公布:明治23年2月10日
施行:明治23年11月1日(上諭)
裁判所構成法を読む 第5章 大審院
#裁判所構成法
第5章 大審院
第43条 大審院ヲ最高裁判所トス。
2 大審院ニ、一若ハ二以上ノ民事部及刑事部ヲ設ク。
(コメント)
大審院は最高裁判所である。では、最高裁判所とは何か?というと、その点の明示的な規定はない(もっとも、「終審」であることは規定されている;50条)。現在の最高裁判所は、「一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所」とされているが(憲法81条)、このような権限は大審院にはない。
#裁判所構成法
第44条 大審院ニ、大審院長ヲ置ク。
2 大審院長ハ、大審院ノ一般ノ事務ヲ指揮シ、其ノ行政事務ヲ監督ス。
3 大審院ノ各部ニ部長ヲ置ク。部長ハ部ノ事務ヲ監督シ、其ノ分配ヲ定ム。
(コメント)
本条では大審院長及び部長につき規定する。地方裁判所や控訴院とほぼ同様の規定(20条、35条)。部長が部の事務を監督することとなっており、裁判官の独立は制約を受けていた。
#裁判所構成法
第45条 大審院ノ事務ノ分配、竝ビニ代理ノ順序ハ、毎年部長ト協議シ、大審院長前以テ之ヲ定ム。
2 大審院長ハ、次年自ラ上席セントスル部ヲ指定スヘシ。
3 大審院ノ判事差支ノ爲、或ル事件ヲ取扱フコトヲ得ス、且同院ノ判事中其ノ代理ヲ爲シ得ヘキ者ナキ場合ニ於テ、其ノ事件緊急ナリト認ムルトキハ、之ヲ代理スル判事ヲ出スヘキ旨ヲ大審院長ヨリ其ノ所在地ノ控訴院長ニ通知シ、其ノ控訴院ノ判事ヲシテ代理ヲ爲サシムルコトヲ得。
(コメント)
大審院長の権限。事務分配等を決めるのに、部長と協議しなければならず、部長の調整役のよう。
#裁判所構成法
第46条 大審院長ハ、何時ニテモ部長若ハ部員ノ承諾ヲ得テ、之ヲ他ノ部ニ轉セシムルコトヲ得。
(コメント)
前条に引き続き大審院長の権限。部員である判事を他の部に転ずることができるとの規定であるが、当該部員又は部長の同意が必要であるので、大審院長の権限としては強くない。
#裁判所構成法
第47条 大審院ニ於テ、一タビ定マリタル部ノ組立ヲ變更シタルトキハ、現ニ取扱中ノ事務ニ付テハ、第二十三條ヲ適用ス。
2 司法年度中、事務分配ノ變更ニ付テハ、第二十四條ヲ適用ス。
(コメント)
部の組立てを変更したときは、事件の引継ぎに関する23条を適用する。事務の分配は原則として司法年度中は変更しない(24条1項)が、裁判の事務が過大な場合は新たに部を設置することができるが、その権限は司法大臣にある(同条2項)。
#裁判所構成法
第48条 大審院ニ於テ裁判ヲ爲スニ當リ、法律ノ點ニ付テ表ジタル意見ハ、其ノ訴訟一切ノ事ニ付キ、下級裁判所ヲ覊束ス。
(コメント)
大審院の判決の羈束力についての規定。なお、現行法(裁判所法)では、「上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について下級審の裁判所を拘束する」とあり(同法4条)、上級審一般についての規定となっている。
#裁判所構成法
第49条 大審院ノ或ル部ニ於テ、上告ヲ審問シタル後、法律ノ同一ノ點ニ付キ、曾テ一若ハ二以上ノ部ニ於テ爲シタル判決ト相反スル意見アルトキハ、其ノ部ハ之ヲ大審院長ニ報告シ、大審院長ハ其ノ報告ニ因リ、事件ノ性質ニ從ヒ、民事ノ總部若ハ刑事ノ總部又ハ民事及刑事ノ總部ヲ聯合シテ、之ヲ再ヒ審問シ及ビ裁判スルコトヲ命ズ。
(コメント)
大審院がいかなる場合に、連合部により審問・裁判しなければならないかについての規定。連合部には、民事連合部・刑事連合部・民刑連合部がある。現行法では、「法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき」は大法廷で事件を扱うとの規定(裁判所法10条但書3号)に引き継がれている。
#裁判所構成法
第50条 大審院ハ左ノ事項ニ付キ、裁判權ヲ有ス。
第一 終審トシテ
(イ) 第三十七條第二ニ依リ爲シタル判決、及ビ第三十八條ノ第一審ノ判決ニ非ザル控訴院ノ判決ニ對スル上告。
(ロ) 控訴院ノ決定及ビ命令ニ對スル、法律ニ定メタル抗告。
第二 第一審ニシテ終審トシテ
刑法第二編第一章及第二章ニ掲ゲタル重罪、竝ビニ皇族ノ犯シタル罪ニシテ、禁錮又ハ更ニ重キ刑ニ處スべキモノノ豫審及ビ裁判。
(コメント)
大審院の事物管轄。大審院が上告審であること等を定める同条第一は、現行法とも類似している。同条第二は、「第一審ニシテ終審」を定めており、現行法にはこのような制度がないので、この時期に特徴的である。
#裁判所構成法
第51条 前條第二ニ掲ケタル事件ニ付キ、大審院ハ必要ナリト認ムルトキハ、事件ノ審問裁判ヲ爲ス爲、控訴院若シクハ地方裁判所ニ於テ法廷ヲ開クコトヲ得。
2 此ノ場合ニ於テハ、控訴院判事ヲ以テ部員ニ加フルコトヲ得。但シ其ノ半數ニ滿ツルコトヲ得ズ。
(コメント)
前条第二は、大審院が「第一審ニシテ終審」となる事物管轄について定めているが、当該事件についての審理方法を本条は定める。大審院では一審としての設備を持っていないからか、必要があれば、地裁や控訴院で法廷を開くことができると規定している。
#裁判所構成法
第52条 大審院ノ權限、竝ビニ其ノ裁判權ヲ行フノ範圍、及ビ方法ニシテ、此ノ法律ニ定メザルモノハ、訴訟法又ハ特別法ノ定ムル所ニ依ル。
(コメント)
裁判所構成法以外にも、訴訟法や特別法の規定により控訴院が管轄を有するとする規定。地方裁判所については30条、控訴院については39条が規定しており、同趣旨。
#裁判所構成法
第53条 大審院ニ於テ、訴訟法ニ依リ法廷ニ於テ審問裁判スべキ事件ハ、七人ノ判事ヲ以テ組立テタル部ニ於テ之ヲ審問裁判ス。其ノ七人ノ判事中一人ヲ裁判長トス。其ノ他ノ事件ハ訴訟法ノ定ムル所ニ從ヒ判事之ヲ取扱フ。
(コメント)
訴訟法により審問裁判すべき事件は、控訴院では判事5人での合議体だが(40条)、大審院では本条により7人での合議体となる。現行法では最高裁の小法廷は5人の合議体である。
#裁判所構成法
第54条 第四十九條ニ定メタル場合ニ於テハ、聯合部ノ判事少クトモ三分ノ二列席スルコトヲ要ス。
2 前項ノ場合ニ於テ、民事ノ總部若ハ刑事ノ總部聯合スルトキ、又ハ民事及ビ刑事ノ總部聯合スルトキハ、總部ノ判事中官等最モ高キ者ヲ部長ト爲ス。大審院長ハ至當ナリト認ムルトキハ、自ラ總部ニ長タルノ權ヲ有ス。
(コメント)
大審院で連合部により審問・裁判すべき場合(49条)についての手続き規定。
#裁判所構成法
第55条 大審院長ハ、第五十條ニ依リ大審院ニ於テ第一審ニシテ終審ヲ爲スべキ各別ノ場合ニ付キ、大審院ノ判事ニ豫審ヲ命ズ。但シ、便宜ニ依リ各裁判所判事ヲシテ、豫審ヲ爲サシムルコトヲ得。
(コメント)
大審院が第一審かつ終審である事件(50条)については、大審院判事が予審も担当するのが原則であるが、地裁や控訴院判事でもよいとの例外も広く認められている。
#裁判所構成法
第56条 大審院ノ檢事局ニ檢事總長ヲ置ク。
2 檢事總長竝ビニ其ノ他ノ檢事ノ職權ニ付テハ、第三十三條ヲ適用ス。
(コメント)
地裁の検事局には検事正を置き(33条)、控訴院の検事局には検事長を置く(42条)。大審院の検事局には検事総長を置くことを本条は定める。