南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

履行勧告は使える制度か?

2021年06月28日 | 家事事件関係
(履行勧告とは)
「家庭裁判所で決めた調停や審判などの取決めを守らない人に対して,それを守らせるための履行勧告という制度があります。」
履行勧告は、こんな感じに説明されており、家裁での調停等で決めたことを守らせ用とする制度です。

(具体的には)
具体的な手段としては次の様に説明されています。
「相手方が取決めを守らないときには,家庭裁判所に対して履行勧告の申出をすると,家庭裁判所では,相手方に取決めを守るように説得したり,勧告したりします。」
 履行を希望する者が家裁に申出をすると、家裁が説得・勧告をしてくれるというのです。
 もっとも、実際には「履行勧告書」なる書面を家裁が相手方に送付するだけです。
 書式としてはこんな感じです。

*******
 履行勧告書

 当庁平成*年**号事件の和解条項に定められた養育費について、**さん(権利者)からあなたの支払いが遅れているとの申し出がありました。
 申し出によりますと、遅滞額は*万円です。
 すでにご存知のことと思いますが、和解により定められたことは確定判決と同じ効力があり、必ず履行しなければなりません。
 つきましては、*月*日までに未払金*万円を支払われるよう勧告します。
 支払いの困難な事情がある場合等は、*月*日までに当職宛に電話または書面によりその事情を説明してください。
 なお、この勧告は、権利者の申し出にもとづいておりますので、すでに履行している場合、不履行金額に誤りがある場合は、ご面倒ですが、当職宛に支払日と支払金額をご連絡ください。
 連絡は、月曜から金曜日(休日を除く)の午前9時から午後4時までにお願いします。
*******
 
(履行勧告に強制力はない)
 説得や勧告をしてくれるといっても残念ながらこのような程度であるというのが現実です。
 法的な強制力もありません。つまり、相手が無視してしまえば、ほどんど無力です。
「履行勧告の手続に費用はかかりませんが,義務者が勧告に応じない場合は支払を強制することはできません。」
 このように、履行勧告に強制力は無いため、相手の良心に期待する制度であるとは言えます。
 履行勧告を行っても、相手が履行しない場合は、強制執行を行うかどうかを検討することとなります。

 



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嘘をついて結婚したことは離婚原因になるか

2021年06月24日 | 家事事件関係
(問題の所在)
 恋愛をしているときというのは、自分をよく見せようという心理が働くものです。結婚した後に、言ってたことと違ったことがわかったとなると、夫婦間では喧嘩になること間違いなしです。
 夫婦喧嘩をしてもよく話し合って、少々オーバーな表現はあったかもしれないけれど、まあ仕方ないと元の生活を取り戻せればよいですが、それがもとで何か法律上できませんかねということになりますと穏やかではありません。
 婚姻前に話したことが嘘であった、言うべきだったことを言ってなかったではないかということは、時々ご相談でも伺うのですが、法律上はどう考えられるのでしょうか。

(婚姻取消しになるか)
婚姻取消しという制度があります。
「詐欺又は強迫によって婚姻をした者は、その婚姻の取消しを家庭裁判所に請求することができる」と民法に規定されています(747条1項)。
ここでの「詐欺」とはどのようなことをいうのでしょうか。この言葉を緩く解釈してしまいますと、婚姻の取消しもしやすくなります。取消しというのは、一旦成立したものの効果をなくしてしまうものです。ましてや婚姻をすれば子どもが生まれることもありますし、いろいろな法律上の関係が積み重なってしまいますから、そうそう簡単に取消しを認めるわけにはいかないように思います。
そんなことを考えてのことなのでしょう。法律家はここでの詐欺は、人の属性について虚偽の事実を告げたり、不利な事実を黙秘するものだが、そういう行為の中でも「一般人について相当重要なものとされる程度の錯誤に陥ったこと」が必要だと言っています。相当強度な違法性が必要だということです。

(婚姻取消しの裁判例)
実際の例を挙げたいのですが、ほとんど裁判例がないようです。昭和13年判決という古い判決がよく引き合いに出されています。
仲人から男性は薬剤師で、月給90円と聞いて結婚したのに、薬剤師の免許もなく、また月給は70円だったというケースです。このような場合には、婚姻の取消しは認められないというのが結論でした(東京地裁昭和13年6月18日判決)。
 私の感覚でいうと、だいぶ酷いケースのような気もするのですが、まあ、そういう裁判例があります。

(婚姻取消しには期限がある)
この婚姻の取消権というもの、詐欺だということがわかってから3ヶ月以内に取消しを請求しなければなりません(民法747条2項)。そういう意味では取消しというのは、はなはだ使いにくい制度で、裁判例がほとんどないのは、この3ヶ月以内に請求をしなければならないということにも理由があるのかもしれません。

(離婚原因にならないか)
 私はこの問題は離婚原因との絡みで問題とすることはできると考えています。
 婚姻生活は全人格的なものです。結婚前の浮気を知ったことで、それまでに夫婦が築いてきたお互いの信頼関係は壊れてしまうのが通常ではないでしょうか。
 嘘を言われた方は信頼関係がなくなったことを相手に伝え、今後の夫婦関係を考え直していくことになるかと思います。そのような話し合いをして信頼関係が回復すれば、婚姻関係は続いていくことでしょう。しかし、不幸なことに、相手が嘘ばかりついて自分を守ろうとしているとか謝罪をしないということであれば、お互いの信頼関係は壊れていき、婚姻関係は破綻へと向かっていくのではないかと思います。
 このように結婚前の嘘といったできごとを今すぐに離婚原因とすることはできませんが、そのことをきっかけに話し合いをしたその結果が悪く作用すれば、離婚原因の一つとなっていく可能性はあるのではないか、そのように考えています。

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夫婦同氏の合憲性についての、2015年最高裁大法廷判決

2021年06月22日 | 家事事件関係
(夫婦同氏の合憲性、6月23日に最高裁大法廷で判決)
 夫婦同氏が合憲か違憲かについて、2021年6月23日、最高裁大法廷で判決がなされます。
 夫婦別姓を認めるか否かについては、2015(平成27)年にも最高裁大法廷での判決があり、このときは夫婦を同氏とする現在の制度は、憲法24条に違反しない(合憲説)とする裁判官が10名、違憲であるとする裁判官が5名に分かれました。
 報道では、2015(平成27)年判決について簡単にしか触れていないので、この判決について少し紹介します。

(夫婦同氏の制度)
 問題となっているのは、夫婦は婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称すると定めるという規定です(民法750条)。
 この夫婦の同氏の制度について、2015年判決は、「婚姻に伴い夫婦が同一の氏を称する夫婦同氏制は、旧民法(昭和二二年法律第二二二号による改正前の明治三一年法律第九号)の施行された明治三一年に我が国の法制度として採用され、我が国の社会に定着してきたものである。」と述べています。
 夫婦同氏が、わが国古来からの制度であるという考え方をとる方もおられるようですが、最高裁が認定したのは明治31年からの制度であるということです。明治31年は、西暦でいえば1898年なので、夫婦同氏制度が法制度として採用されてからは120年強ということになります。
 2015(平成27)年判決は、夫婦同氏制度の不利益があることも認定していまして、次のように述べています。
①夫婦同氏制の下においては、婚姻に伴い、夫婦となろうとする者の一方は必ず氏を改めることになるところ、婚姻によって氏を改める者にとって、そのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり、婚姻前の氏を使用する中で形成してきた個人の社会的な信用、評価、名誉感情等を維持することが困難になったりするなどの不利益を受ける場合がある。
②氏の選択に関し、夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている現状からすれば、妻となる女性が上記の不利益を受ける場合が多い状況が生じている。
③さらには、夫婦となろうとする者のいずれかがこれらの不利益を受けることを避けるために、あえて婚姻をしないという選択をする者が存在することもうかがわれる。

(憲法24条)
 本件では憲法24条が大きな争点となっていますので、どのような条文なのかを見ておきましょう。
 24条には1項と2項があります。
 1項は、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」という規定です。
 2項は、「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」と規定しています。
 条文には、夫婦同氏制度をどうするか直接は規定されていません。
 そこで、条文を解釈して、夫婦同氏制度が、憲法24条に違反するのかどうか、これを決めたのが、2015年の最高裁の判決ということになります。

(今回最高裁大法廷に回付された理由)
 最高裁には15名の裁判官がおり、15名全員が判断に参加するのを、「大法廷」といいます。通常は、5名の裁判官で判断するのですが(第1小法廷、第2小法廷、第3小法廷の3グループがあります)、特に重要な問題などについては大法廷での判断となります。
 最高裁に上告された場合、案件は、まず小法廷にかかります。
 小法廷での結論が、合憲であった場合は、前回、2015(平成27)年に、「夫婦同氏制度は憲法24条に違反しない(合憲である)」との結論が最高裁大法廷ででておりますので、大法廷に回すことなく、小法廷で「合憲」という判決がでたはずです。
 しかしながら、今回、理由の詳細はわからないのですが、小法廷から大法廷に回されています。
 これは、小法廷の中では、違憲であるという結論が多数を占めた可能性があるとみています。
 小法廷は裁判官が5名いますので、そのうち3名が違憲説をとった場合、2015(平成27)年最高裁判決の結論と異なりますので、この場合は、小法廷では判決が出せず、大法廷に回さなければならないことになっています。
 大法廷に回った理由については、公表はされないので、報道でもこの点は触れられていませんが、このような理由から大法廷に回ったと私はみています。

(2015年判決多数意見が合憲とする理由)
 2015年判決多数意見が、夫婦同氏制度を合憲とした理由についてみておきましょう。
①氏は個人の呼称としての意義があり、名とあいまって社会的に個人を他から識別し特定する機能を有するものであって、夫婦及び嫡出子がいずれも氏を同じくする制度は合理性があるということです。
 以下、最高裁判決を引用します。
「氏は、家族の呼称としての意義があるところ、現行の民法の下においても、家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ、その呼称を一つに定めることには合理性が認められる。
 そして、夫婦が同一の氏を称することは、上記の家族という一つの集団を構成する一員であることを、対外的に公示し、識別する機能を有している。特に、婚姻の重要な効果として夫婦間の子が夫婦の共同親権に服する嫡出子となるということがあるところ、嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保することにも一定の意義があると考えられる。また、家族を構成する個人が、同一の氏を称することにより家族という一つの集団を構成する一員であることを実感することに意義を見いだす考え方も理解できるところである。さらに、夫婦同氏制の下においては、子の立場として、いずれも親とも等しく氏を同じくすることによる利益を享受しやすいといえる。
 加えて、本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではなく、夫婦がいずれの氏を称するかは、夫婦となろうとする者の間の協議による自由な選択に委ねられている。」
②夫婦同氏制度で不利益を被る者がいること自体は、最高裁も認識しているのですがそのような不利益は、通称使用により緩和されるからよいだろうという判断をしています。
「夫婦同氏制は、婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく、近時、婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっているところ、上記の不利益は、このような氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものである。」

(選択的夫婦別氏制度について)
 選択的夫婦別氏制度についての関心が高まっているところですが、2015年判決多数意見は、この点は立法論であるとしています。つまり、夫婦同氏制度を採用するか、選択的夫婦別氏制度を採用するかは、国会が論ずべきことで、憲法違反かどうかの問題は生じないというのが、最高裁多数意見の立場です。
「なお、論旨には、夫婦同氏制を規制と捉えた上、これよりも規制の程度の小さい氏に係る制度(例えば、夫婦別氏を希望する者にこれを可能とするいわゆる選択的夫婦別氏制)を採る余地がある点についての指摘をする部分があるところ、上記の判断は、そのような制度に合理性がないと断ずるものではない。上記のとおり、夫婦同氏制の採用については、嫡出子の仕組みなどの婚姻制度や氏の在り方に対する社会の受け止め方に依拠するところが少なくなく、この点の状況に関する判断を含め、この種の制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならないというべきである。」

(2021年判決の注目ポイント)
 以上、2015年判決多数意見の見解を中心に紹介していきました。
 今回、新たに最高裁が判断を行うのですが、注目ポイントとしては、次のようなものがあるかと思っています。
①前回合憲説10対違憲説5であった、裁判官の比率がどう変わるのか。一挙に、違憲説が多数を占めるのか。
②合憲説が再び多数となった場合、2015年判決多数意見の見解を多少でも修正・補足するのか、それともそのようなものはないのか。

(追記)6月23日
1 2021年大法廷判決が合憲か否かについて、合憲論が多数意見を占め、違憲論は少数意見にとどまると思います。
(理由)
①2015年判決のときも現在も最高裁判事である者が3名おりますが、この3名はいずれも合憲論をとっていたので、今回も合憲論をとるでしょう。
②裁判官出身、検察官出身者は基本的には現体制維持の思想が強いので、これらの最高裁判事は合憲論を取る可能性が強いと考えられます。
③前回は女性裁判官3名が違憲論を取りましたが、今回女性裁判官は2名です。
④これらを勘案すると、2015年判決と同様の合憲論10対違憲論5もありうるところですが、希望的観測として8対7、又は9対6と予測します。
2 多数意見は、理由も前回の大法廷判決を引用するだけで、詳細な理由は述べないと予測します。
 前回の大法廷判決からさほど時間が経過していないこと、また、前回の大法廷判決は詳細な理由を付していましたので、それに付加することは、現時点ではほとんどないのではないかと思われます。
3 個人的には、個別意見に注目していますが、国会は多数意見の見解しか見ないことがほとんどなので、個別意見が立法動向に影響を与えるようなことはないだろうと見ています。




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藤野 善夫弁護士(2021年6月6日逝去・千葉県弁護士会)

2021年06月21日 | 千葉県弁護士会
藤野 善夫弁護士(千葉中央法律事務所所属)は、2021年6月6日、逝去された。享年72歳。
司法修習27期。
1975年4月弁護士登録と同時に千葉中央法律事務所入所。自由法曹団加入。
同年5月に提訴された千葉川鉄公害訴訟に原告弁護団として加わる。
2002年4月 千葉県弁護士会会長

(参考文献)
高橋勲「追悼藤野善夫君」(千葉県弁護士会2021年度会報「槙」)

【著作】
・藤野 善夫&中丸 素明
最近の労働仮処分の動向--なかやタクシ-事件・千葉地裁決定を契機に〔付判例〕労働法律旬報 (1072), p4-8,59〜61, 1983-05-25
・藤野善夫&後藤 裕造
組合活動家に対する異動命令の不当性--オリエンタルモ-タ-事件・千葉地裁松戸支部決定(昭61.12.1)〔含 決定〕
労働法律旬報 (1176), p60-62,67〜69, 1987-09-25
・藤野善夫&後藤 裕造
不当労働行為判断にみる分断手法--オリエンタルモ-タ-事件判決(平2.2.21)の問題点〔含 判決〕 (東京地裁労働部の動向<特集>)労働法律旬報 (1246), p12-15,28〜44, 1990-08-25
・藤野善夫&後藤 裕造
施設管理権の判断で前進をかちとる--オリエンタルモ-タ-事件・東京高裁判決(平2.11.21)〔含 判決〕
労働法律旬報 (1257), p23-26,40〜41,33, 1991-02-10
・藤野善夫&後藤 裕造
就業時間中の組合活動と職務専念義務--オリエンタルモ-タ-事件(最判平成3.2.22)〔含 判決〕
労働法律旬報 (1263), p13-15,35〜45, 1991-05-10
・藤野善夫&後藤 裕造
賃金関係処遇格差による差別の推認と企業側の反証責任--東京電力事件・千葉地裁判決の特徴と問題点
労働法律旬報 (1343), p16-21, 1994-09-10

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弁護士会の会費60万円余滞納で退会命令  弁護士の懲戒 2021年6月号掲載分から

2021年06月17日 | 法律事務所(弁護士)の経営
(はじめに)
日弁連の会誌「自由と正義」には、懲戒処分の公告が掲載されます。
弁護士の懲戒処分には、戒告、業務停止、退会命令、除名の4つがあります(弁護士法57条1項)。
2021年6月号掲載分から、気になったものを紹介します。

(戒告となった事案)
 弁護士は概ね5年に1回、弁護士倫理に関する研修を受けなければならないことになっています。
 この研修を受けなかったら懲戒になるのかどうかということは、よくわからないまま、5年に1回真面目に研修を受けてきたのですが、研修を受けずに懲戒されたケースが掲載されています。
事例1 2013年に受けなければならなかった研修を受けなかった。この間、弁護士会は研修に参加しない理由書や弁明書の提出を求められたが提出しなかった。弁護士会の会長が2017年3月に勧告、2018年6月に命令を行ったが、これらを無視して研修を受講しなった。⇒戒告
【感想】
 研修を受講しなければならないのは義務だとされながら、このスローペースの処理には愕然とさせられます。
 2013年に受講すべきであったのですから、その後、受講しなかったことに正当な理由があるか否かを調査、そのうえで、翌2014年の受講を命じて、正当な理由がないのに受講しなければ懲戒処分ができるはずですが、2018年まで待っていたというこの遅さは、一般常識として通用するのでしょうか。

(業務停止となった事案)
事例2 ある会社が貸金の返還の訴訟の被告となったので、この会社の代理人になった弁護士。しかし、裁判には負けて敗訴判決。
 会社は、判決によって強制執行を受けることとなってしまいました。

そこで、この弁護士は、会社から4件の委任契約を締結したことにして、その報酬等を3000万円とし、強制執行での配当として、弁護士が受け取りました。委任契約の内容が虚偽なので、3000万円の報酬も虚偽。しかも、その目的は会社に対してお金を貸していた原告の権利を阻害するものでした。⇒業務停止4月

(退会命令となった事案)
事例3 18か月分の弁護士会の会費合計60万円余を滞納した。⇒退会命令
【感想】
 長期間の弁護士会の会費滞納は、かなり厳しい処分となるのが通り相場で、実際このケースも退会命令、即ち所属している弁護士会から退会させられてしまいました。他の弁護士会に入会することは法的にはできますが、すぐに入会できるものなのかどうか・・・。それにしても、事例2の方がひどい事案のような気がするのは私だけでしょうか。

(弁護士会には「懲戒処分の指針」がない)
 公務員の場合は、懲戒処分の指針があって、ある行為をした場合、どのあたりの処分をするのかの基準が一応定まっているのですが、弁護士会には懲戒処分の指針に該当するものがありません。そのため、公にされた事例をもととして、このような事案ならこのくらいの懲戒処分なのかと相場を探るしかありません。

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裁判が和解で終了する、その終了の手続きについて

2021年06月14日 | 民事訴訟
(裁判の終わり方)
 裁判所に裁判を起こすときは、判決をもらって黒白しっかりつけると思っている方も多いと思いますが、裁判(訴訟)の終わり方は、判決だけではなく、和解(合意)という終わり方もあります。
 裁判官の多くは和解を勧めますし、依頼している弁護士も和解を勧めるでしょうから、和解で終了することの方が多いかと思います。
 
(期日での和解)
 和解(合意)というのはどのようになるのかというと、裁判所の期日で裁判官が和解条項というものを読み上げて、当事者(代理人でもOKが原則ですが、離婚のときだけ本人出頭も必要です)がこれを確認すれば、和解が成立します。
 この和解条項は、その場に立ち会った書記官が「和解調書」という裁判所の公的書面を作成し、記録に残します。

(和解条項)
 和解条項というものは具体的には以下のようなものです。
 原告が請求する側、被告が請求される側で、原告の請求が300万円だったが、100万円を支払うことで合意するケースを想定しています。
1 被告は、原告に対し、本件の解決金として、100万円の支払義務があることを認める。
2 被告は、原告に対し、前項の金員を、原告の銀行口座(○○銀行 ○○支店 ○○口座 口座番号:○○ 口座名義:○○)に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は、被告の負担とする。
3 原告は、その余の請求を放棄する。
4 原告及び被告は、原告と被告との間には、この和解条項に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する。
5 訴訟費用は各自の負担とする。

(和解条項の意味)
 1項と2項で支払う金額と、支払時期、振込口座などを定めています。
 3項~5項は、「これ以上は原告は被告に請求しません」ということを意味する法律上の決まり文句です。それぞれに意味はちゃんとあるのですが、法律家のための言葉なので、一般的には、これ以上請求しないし、今後も請求しないという意味だと思っていただいてほぼ間違いありません。

(和解調書の交付方法)
 和解調書はただ待っているだけでは、裁判所は送ってきてくれません(判決は送ってくれるのですが)。和解調書には、申請が必要です。和解期日に申請を行うのが、申請漏れ防止の点からも望ましいです。


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モラハラは裁判所にわかってもらえるか

2021年06月12日 | 家事事件関係
Q 配偶者からモラハラされていましたが、裁判所で分かってもらえるものでしょうか?

調停と裁判(訴訟)では、裁判所の理解の仕方が違います。

【調停の場合】
調停はあくまでも話し合いの場。調停委員は、証拠をみて事実を認定するという作業をしません。
ですから、モラハラを一方はしたと言っているけれども、一方はしてない、そんなこと言ってないということになれば、調停委員からは、こんな感じの反応になることが多いようです。

「あなたは配偶者からモラハラされたって言ってるけど、相手はそんなことはしてないって言ってるから、私たちとしてはどちらが正しいのか決められません。だから、この点はそれ以上立ち入らないでお互いが合意できるところがあるかを話し合っていきましょう」

モラハラ被害者からすれば、理解されなくてがっかりですが、裁判所は中立であることが建前なので、片方だけの味方にはなってくれません。それが、裁判所の、特に調停での限界です。

ただ、モラハラなどというものを理解していない調停委員もまだまだ多いです。
そんなのモラハラじゃないというようなリアクションをされてしまうこともあるでしょう。何のために調停をしているのか分からなくなってしまうときもあるでしょう。そういうときは、何らかのサポートを得ながら、対策を立てて進めていった方が良いです。

【裁判(訴訟)の場合】 
裁判官は、判決を書くときは、証拠に基づいて、モラハラがあったかなかったかを認定していきます。この〈事実認定〉をしていくことが裁判官の役目です。

ここで注意したいのが、「判決を書くときは」というところです。じゃあ、判決を書くまではどうかというと、裁判官はポーカーフェイスでなかなか考えを明らかにしてくれません。

(裁判官の事実認定の方法)
そこで、裁判官がどんなことを考えて事実を認定していくのかを知っておくことが有益です。
事実認定のルール
「当事者双方に争いがなければ、その事実を認める。そうでない場合(争いがある場合)は、他の証拠の裏付け、特に客観的な証拠が必要。人の供述は慎重に取り扱う。」

(モラハラの場合の事実認定)
 モラハラの場合を考えてみましょう。
 モラハラをしたことを配偶者も認めている場合(めったにありませんが…)。この場合は裁判官もその事実を認めます。
 しかし、モラハラを一方はしたと言っているけれども、一方はしてない、そんなこと言ってないという場合。
 この場合は客観的な証拠がいとなかなか認めてくれません。
モラハラは言葉の暴力だけに、後に残りません。
「あの人はあのときこんな風に言ってた」ということを法廷で話すことではダメなのか?こういう証拠を「供述証拠」というんですが、残念ながら、裁判官は、この「供述」というものをあんまり信用してくれません。
DVのケースですら、診断書とか写真などの証拠が存在しないと裁判官は一方が殴ったという認定をなかなかしてくれない。つまり、裁判の上では、殴っていないことになってしまうわけです。
 一方の言ってたことを裁判官がなかなか信用しないのは、争いになってからは、双方が言いたいことを言いたい放題にいうという風に裁判官が考えているからです。ですから、争いになる前に書いていたようなものがあればそれはかなり強力な証拠になります。
 例えば、日記です。今はあまり付けている方がいませんが、モラハラで離婚を考えている方は日記は大事です。後で書いたものを、裁判官はなかなか信用してくれないので、日々つける日記、何気ない日常のことも書いてある日記が結構大事な証拠になります。

(裁判では証拠が大事)
このように裁判では証拠がかなり重要です。どのような証拠を出していったら良いのかについて、弁護士とよく協議して進めていく必要があります。


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雇止めが許されないとされた裁判例から(独立行政法人のケース)

2021年06月11日 | 病院・独立行政法人
(労働契約を考える日)
 6月10日は労働契約を考える日だそうですので(語呂合わせに由来するそうです)、何か労働契約に関する記事を書いてみようかと思いましたら、雇止めに関する山口地裁令和2年2月19日判決(労働判例1225・91)を見かけましたので、以下この判決(地方独法山口県立病院機構事件)を紹介する形で、労働契約について考えてみようと思います。

(地方独立行政法人と労働契約)
 地方独立行政法人は、独立行政法人の地方版で、地方独立行政法人法という法律を根拠としています。
 地方独立行政法人の制度は公共性、透明性、自主性を重視しつつ、企業的な運営を可能にしようとするものです。
 自治体が有している事業を切り出して、自治体とは別の法人格をもった法人に事業を行わせるという活用の仕方をされ、独立行政法人化されることが多いものとしては、病院事業があります。今回ご紹介する独立行政法人山口県立病院機構も、もともと山口県が運営していた2つの県立医療センターを切り出して、平成23年4月に独立行政法人化したものです。
 独立行政法人化されますと、職員は公務員の身分を失うので(一般地方独立行政法人の場合)、地方独立行政法人の職員になると、労使の間には労働契約法が適用されます。
 
(本件の労働契約)
 地方独法山口県立病院機構は、平成23年4月1日に設立されたので、この日に労使間で労働契約が締結されています。
 判決が認定している同日の労働契約は次のとおりです(原告は看護師、被告は独立行政法人山口県立病院機構)。
 ”原告及び被告は、平成23年4月1日、次の労働条件で労働契約を締結して、平成29年3月31日まで、1年ごとに更新し、本件労働契約の更新ごとに、同労働条件が記載された雇用契約書兼労働条件通知書を取り交わした。
 契約期間 1年間
 勤務場所 本件病院
 業務内容 看護業務及びそれに付随する業務
 勤務時間 1週間あたり38時間45分(始業・終業時刻及び休憩時間は就業規則の規定による。)
 更新の有無 更新する場合がある。
 更新の判断基準 契約期間満了時の業務量及び労働者の勤務状況により判断する。”
 この契約は、契約期間が「1年間」と決まっています。このような期間の定めのある労働契約は、「有期労働契約」といい、期間の定めのない契約と区別されます。

(有期労働契約の法規制)
 有期労働契約は、期間の満了によって終了するのが原則です。
 しかし、実際にはその期間では終了とならず、更新、更新となっていくこともあります。こうなると、期間の定めのない契約と実質的には同じようになってきますね。実際、そのように有期労働契約が悪用されてきたので、労働契約法は、次のような場合は、雇止めは許されないとしています(労度契約法19条)。
①労働者が契約期間満了までの間に更新の申込みをしたor契約期間の満了後遅滞なく契約の締結の申込みをすること 
②次のどちらかのタイプにあたること
 ア 実質無期タイプ(19条1号)
 有期労働契約が過去に反復して更新されて、実質的に期限の定めのない労働契約と同視できるタイプ
 イ 合理的期待タイプ(19条2号)
 有期労働契約の契約期間の満了時に更新されることの期待に合理的な理由があるタイプ。
③使用者が労働者の申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠くこと。
 さて、このように言われても、②や③が一体どういう場合に認めっれるのか、ピンとこないと思われる方は多いのではないかと思います。
 そこで、本件裁判例でどのような判断がされたのかをみていくことで、ご説明していきます。

(更新への合理的な期待)
 本件では、上記の②については、合理的期待タイプ、つまり、更新への合理的な期待があったと裁判所は判断しています。
 判決では、2つの理由をあげています。 
 ひとつは、契約更新手続の状況です。平成23年4月以降、反復継続して労働契約を更新されてきており、しかもその手続は、形式的に更新の意思の確認が行われるというだけで、勤務態度等を考慮した実質的なものではなかったことです。このような形式的な更新手続きというのが1点目の理由。
 2点目は、業務内容。原告が従事していた看護業務は、臨時的・季節的なものではなく、恒常的業務であり、契約期間の定めのない職員との間で、勤務実態や労働条件に差がなかったことが挙げられています。
 このような2つの理由から、原告が本件労働契約の契約期間満了時に本件労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるといえると結論付けています。

病院側からは、「原告の勤務態度に問題があった」との主張がなされているのですが、判決は、「問題の行動があったと主張している時期にも病院側は、原告との契約を更新しているのだから、更新に際しては原告の問題行動があったことは考慮していないではないか」との点を指摘し、被告の主張を認めていません。
 以上からわかることは、人事評価を的確に行い、それを有期労働契約の更新の有無と連動させることが必要であるということです。人事評価を行わず、又は行ったとしても、今は人手が必要だから契約を更新し、経営が苦しくなったら、更新を拒絶するという運用は許されないというのが裁判所の考え方なのでしょう。

(病院側の申込み拒絶は合理的な理由がない)
 本件では、上記の③につき、原告の申込みを拒絶することは、客観的に合理的な理由を欠くと裁判所は判断しています。
 病院側は、雇止めの理由を面接試験をしたうえで、原告の評価が低かったからとしているのですが、裁判所は、「面せ私見には、合理的な評価基準の定及び評価の公正さを担保できる仕組みがなく、その判断過程は合理性に欠ける」としており、病院側の主張は一蹴されています。

(まとめ)
 本件では、病院側の主張は排斥され、原告の主張が認められています。つまり、病院側の雇止めは無効であるということです。
 病院側としては、漫然と更新を繰り返し、適正な人事評価を怠っていたことが敗因です。
 病院側からすれば、平成30年3月末で雇用契約が終了していたと思っており、原告も病院で働いていないのですが、この判決のように雇用契約は現在も継続しているということになれば、平成30年4月以降、原告に対して給料を支払わなければなりません。原告は労働をしていませんが、それは病院側が労働を拒絶したからなので、賃金を支払う義務が病院に生じるのです。
 この判決は令和2年2月にでており、少なくとも2年2ヶ月(26か月)分の賃金を病院側は支払わなければならないのです。

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婚姻費用の審判書や養育費の審判書に執行文付与が不要な理由

2021年06月09日 | 家事事件関係
(審判書での強制執行に執行文は不要)
民事訴訟の判決で強制執行を申し立てる場合、「執行文の付与」という手続きが必要となります。
しかし、婚姻費用の審判書や養育費の審判書での強制執行には、この「執行文の付与」の手続きは不要です。
審判が確定していることの証明書(確定証明書)を添付すれば、強制執行はできます。

(なぜそうなのか)
 以上が結論的なもので、これらは裁判所のホームページを見れば書いてあることです。
しかし、なぜ判決は執行文が必要で、婚姻費用の審判は執行文が不要なのかについてまで、裁判所のホームページでは説明をしてくれていません。
 理屈がわからなくても、書面を揃えれば手続きは進められるのですが、なぜそうなのかが気になってしまうのが、法律家というものでして、私もその法律家の癖がなかなか抜けない一人です。
 以下、理屈に興味がある方だけご覧いただければよいことを書いていきます。

(判決も婚姻費用の審判も、両方とも「債務名義」)
 「執行文の付与」の手続きについては、民事執行法という法律に書いてあります。 
「執行文の付与は、債権者が債務者に対しその債務名義により強制執行をすることができる場合に、その旨を債務名義の正本の末尾に付記する方法により行う。」(民事執行法26条2項)。
 この条文からわかることは、執行文というのは、「債務名義」というものの正本の末尾に付記するものだということです。
 では、「債務名義」とは何か。
 これも民事執行法に規定があります(22条)。
「(債務名義)
強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一 確定判決
二 仮執行の宣言を付した判決
三 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
(以下略)」
 1号と2号が判決についてです。「確定判決」というものと「仮執行の宣言を付した判決」というものがあることがわかりますね。
 婚姻費用の審判や養育費の審判は、3号の「抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判」にあたります。
 わかりにくいですね!
 婚姻費用の審判や養育費の審判が、なぜ3号にあたるかを説明するには、不服申し立て方法、特に抗告について説明しなければならないのですが、脇道にそれてしまうので、省略します。
 ここでは、結論だけ覚えておいてください。
 以上から、判決も婚姻費用の審判も、両方とも「債務名義」だということがお分かりいただけたかと思います。

(婚姻費用審判に「執行文の付与」が不要なわけ
 ここまでの説明だと、債権者が債務者に対しその債務名義により強制執行をすることができる場合は執行文の付与手続きが必要なんだから、婚姻費用の審判も判決と同じく「執行文の付与」が必要になりそうな気がします。
 しかし、婚姻費用の審判は、「執行文の付与」は不要なのです。
 それは、別の法律にこんな規定があるからです。
家事事件手続法75条
(審判の執行力)
「金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずる審判は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する。」
 婚姻費用も養育費も、金○○円を支払えという内容の審判です。
 つまり、「金銭の支払いを命ずる審判」になります。
 ですから、この条文は、婚姻費用の審判は、執行力のある債務名義になります=執行文は不要、という意味になるのです。
 これで婚姻費用審判に執行文が不要であることがわかりました!
 「家事事件手続法に規定があるから」が正解になります。
 しかし、いきなりこの家事事件手続法75条を見ても、おそらくほとんどの方は意味がさっぱりわからないと思います。
 「執行力」だとか「債務名義」だとか、このような言葉を一つずつ覚えていかないと、条文の意味が取れないのです。
 法律を学ぶということは、そういうことで、一つ一つの言葉の概念は個々の積み木みたいなものですが、それを使って、いろんな物を作っていくような感じです。

(法律の理屈を法律家が学ぶ理由)
 以上長々と書いてきたのは、法律の理屈です。
 最初に書きましたが、実際の案件にあたっている方は、理屈の部分まで知っておく必要はありません。
 冒頭の結論部分だけわかれば、手続きは進められます。
 理屈の部分は法律家に任せておけばよいのです。
 法律家が理屈を覚えるのは、他にも応用をきかせるためです。
 算数とか数学で、「応用問題」ってありましたよね。
 計算はできるのに、応用問題はできないな、とか。あれは、問題文からその奥に潜む理屈を読み解かねばならないからです。
 法律家がやっているのは、そんなようなことです。

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検事総長が検察実務をデジタル化するって言ってましたが。供述調書はデジタル化できる?台湾の尋問調書デジタル化について。

2021年06月03日 | 刑事関係の話題
(検事総長のインタビュー記事)
 最近のニュースで、NHKが林検事総長をインタビューしたというのがあって、その中で、検事総長が、デジタル化ということを買ったておりました。世の中デジタル化ということだそうだから、うちの検察庁でもなんかやらんといかんと思ったかどうかは知らないのですが、具体的には、①紙を大量に持っているのはおかしい、とか②遠方の参考人の話を聞く場合には、デジタル化すればよいというようなことを述べておりました。

(供述調書)
この話を理解するには、刑事訴訟の証拠として用いられる供述調書について理解しておく必要があります。
この供述調書というのは、人の話を警察官とか検察官が聴取して、書面化したものです。
書いてあることは、話者の話しです。
ただ、いったことをそのまますべて文書化するわけではなく、整理した形で述べるのです。
つまりは、編集が入る。
編集が入ると、その編集者の主観なり方向性が出てきてしまうのですが、ここでの編集者は、警察官なり検察官だったりしますから、これらの捜査側の編集が入ったものが、供述調書ということになります。
 供述調書は、話者が被疑者のこともあれば、参考人のこともある。事件が簡単であれば、供述調書は比較的短くなりますが、重大凶悪事件ということになると、かなり分厚いものが出来上がってきます。単独犯とは限らないので、共犯事件であれば、共犯の数だけ供述調書の枚数が倍数的に増えてくることになり、これが紙が増えてくる原因となります。

(供述調書のデジタル化?)
 世の中、デジタル化、デジタル化といわれていますが、何をもってデジタル化というのか、その辺の定義がなされないまま、デジタル化されなければならないという話が進行しているような気がします。
 明治時代が始まったときも、ご一新、ご一新と内容もよくわからず走り続けた記憶をもつのが日本人なので、この辺は昔から変わらないのかもしれません。
 例えば、供述調書をデジタル化するというのはどういうことなのか?
 供述調書の作成は、パソコンで作っていますから、データの形としては既にあるわけです。

しかし、刑事訴訟法では、
ア 被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。
イ この調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。
ウ 被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。
と規定されています。ア、イまではデジタル化したデーターで済みそうなのですが、ウで要求されている「署名押印」をどうするのか。デジタル化するには、ここの規定(刑訴法198条)を変えなければなりません。ハードルは高そうです。

(調書をやめて録音してしまえばよい?)
 録音機器が発展していなかった昔ならばともかく、今ならば話を全て録音してしまえばいいんじゃないの?と思われる方もおられるでしょう。これも一種のデジタル化です。
 しかし、これは検察官が嫌がりそうです。
 先ほど説明しましたように、供述調書は、警察官なり検察官なりの編集が入る。ここがミソです。
 すべて録音してしまいますと、編集ができません。
 いや、編集はできることはできますが、ある部分を切ったりはったりしなければならなくなるので、却って面倒ですし、そんなことやると悪意をもって改変したといわれるのが落ちです。
 供述調書なら、そんなことを言われないことが、デジタル化したらいわれるようになるという事態だけは、捜査機関としては避けたいところでしょう。
 ということで、供述調書をデジタル化しようにも、デジタル化は完全にはできない。
 変えられないことはないけれども、法律を変えなければならないから、結構揉めそうです。 

(裁判所の調書はどうなっている?)
 これまでは警察官、検察官の作成する供述調書について説明してきましたが、裁判所ではどうなのでしょうか。 
 裁判所での法定で証人を尋問をすると、裁判所が「尋問調書」というものを作成することとなっています。
 尋問はあくまで口頭で答える手続ですが、その記録が「尋問調書」です。

尋問調書の作成の責任者は、裁判所書記官。比較的軽微な事件においては、書記官がテープで録音を取りながら、メモを取り、それを期日後に書記官室で起こしながら完成させています。多少複雑な事件になると、書記官が録音したテープをテープ起こしの業者に外注して、業者が反訳したものを書記官が確認して、尋問調書に仕上げるという方法をとります。
 これまた紙ベースですね。 
 このような作業を経るため、正式な調書ができあがるのは、結構時間がかかります。

(台湾では)
 日本にいるとこれが当たり前なのですが、世界は広い、台湾では事情が違います。
 2005年ころでしょうか、台湾の法定を傍聴したのですが、なんと台湾では尋問調書は、公判が行われているときに同時に作成され、公判が終了したときには、できあがっていました。
 さすがデジタル化先進国!
 台湾の法廷では、書記官はもちろん、裁判官、検察官、弁護人さらには、被告人、証人にいたるまでコンピューターのモニター画面があり、その場で書記官が打ち込む文字を見る事ができるのです。書記官がものすごいスピードでキーボードをたたいても、口頭の尋問の方が速いですから、質問ー答えの後に若干のポーズを置いてはいますが、比較的スムースに尋問が流れます(中国語がわかるわけではないのですが、そのように聞こえてました)。裁判官は、尋問の途中で、尋問をとめながら字句の訂正なんかもしていました。このような方法でやれば尋問の終わりには、調書ができているわけで、尋問終了時にはプリントアウトする音が聞こえていました.
 台湾でもできるのであれば、日本の裁判所でもできそうなものですが、そのような動きがあるようには全く聞こえません。
 デジタル化では、大きく水をあけられたままです。

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