南斗屋のブログ

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和解事例1691から和解事例1695

2020年12月25日 | 原子力損害

原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)が公開した和解事例1691から和解事例1695までを紹介いたします。

1691=居住制限区域(富岡町)の生命身体損害、日常生活阻害慰謝料に関するもの
1692=旧緊急時避難準備区域(南相馬市原町区)の営業損害に関するもの
1693=帰還困難区域(双葉町)の営業損害に関するもの
1694=南相馬市鹿島区の除染費用に関するもの
1695=居住制限区域(飯舘村)の生命身体損害、生活費増加費用等に関するもの

和解事例(1691)
居住制限区域(富岡町)に居住していた申立人ら(夫婦及び夫の母)について、原発事故による避難に伴い悪化した股関節症等の持病につき申立人母の平成27年12月から平成28年5月までの通院慰謝料及び付添費用や、避難後に認知症、肺がん、咽頭がん、脳出血となり要介護状態となった亡父の平成24年9月から平成28年5月までの通院慰謝料、付添費用及び平成28年4月から平成30年3月までの日常生活阻害慰謝料(増額分)が認められたほか、原発事故前はパート就労していた申立人妻が、原発事故後、亡父や申立人母の日常的な介護のために再就職をすることができなかったことによる平成29年8月から平成30年6月までの減収分について、平成29年9月以降は申立人母がデイサービスを利用し始めたことも
考慮して原発事故による影響割合を乗じた上で、生命身体的損害に係る就労不能損害として認められた事例。

和解事例(1692)
旧緊急時避難準備区域(南相馬市原町区)において機械部品の加工等を業とする申立人の営業損害(逸失利益)について、直接請求手続では原発事故と相当因果関係が認められない売上減少が含まれているとして、基準年度の売上額を定めるに当たり、取引先1社に係る売上額を差し引いた上で、東京電力の平成27年6月17日付けプレスリリースに基づく賠償金額が算定されたが、上記差引分を控除せず、また、原発事故の影響割合を6割として算定し直したことにより、追加賠償がされた事例。

和解事例(1693)
帰還困難区域(双葉町)において施設経営をしていた申立人の平成29年3月分から平成31年2月分までの営業損害(逸失利益)について、その算定において差し引く減価償却費を、税法上の耐用年数ではなく実質的耐用年数を用いた上で、原発事故の影響割合を平成29年3月分から平成30年2月分までは3割、同年3月分から平成31年2月分までは1割とした金額(これは東京電力が平成27年6月17日付けプレスリリースに基づき算定した自認額を上回る金額である。)が賠償された事例。

和解事例(1694)
地方公共団体が住民に一時避難を要請した区域(南相馬市鹿島区)に居住する申立人らの住居周辺の屋敷林について平成27年に除染目的で行った伐採及び整地作業について、業者に依頼した部分に係る支出費用、申立人らや近隣住民が実施した部分に係る労賃分等につき、立証の程度を考慮し、いずれについても5割の限度で賠償された事例。

和解事例(1695)
居住制限区域(飯舘村)に居住していた申立人ら(父母及びいずれも成人の子3名)について、避難生活中の生活費増加費用(事故前は自家消費用に栽培していたことにより負担のなかった米及び野菜に係る食費並びに井戸水を利用していたことにより負担のなかった水道費等)、申立人父が所有していた農機具等の財物損害が賠償されたほか、原発事故の被害者であることから職場でいじめを受けたことによりうつ病を患い就労が困難となった申立人子1名の、平成25年1月分から令和元年9月分までの通院慰謝料等の生命身体的損害、平成27年3月分から平成30年3月分までの就労不能損害(原発事故の影響割合を7割から3割へ順次漸減して考慮。)が賠償された事例。


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民法703条の「利益の存する限度」の意味

2020年12月23日 | 地方自治体と法律
分かっていると思っても、いろいろ調べてみると全然分かってなかったことって、何年もやってても出てくるもんなんですね。

今回、そう思わされたのは、民法703条の「利益の存する限度」の意味。


不当利得返還請求において善意の受益者は、「利益の存する限度」で返還義務を負うというのが、民法703条に描いてあることなのですが、では「利益の存する限度」とは何ぞやということです。

地方自治体の法務を例にしていうと、計算を間違ったり、考え方を間違ったりして、ある給付を多く支払ってしまうってことがあります。このような過誤払いは、民法上の不当利得にあたり、自治体は返還請求権を行使できますが、ではその金額をいくらなのかという問題。
過誤払いが10万円として、自治体が請求したときには4万円しか残ってなかっとした場合、請求できるのは4万円なのか10万円なのかという問題です。

「利益の存する限度」って文言からすれば、当然4万円と思うではないですか。
でも、この考え方は間違い。

⇒金銭による利得は現存するものと推定される(判例)。
 金銭を生活費に充てた場合にも利得は現存するというのが判例である。

だそうなんですよ。
この判例知らなかったら、絶対答え間違いますよね。
やはりきちんと調べないと。カンだけでやってたら、人に正しいことは教えられないって、ホント骨身にしみました。

自治体関連での、最近の判例も押さえておきましょうか。
事例:県が元県議会議員で構成する団体に対して行った補助金の交付が違法な公金の支出であるとし、同団体の県に対する補助金相当額の不当利得返還義務が認められた事例
 では、その請求できるの範囲は?
⇒手元に残っている金額ではなく、過払いとなった金額全額の支払いを認めてた(東京高等裁判所平成18年9月26日判決・判例時報1959号21頁)。
“本件における「利益の存する限度」とは,たとえ被控訴人元議員会が既に本件各補助金を全部使用しているとしても,それは被控訴人元議員会の運営上必要な経費として使用されたものであるから,本件各補助金相当額全額であると解するのが相当である。”



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和解事例1686から和解事例1690

2020年12月10日 | 原子力損害

原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)が公開した和解事例1686から和解事例1690までを紹介いたします。

1686=旧緊急時避難準備区域(広野町)の財物賠償に関するもの
1687=自主的避難等対象区域(福島市)の営業損害に関するもの
1688=自主的避難等対象区域(福島市)の営業損害に関するもの
1689=自主的避難等対象区域(相馬市)の営業損害に関するもの
1690=旧緊急時避難準備区域(南相馬市原町区)の日常生活阻害慰謝料に関するもの

和解事例(1686)
旧緊急時避難準備区域(広野町)に居住していた申立人らの財物(家財(主として布製品))について、地震で損壊した自宅屋根を原発事故のために修繕することができず雨漏り等が生じたことにより財物価値を喪失したと認められるとした上で、購入時期や価格等についての提出資料を踏まえ、購入価格の一部が賠償された事例。

和解事例(1687)
自主的避難等対象区域(福島市)において農業を営む申立人らのユズに係る平成31年4月から令和2年3月までの営業損害(逸失利益)について、ユズに出荷制限が課せられていることや申立人らが提出した資料による立証の程度等を考慮し、申立人らの主張するユズの個数に基づく請求額の概ね5割の限度で賠償された事例。

和解事例(1688)
自主的避難等対象区域(福島市)で食品の製造販売業を営む申立会社について、東京電力の直接請求手続においては平成23年3月から同年8月までの営業損害(逸失利益)を算定するに当たり、貢献利益率を製造業の平均利益率である32%としたが、申立会社の実績による貢献利益率は上記よりも高いとして、これによる差額が賠償されたほか、平成28年7月から平成30年12月までの食品の製造過程で利用する井戸水の検査費用の約7割が賠償された事例。

和解事例(1689)
自主的避難等対象区域(相馬市)において魚介類の卸売り及び直売業並びに飲食業を営む申立人の平成28年8月分から平成30年7月分までの営業損害(追加的費用)として、仕入先が遠方になったことや観光客の減少による売上減少を補うために営業時間を増加変更したことによって生じた人件費(給料手当等)の一部(原発事故の影響割合を期間及び費目に応じて1割ないし4割とする。)が賠償された事例。

和解事例(1690)
旧緊急時避難準備区域(南相馬市原町区)から避難した申立人母子の日常生活阻害慰謝料について、申立人母が、原発事故当時の勤務先工場の一時的閉鎖に伴って、他所で勤務することとなったこと等を考慮し、平成26年3月分まで賠償された事例。


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「原発事故の訴訟実務」升田純著

2020年12月08日 | 原子力損害

「原発事故の訴訟実務」升田純著(学陽書房)

 2011年12月に出版されており、福島第一原発事故以前の原発事故の訴訟実務についての書籍である。
 本書の半分以上は、風評被害に関する考察にあてられており、「風評損害訴訟の法理」との副題が付されている。
 福島第一原発事故以前の原発事故に、JCO臨界事故があり、この事故に伴う下記の風評損害の裁判例の解説がされている。
・水戸地裁平成15年6月24日判決(判例時報1830・103)
・東京地裁平成16年9月27日判決(判例時報1876・34、判例タイムズ1195・263)
・東京高裁平成17年9月21日判決(判例時報1914・95、判例タイムズ1207・251)
・東京地裁平成18年1月26日判決(判例時報1951・95)
・東京地裁平成18年2月27日判決(判例タイムズ1207・116)
・東京地裁平成18年4月19日判決(判例時報1960・64)
 このような原発事故に伴う風評被害のほか、それ以外の原因に伴う風評被害の裁判例をも分析しているのが本書の特徴である。
・公的機関による信用毀損に伴う風評損害の裁判例
・マスメディアによる信用毀損に伴う風評損害の裁判例
・商品等の事故に伴う信用毀損に伴う風評損害の裁判例
・汚染事故に伴う信用毀損に伴う風評損害の裁判例
 筆者は、これまで最も多く風評損害が裁判例上で問題となったのは、事業者による信用毀損による事例であり、マスメディアや国の機関等が加害者となって、事業者に風評被害(営業上の逸失利益等の損害)を加え、深刻な損害を生じさせたことがあるという認識を有しており、この観点からJCO臨界事故関連の裁判例の検討に先立って、これらの風評損害の裁判例を検討しているのである。


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