南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

高次脳機能障害の診断と等級認定のギャップ

2008年10月31日 | 高次脳機能障害
高次脳機能障害という概念が医師の間では広がったため、高次脳機能障害と診断される被害者は、一昔前と比べると非常に増えたのではないかと思います。
しかし、高次脳機能障害と”診断”されても、自賠責保険や裁判で「頭部外傷による高次脳機能障害」と”認定”されるとは限りません。

これは、高次脳機能障害の診断基準と、自賠責等での認定基準が異なることからおこっている現象です。
被害者(患者)の立場からすると、事故後の様子がおかしいと本人(又は家族)が気が付いて病院に受診すると、医師からは「高次脳機能障害です。」と診断されるのですが、その診断書をもとに自賠責保険の認定手続きに入ると、自賠責からは「あなたは自賠責では高次脳機能障害とは認定できません。」という回答が返ってくるということになります。

このような診断(医師のするもの)と、等級認定(自賠責保険等がするもの)のギャップに落ち込んでしまうと、被害者(患者)としては、一体自分は高次脳機能障害なのかどうか、という点について非常な疑問を抱えてしまうのではないかと、心中お察しいたします。

さて、このようなギャップを解決する為には
A 診断基準と認定基準を一致させる
又は
B 診断基準と認定基準の差異を受け入れる
のいずれかしかありません。
Aの方向になることが望ましいので、今後もこのような努力を各界で続けて欲しいところですが、現状では被害者(患者)は、Bの状態を無理矢理受け入れざるをえない状況です。


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画像の借入

2008年10月27日 | 未分類
自賠責保険に後遺障害認定を申請する場合、X線やCTの画像の提供を求められます。

画像は病院に保管されていますので、病院から画像の原本を借りるのが基本です。

もっとも、病院によっては画像原本を貸し出さない(おそらく紛失防止の為)ところもありますので、そのときは画像のコピーをしてもらうことになります。

画像のコピー代は、病院に支払わなければなりませんが、領収証を自賠責の調査事務所に送れば、このコピー代分については支払ってくれます。

自賠責では、後遺障害診断書や診断書、診療報酬明細の作成代は支払われないのですが、画像のコピー代だけは、なぜか支払ってくれることになっているのです。

自賠責で実費を支払ってくれるか?
○ 画像のコピー代
× 後遺障害診断書、診断書、診療報酬明細書の作成

画像は、被害者(患者)の個人情報ですから、被害者が画像の借入を申請すれば、病院はこれに応じるのが普通です。

しかし、最近、被害者ご本人に画像を借入れてもらうよう病院に要請したところ、病院から「保険会社からの請求でなければ、提出できません。」と言われたというケースがありました。

 代理人であった私は、病院に電話して
「患者さんが自分の画像の借入れを申請しているのですから、これを拒否する理由はないのでは?」
とやんわり抗議したのですが、この理屈がなかなか病院の受付にはわかってもらえなかったようで
「いえ、保険会社からの請求が必要という扱いなので。」
との回答でした。

 粘り強く交渉したところ、ようやく画像を被害者本人に貸してもらえることとなりましたが、今までこんなことがなかっただけに、ちょっとしたことでもすんなりいかないことがあるものだと、思った次第でした。


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違法駐車をしていた者の責任

2008年10月22日 | 未分類
 放置されていた違法駐車の車に衝突し被害者が死亡したとき、違法駐車をしていた人に、被害者が死亡したことの責任を問えるかという問題があります。

 民事上、損害賠償請求が認められたケースもありますが、刑事上で業務上過失致死が争われたケースというのは、これまで耳にしたことがありませんでした。

 ところが、10月21日の読売新聞千葉版を見ていたら、千葉地裁松戸支部10月20日判決で、違法駐車をしていた男性に無罪を言い渡したケースが報道されていました。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/chiba/news/20081020-OYT8T00799.htm
 同記事によると、
 被告人は、駐車禁止の市道に尾灯の点灯や三角反射板の設置をしないままダンプカーを駐車。約10分後に被害者のバイクが追突し、被害者は頭を強く打って間もなく死亡した。
という事実関係。
 
 公判では、被害者がダンプカーを発見することが困難だったかどうかが争点となり、裁判所は判決で「ダンプカーについていた後部反射板に十分な反射能力がなかったとは言えず、発見困難とする検察の立証は不十分」とした。

というのです。

 この記事から、刑事事件では、
 駐車車両が存在した
 それが駐車禁止区域内の駐車であった
 それにより被害者が死亡した
というだけでは、有罪にできないということがわかります。
 
 遺族の側からすれば、違法駐車がなければ、被害者は死亡しなかったのに・・・という意識が強いためこのような判決には納得がいかないと思いますが、刑事事件では、検察官側にかなり重い立証の責任が与えられますので、それが果たせないと無罪になってしまうのです。

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後見人を裁判所はどのように見ているか

2008年10月21日 | 成年後見
"curiousjudgeのつぶやき"
というブログに、成年後見人を裁判所がどうみているかという記事が載っていました。

 同ブログは、裁判官自身にによって書かれているものです。

 個別の案件のことについてはもちろん書かれていませんが、裁判官がどんなことを考えているのかがわかって私はときどき参照しています。
 
 さて、このブログで最近、「後見監督の現場から」という記事が掲載されました。

 後見人をどのように裁判所が「監督」しているのかという視点からの記事です。

 後見人をされている方には、裁判所から報告を提出せよというような書面がくると思いますが、それがどのような意図からなされているのか、それに従わなかった場合の問題点などが書かれています。

後見監督の現場より1

後見監督の現場より2

後見監督の現場より3

後見監督の現場より4
 


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酒酔い運転と過失相殺

2008年10月17日 | 交通事故民事
「酒酔い運転で事故を起こされた場合、被害者は過失相殺されるべきでない」との主張が訴訟でされたケースがありますので、ご紹介します。

 被害者は死亡事故の遺族で、加害者は酒酔い運転で時速78キロ以上の高速度で走っていたというもの。
 もっとも、被害者は一時停止をしなければならず、優先関係からすると加害者の方が優先というケースでした。

 被害者側は、訴訟をおこし「酒酔い運転について原則として過失相殺すべきでない」と主張したのですが、裁判所はこの主張を認めませんでした。
(大阪地裁平成20年5月29日判決自保ジャーナル1751号)

「酒酔い運転について原則として過失相殺すべきでない旨の主張について検討するに、過失相殺の制度が不法行為によって発生した損害を加害者と被害者との間において公平に分担させるという公平の理念に基づいていることに鑑みれば、酒酔い運転であるとの事をもって原則的に否定することは困難である。確かに、酒酔い運転は、悲惨かつ結果の重大な事故を招来することが多々あり、社会的にも強い批判がなされていることは理解できるものの、それも過失相殺率(過失割合)の修正要素の一つとして適切に考慮することで対応可能と言えるから、この点における原告らの上記主張採用することはできない。

 理由としては「過失相殺の制度が不法行為によって発生した損害を加害者と被害者との間において公平に分担させるという公平の理念に基づいている」からということになるのでしょうが、なんだかわかったような、わからないような根拠づけです。

 結局、"酒酔い運転ということだけでは過失相殺なしというわけにはいきません。事故のもろもろの内容を考慮して過失相殺を決めます。"ということにほかならないのですが、こういう考え方が裁判所の主流です。

 2009年から刑事事件については、裁判員という一般の方の見方が入りますが、民事事件にはそのようなものは予定されておりません。

 民事事件にも一般の方が入れれば、裁判所の考えに影響を大きく及ぼせるかもしれませんが、そのようなもののない現状では、裁判所の考えは変わるとしても、ゆっくりとしかかわらないのが通常です。

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裁判官の異動と事件処理

2008年10月14日 | 未分類
 裁判官の異動は、時期としては4月1日付が多く、おおむね3~4年位同一の裁判所にいるのですが、これには当然例外があり、秋とかの時期に突然異動するということもあります。

 裁判官は、正式な辞令がでるまでは、異動するということを言ってはいけないと考える方も多く、前回の期日での担当裁判官が次の期日に行ったら変わっていたということもありえます(まれですが)。

 さて、こういうように裁判官が異動した場合、民事事件の方はどうなるのかということは、被害者の方にとっては非常に気になるところでしょう。
民事事件としては、裁判官の交替があっても、記録が引き継がれ、それまでと同じように期日は進行していきます。

 ここで「記録」というのは、主に
  原告側からの主張書面(訴状、準備書面)と証拠
  被告側からの主張書面(答弁書、準備書面)と証拠
です。

 そのほかのもの、例えば裁判官がその事件についてどう考えていたかなどは、公式には引き継がれないことになっています。

 これは「裁判官独立」という制度があるからです。

 個々の裁判官は、それぞれ職務上独立しており、他からの干渉を受けてはならないというものです。

 ですから、後から担当になった裁判官は、前の裁判官の考えに拘束されずに、自分の考えで判断をすることができるわけです。


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公判請求された場合、裁判所は罰金の判決ができるか

2008年10月10日 | 交通事故刑事事件の基礎知識
 以前、 
 「略式罰金か公判請求かはどう決まるのか」
という記事を書いたことがあります。
 
 加害者の刑事の処分で検察官が略式罰金を請求するのか、公判請求(正式裁判)をするのかはどのような事情で決まるのかについて述べたものですが、その記事にこんな質問が寄せられました。
 
 ”公判請求され、有罪が明らかな場合、刑は(執行猶予がつくとしても)必ず懲役刑以上となるのでしょうか。検察の求刑が懲役であったとしても、裁判官の判断で罰金刑になることはあるのでしょうか。”

 質問の答えとしては、こうなります。
 検察官が公判請求をしても、裁判官は、懲役刑でも罰金刑でも自分で考えたとおりに判断できます。

 実際にも、最近の判決で、検察官が懲役刑を求刑したのに、裁判官は罰金を言い渡したというケースがあります。

 仙台地裁平成20年9月19日判決は、
 宮城18人死傷事故で、助手席に乗っていて道交法違反(酒酔い運転幇助(ほうじょ))で起訴(公判請求)された被告人に対し、罰金25万円の判決をしました(検察官の求刑は懲役1年6カ月)。
 
 しかし、これはまれなケースと思っていただいた方がよいと思います。
 一般には、検察官が「このケースは、罰金ではおさめるべきではない、懲役刑を求刑する」というものが公判請求(正式裁判)になるのですから、裁判官もその考え方にのって、罰金にはしないという方が多いです。

 上記の仙台地裁判決は、検察官と裁判官の考え方が大きく分かれたケースと評価できるでしょう。



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セカンドオピニオン

2008年10月06日 | 未分類
セカンドオピニオンというのは、もともとは患者さんが、主治医とは別の医者の意見も聞いてみたいというところから生まれた言葉だと思いますが、交通事故の被害者にも「今、担当している弁護士さんで、大丈夫だろうか。ほかの弁護士さんの話も聞いてみたい。」という考えが浮かぶことはあると思います。

 法律的なときところでも、セカンドオピニオンというのは行われてよいと思います。ただ、次のところに注意が必要でしょう。

 まず、疑問がわいたら、本来は担当している弁護士と徹底的に話あうのが本筋です。ですから、そのような話あいなり、打合せなりを担当弁護士さんとしっかりして、それでも納得できないとか、疑問がどうしても解消されないというときに、セカンドオピニオンを求めてください。

 セカンドオピニオンの相談を受ける弁護士からすると、"担当の弁護士がどのように述べているのか、それとは違う考え方がありうるのか否か"という観点から相談をきくことになります。

 ところが、そのようなことがはっきりしていないと、的を絞りきれないまま相談が終わってしまいます。
これは被害者の方にとっても時間の無駄遣いになってしまいます。

 ですから、担当の弁護士さんと徹底して話し合う機会を持って下さい。
 
 その為には担当弁護士さんに、打合せをしたいとはっきり連絡し、時間をとってもらって下さい。

 打合せに応じるのは、委任を受けた弁護士としては当然のことです。

 打合せにも応じないというのであれば、そのような場合は、弁護士を変えるセカンドオピニオンを求めることもありうるでしょう。

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事故とうつ病との因果関係

2008年10月03日 | 未分類
交通事故の後、うつ病となった場合に、うつ病を理由として損害賠償請求できるのかという問題があるのですが、これについて東京地裁の判決で参考になるものがありました(東京地裁平成20年6月30日判決自保ジャーナル1747号3頁)。

事故からの主な経過は、判決を要約しますと、次のとおりです。

平成13年9月 交通事故、右大腿部等の挫傷、右下肢の神経障害で入院
12月 入院していた病院を退院
その後通院していたが
平成14年8月 医師から「もうこれ以上治療しても治らない。症状は固定している。」と告げられた。自賠責からは「局部に神経症状を残すもの」として14級10号の認定しか受けられなかった。
11月中旬 かかりつけの医院で抗うつ剤をもらい、服薬するようになる。
その後、気分の落ち込みなどがあり、自殺願望もでるようになる。
平成15年5月 精神科クリニックに通院し、うつ病と診断される。
平成18年11月 自殺により死亡。

 このように被害者は、事故の後にうつ病になっているのですが、うつ病と診断されたのは、事故から2年8ヶ月後の平成15年5月のことであり、これでうつ病と事故との因果関係が認められるのかという問題が生じます。

 この点について、裁判所は
「被害者は、精神科のクリニックでうつ病と診断されているのであって、平成14年8月27日に症状固定と診断され、長年携わってきたオートバイ関連の仕事に従事することができなくなり、後遺障害も14級程度しか認められず、やがて、自殺願望が出るようになっていたことに照らすと、専ら本件事故が被害者のうつ病の原因となったとまで認めることはできないにしても、本件事故がその一因となったことは到底否定できないから、Aのうつ病と本件事故との因果関係は認められる。」
と判断しました。

 あまり理屈にはなっていないような気もしますが、精神科クリニックでうつ病と診断されたことや、その経過から因果関係自体は認めています。

 もっともこの判決は、因果関係は認めつつも
「うつ病が症状固定していたとはいえない。」として、うつ病が後遺障害となったことは否定し、自殺したことと事故との因果関係については、事故と自殺との間の時間が相当経過していることも考慮して、これまた否定しています。

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