南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

将来の介護料

2007年03月31日 | 交通事故民事
被害者に重度の後遺障害が残っている時には、介護が必要です。
このようなときに損害賠償として、将来の介護料を請求できます。

介護料について、現在の裁判の実務では、近親者介護の場合と、職業介護の場合とで分けて考えます。
近親者介護とは、被害者の家族が介護にあたることです。
職業介護とは、被害者がお金を支払って、介護を職業としている人に、介護を依頼する事をいいます。

つまり、近親者介護か職業介護かは、誰が介護にあたるのかによって分けられるのです。

具体的な裁判例でみてみましょう。
さいたま地裁平成18年10月18日判決(自保ジャーナル1675号 2頁)は、四肢麻痺等で1級の後遺障害をもっている被害者に
近親者介護では 日額8000円
職業介護では 日額2万7875円
を認めました。

近親者介護が日額8000円というのは、赤い本に記載されている基準額です。
赤い本にのっている基準額で認定される場合、判決にはなぜ8000円になるのかとう説明は、通常されません。
この判決でも「被害者が重度の後遺障害にあり、日常生活の全てにおいて介護を要する状態」という以外に、近親者介護が8000円であるという理由を述べてはいません。

一方、職業介護を認めるときは、裁判所としてはある程度の理由を記載するのが通常です。
この判決でも「被害者の配偶者は高齢のため、被害者を介護できない。被害者の子は、会社勤務をしていたり、他家に嫁いだりしており、平日介護はできない」という理由から、平日は職業介護が必要という結論を導いています。

このような判決をみると、裁判官は近親者介護が基本であるが、理由があれば職業介護を認める。
という考えにたっているように思えます。
「職業介護が当然!」という考えをしていないようです。
コメント (1)
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自賠責用の日常生活状況報告表

2007年03月29日 | 高次脳機能障害
 以前にも日常生活状況報告表のことを書いたことがありますが(過去記事は→こちら)、これは高次脳機能障害が後遺障害として残る場合に、自賠責の調査会社が高次脳の調査に使用する書式の一つです。

 そのときは、労災提出用のものしか見つからなかったのですが、今回探してみましたら、自動車事故対策機構のホームページからPDFファイルで自賠責の書式とほぼ同様のものが提供されていることがわかりました。

 自動車事故対策機構の書式集のページは(→こちら

 この書式集の下の方に、「日常生活状況について」とあるのがそれです。
 どうやらこの書式集は、自賠責に提出する書類ではなく、自動車事故対策機構の介護料支給のための書式のようですが、日常生活状況報告表については、自賠責提出のものと類似しています。

もっとも、全く同じではありませんので、自賠責で使用する場合は、自賠責用のを使用するようにしてください。

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年度末

2007年03月27日 | 未分類
 ときどき、「弁護士さんはいつの時期が忙しいのですか?」と聞かれることがあります。

 職種によっては、ある時期に非常に忙しい時期があるようです。
 たとえば、税理士は、確定申告の時期(2月から3月)や会社の決算期(4月から5月)などが忙しくなるようです。

 弁護士はといえば、通常時期的に忙しいというのはあまりありません。
 ただ、年末(12月)は、もめ事などは年内に終わらせておきたいという心理が働くせいか、相談に来る人が多くなりますし、裁判所など役所は28日で終わってしまいますから、その分忙しいということはあります。
 また、人によっては、忘年会が入るので、飲み会で忙しいという人もいます。

 年末を除けば、時期的な忙しさというのはあまりありません。
 それよりも、案件を依頼されたときや、案件終了のときが事務処理がいろいろ集中するため忙しくなります。
 案件がいつ依頼されるかやいつ終了するかは、時期によるものではありませんので、そのときどきによって忙しさが変わってきます。

 今は年度末ですが、年度末及び4月の最初の頃は、あまり法廷が入りません。これは裁判所の異動の関係です(裁判官の異動については→こちら

 法廷がなくても、色々調査をして、書面を書くという仕事は常にありますので、暇だというようなことは弁護士にはないのではないかと思っています。

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東京地裁民事交通訴訟の実情

2007年03月25日 | 未分類
赤い本2007年版が手元に来ました。

赤い本は、交通事故の損害賠償の基準が書かれているものですが、それ以外にも東京地裁の、交通部の裁判官の講演録が載せられており、その時々の交通部の考え方を知る上で、大変参考になります。

冒題では、交通部の部総括裁判官が「東京地裁民事交通訴訟の実情」と題して、事件処理の状況や、その時々の検討課題について、講演する事が慣例となっています。
その講演に統計的なデーターが載っていましたので紹介しておきますと、東京地裁での交通訴訟の件数は
H16年 1329件
H17年 1382件
で、H10年が896件という事ですから、H17年までの7年間で約1.5倍に増加しています。
これを裁判官8名で担当しているので、事件数を裁判官数で割ると
1382÷8=172.75
となり、一人の裁判官が一年間に170件以上もの交通訴訟を、新しく担当していると言う事がわかります。

手持ち件数が170件といっても、ピンとこないかもしれませんが、裁判所の開廷日が月に約20日と考えれば
170÷20=8.5
で、1日あたり8.5件の事件に、目を通して行かなければならないわけです。
もちろん、訴訟になるからには、そう簡単な事件ばかりではないですから、かなりハードな仕事といえるでしょう。
このように、裁判官はかなり忙しい状態にありますから、被害者側としては、分かりやすい準備書面を書く事を、心がける必要があると思います。


 




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自動車改造費

2007年03月23日 | 遷延性意識障害
 交通事故に遭い、遷延性意識障害や重度の麻痺が生じた場合に、既に自宅にある自動車では乗ることが出来ないということが生じ得ます。

 この場合に採る方法としては、
1 既存の自動車を改造する
2 新しい自動車を購入する
というものが考えられます。

 1の既存の自動車を改造した場合、改造費用は損害賠償請求として認められる傾向にあります。
 赤い本には、「被害者の受傷の内容、後遺症の程度・内容を具体的に検討し、必要性が認められれば相当額を認める」として、代表的なものとして自動車の改造費をあげています。

 問題は2の新しい自動車を購入した場合です。
 新しい自動車を購入しても、さらに改造が必要な場合もあり、この場合は既存の自動車を改造した場合と同じように考えることが出来ますので、改造費は認められるべきでしょう。

 問題なのは、新しい自動車を購入したが、この自動車が障害者対応であり、改造が不要な場合です。

 例えば、トヨタでは、ウエルキャブというのがあり(→参考:トヨタのHP)、障害者対応になっているので、これ以上の改造は必要がないというようなケースです。

 この問題について、裁判例は不勉強のせいか、まだ見たことがないのですが、私としては、新車購入代金全額ではなくても、新車の何割かを必要な費用として認めるべきであると考えています。
 
 後遺症が残らなければ、そのような福祉車両を購入する必要性が全くなく、自由に車を買うことが出来たはずであるのに、福祉車両を購入せざるを得なくなったのですから、その分を加害者にも賠償させる必要があるからです。


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ホームページを更新しました

2007年03月21日 | 未分類
 ホームページを更新しました(→こちら)。

 このブログで書いたものを見やすいようにPDFファイルにまとめたのが主な更新箇所です。
 以前からあるPDFファイルと今回更新したファイルがわかりやすいように、ファイルの更新日も記載しました。
 新しく加えたものは、以下のとおりです。

高次脳機能障害関係は、
・ 高次脳5級の裁判例-2(2007/3/13更新)
・ 高次脳機能障害の自賠責認定基準(2007/3/13更新)
・ パパの脳が壊れちゃった(2007/3/13更新)
・ 脳外傷・頭部外傷等の症状(2007/3/13更新)

後遺症の類型別トピック
・ うつについて(一般的知識)(2007/3/13更新)
・ RSD(2006/4/26更新)
・ PTSD(2007/3/13更新)

その他のトピック

・ 保佐とは(2007/3/13更新)
・ 労災(2007/3/13更新)
・ 加害車両が無保険車である場合(2007/3/13更新)
・ 弁護士の交通事故事件勉強法(2007/3/13更新)





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裁判官の異動とブログ春休み

2007年03月10日 | 未分類
 裁判所というところは、役所ですから、異動というものがあります。
 弁護士はいわば自営業ですから、自分で別のところで事務所を開く、移籍するという以外は事務所を動くということはまずありません。
 しかし、裁判官はおおむね3~4年ごとに異動を繰り返します。
 異動の時期は基本的には4月です。

 ですから、3月末から4月上旬というのは、法廷が入りにくくなります。
 異動の予定のある裁判官は、3月末から4月上旬にかけて引っ越しの手続きをしなければなりませんし、事件の引継の準備もしなければなりません。

 裁判官が抱えている事件数は多いところだと200件近くになるようです。
 異動時期までに終わらない事件というのは、そのまま次の裁判官が引き継ぎます。
 異動してきた裁判官は、その事件の記録を一から読んで、頭にいれなければなりませんから、赴任してきてからすぐに法廷というのをいれることができません。
 それで、どうしても4月上旬は法廷が入らないという現象が生じてしまうのです。

 その関係で、3月の中旬くらいに法廷をいれようということになり、弁護士の方としてはスケジュールがタイトになります。

 そこで、申し訳ありませんが、このブログの更新を3月21日まで停止します。
 ちょっと早い春休みとご了解くだされば幸いです。

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慰謝料の増額

2007年03月08日 | 交通事故民事
 悪質な交通事故について、民事上では慰謝料を増額することについて、前回(→こちら)お話ししてきましたが、もう少し具体的に見てみましょう。

 自動車保険ジャーナル1675号18ページでは、衝突後逃走し、交通事故を起こさなかったように工作をした加害者に対し慰謝料合計3100万円を認めたというものです。

 加害車両は、片側1車線の道路を40キロから50キロで走行、被害者はその車道を横断していた際に加害者が前方不注意のためはねられたというものです。
 横断歩道がなかったところを横断していたということで、被害者は20%の過失相殺があると判断されています。

 しかし、この事故の後、加害者は、その場から逃走。
 友人たちに犯罪の隠蔽工作を積極的に行い、警察に対して虚偽の供述を繰り返すことを行っていました。

 具体的には、
 ・知り合いにドアミラーの修理をさせ、その人に口止め
 ・別の知人には虚偽のアリバイを依頼
 ・警察には「事故は起こしていない」と話した
というようなことを行っていました。
 
 このようなことから、裁判所は、「通常の事故以上に遺族に対する精神的苦痛を与えた」と認定し
 被害者(死亡) 2400万円
 夫        250万円
 子ども(3人) 各150万円
の慰謝料を認めました。
 
 慰謝料とは精神的な苦痛に対する対価と考えられており、精神をそもそも金銭に換算するというのが非常に難しい作業なのですが、現在、訴訟上での慰謝料基準は死亡事故の場合2000万円~2800万円といわれており(赤い本)、合計で3100万円を認めた裁判例は慰謝料としては高額を認めたということで自動車保険ジャーナルに掲載されたのだと思います。

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慰謝料

2007年03月06日 | 交通事故民事
 自動車保険ジャーナルは、交通事故の裁判例集です(詳細は、「交通事故の裁判例集」)。

 交通事故を手がける弁護士には必須の裁判例集だよとのアドバイスを受け、私も交通事故事件を本気で手がけるようになってから購入するようにしていますが、毎週毎週送られてきますので、これを読んで完璧に裁判例を覚えておくというのは、コンピューター人間でない限り無理でしょう。
 
 私は、おおざっぱに内容を把握して、あとで似たようなケースが出てきたときに見返すことが出来るようにしています。

 ところで、最近悪質な交通事故に対する世間の目が厳しくなってきておりますが、これに対して法律上はどのような考慮をするのか?ということを疑問に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 自動車保険ジャーナル1675号18ページでは、衝突後逃走し、交通事故を起こさなかったように工作をした加害者に対し慰謝料合計3100万円を認めたという裁判例がありましたので、悪質交通事故に対する法律の対処をお話ししたいと思います。

 裁判は大きく分けて、刑事と民事があり、裁判所も刑事部、民事部でわかれているところがほとんどです。
 刑事事件は、加害者の刑をどのくらいにするかというものですから、悪質な交通事故事件を起こした者は刑が重くされるということはわかりやすいと思います。

 それでは、民事事件ではどうなのかといいますと、民事事件というのは損害賠償金額をいくらにするかという金額の問題となってしまいますので、その損害賠償金の一項目である慰謝料というものを、悪質な事案では他の事案よりも増額するということで対処します。

 慰謝料とは精神的苦痛に対する対価と考えられております。
 悪質な交通事故は、被害者の精神的苦痛を一層増加させる→だから、慰謝料も増額するという理屈です。


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PHP新書「高次脳機能障害」

2007年03月04日 | 高次脳機能障害
 PHP新書で「高次脳機能障害」という本が出版されています。
 アマゾンでの本の紹介は→こちら
 
 著者は、橋本圭司さんというお医者さんで、現在は東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座助手をされている方。

 ある本屋ではこの本が平積みにされており、「高次脳機能障害」という言葉もここまで広がりをみせているのかと思いました。

 なにせ私が高次脳機能障害という言葉を聞いて、勉強を始めたとき、一般向けででていた本の題名は、「知られざる高次脳機能障害―その理解と支援のために 」という題でしたから(アマゾンではこちら

 話を戻して、橋本医師の「高次脳機能障害」の方ですが、内容的にはかなり難しいところまでもきっちり易しく書かれていて、大変読みやすい本だと思いました。

 個人的には、高次脳機能障害の症状として、まっさきに「易疲労性」(いひろうせい)というのをあげておられて、この点をはっきりと症状としてあげてある文献にはそれまでお目にかかったことがなかったので(私の不勉強かもしれませんが)、非常に勉強になりました。

 損害賠償では、問題になるところは、労働能力という点ですが、「易疲労性」があれば労働能力は低下せざるを得ませんから、この点はもっと強調されてもよいのではないかなと思います。

コメント (2)
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