制作スタッフの思惑を完全にうち砕くことに成功。
そしてカバーシングルとして発売した
「Fly Me to the Moon」
は銀河ネットワークヒットチャート1位に輝くというシェリル復活を全銀河系に知らしめる結果となったのでした。
‐おわり‐
あとがき:久々のマクロスフロンティア、アルト×シェリル(殆どシェリル×アルトな内容でしたが)の二次創作小説です。
もう少しゆっくりの執筆でも良かったのですが
「7月20日(アメリカ時間でアポロ11号、アームストロング船長が月面着陸を果たした日)までに掲載完了したい」
という思いで書き上げました。
part.1でSDF-1マクロスの進宙式やアポロ計画40周年事を書きましたがヱヴァンゲリヲン絡みで「Fly Me to the Moon」の歌詞を改めて読んで
“何ともシェリルらしい歌”
と感じたのがこの話を書くきっかけでもありました。
久々の小説ですが少しでも楽しんで頂けたら幸いです。