南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

「自動車運転過失致死傷罪」が成立

2007年05月30日 | 交通事故刑事事件の基礎知識
 「自動車運転過失致死傷罪」という新しい犯罪が5月17日の国会で成立しました。

 今まで自動車を運転して事故を起こし、被害者に怪我を負わせたり、死亡させたりした場合は、
 「業務上過失致死傷罪」
という犯罪で処罰されていました。 

 この犯罪は刑法の211条1項にあります。
 条文をあげておきます。

 業務上必要な注意を怠りよって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も同様とする。

 この条文の中の最初の方の1文、
 ”業務上必要な注意を怠りよって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。”
が業務上過失致死傷罪です。後半の方は、重過失致死傷罪といって別の犯罪です。

 ところで、この中には自動車という言葉は一つもでてきませんが、自動車運転は「業務」だと解釈され、それで自動車運転で事故を起こした場合は、業務上過失致死傷罪となるということで運用されてきたのです。
 
 しかし、これだと刑が軽いという世論が起こり、厳罰化政策の一環として、自動車運転の場合には、新しい犯罪類型、自動車運転過失致死傷罪が作られました。

 これも条文をあげておきます。
 さきほどの、業務上過失致死傷は刑法211条1項にあるのですが、その2項が次のようになりました。

2 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

このように法定刑があがりました。
 業務上過失致死傷では、
  懲役か禁錮だと5年以下、罰金だと50万円以下
だったのが、
 自動車運転過失致死傷では
  懲役か禁錮だと7年以下、罰金だと100万円以下
になっています。

 この犯罪が適用されるのは、公布から20日後となっているので、6月中旬からになりそうです。




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「裁判官の異動歴のチェック方法」のコメントを受けて

2007年05月28日 | 未分類
 先般、裁判官の異動歴のチェック方法 という記事を載せましたところ、コメントが入りましたので、コメントの中での疑問について、私なりの考えを書かせていただきます。

>裁判官の異動歴まで調べなければならない裁判とは、健全?なのでしょうか。

 これは裁判とは正義が実現されるべき場にあるという考えが前提にあるのかと思います。
 残念ながら、といいますか、現在の裁判は「当事者主義」といいまして、「当事者」、民事ですと、原告と被告ですが、この当事者が主張した内容及び証拠によって裁判官が判断をするという構造になっています。
 
 つまり、当事者が主張して、裁判官を説得するわけです。
 
 これを法律論と証拠に基づいて行うのが、弁護士の仕事であると思います。

 裁判官が人である以上、考え方の傾向というのは必ずでてしまうものであり、その考え方の傾向をつかんで、説得活動をするのは、弁護士にとって必要だと考えています。

>イヤな裁判官を避ける知恵はあるのでしょうか。

 当事者が裁判官を選ぶことは出来ません。
 逆に、裁判官も事件を選ぶことはできません。

>別の管轄のところに訴えを提起するのでしょうか。

 当事者は裁判官を選ぶことはできませんが、管轄を選ぶことはできます。
 ただ、どこでも自由にというわけにはいきません。
 交通事故の場合は、
ア 交通事故の起こった場所
イ 被害者の住所地
ウ 加害者等の住所地
の3カ所のどこかを選ぶことになります。
 これは裁判官を選ぶというよりは、どこに裁判を提起するのが、依頼者の利益にかなうのかという観点から選ばれるものだと思います。

>われわれ市民は、ただひたすらよい裁判官との出会いを祈るしかないですね。

 現時点で裁判を起こす方は、よい裁判官との出会いを祈るばかりです。
 もっとも、ひとつひとつの裁判例を積み重ねることで、裁判官の考えも変わってきますし、国会が動けば法律も変わります。
 交通事故の民事訴訟の分野も、被害者の方の努力のおかげで10年前と比べると大分変わってきたと思います。
 日本の裁判官は、世論の先をいくような判決は書きたがりません。
 世論のいくぶん後をおった判決を書くものです。
 世論がかわらなければ、裁判官もかわりません。

>交通事故のような民事訴訟でも、陪審制の導入もありなのかな、と思ってしまいます。

 民意や世論を反映するにはそれが一番だと思います。 
 実際、アメリカでは刑事だけでなく、民事も陪審制が導入されています。

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弁護士の仕事範囲

2007年05月25日 | 未分類
 弁護士はおおむね各都道府県に1つある弁護士会に所属することが、法律で定められていますが、その場所での仕事に限られるだけではなく、全国での仕事が可能です。
 全国での仕事が可能といっても、打合には、やはり顔と顔をあわせてということが何回か必要になりますし、訴訟ということになれば、訴訟をおこした裁判所に出廷することも必要になりますから、行ったことのある裁判所というのは、自ずと限定されてきます。

どこまでを仕事の範囲とするかは、弁護士によって異なってきますが、私は現在までのところ、関東甲信越+静岡+東北で仕事をしてきました。
弁護士になってから、5~6年は、ほとんど千葉県内の仕事をしてきましたが、交通事故の被害者側の仕事に携わるようになってから、様々な地域に行くことが多くなりました。

裁判所自体は、国の役所であり、裁判官は全国規模で転勤がありますので、どこに行っても似たような建物で似たような法廷ですが、それぞれの地域には、それぞれの特徴があり、それを見るのはなかなか楽しいものです。
このブログでも各地域の話も書いていければと思っています。



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裁判官の異動歴のチェック方法

2007年05月23日 | 未分類
 交通事故の民事訴訟では、裁判官が判断する権限をもっています。
ですから、裁判官をどのように説得するのかということが、訴訟では最大のポイントになります。
 裁判官は訴訟の途中では自分の考えはあまり言いませんが、法廷などで言われる発言から考えを読んで、訴訟を進めていったりします。

裁判官の考え方を読む上では、裁判官になってからの異動を参照することもあります。
裁判官の異動歴を無料で提供しているサイトがありますので、ご紹介しておきます。
e-hokiの裁判官検索サイト

私は、裁判官の異動歴をチェックした上で、その裁判官が似たような事例を処理していないかも、調べることにしています。
これは、判例検索サービスを使わなければならず、有料です。
弁護士の方でなくても、このサービスを利用することは可能です。

もっとも、判例検索サービスを用いても、その裁判官の裁判例が全くヒットしない場合や、ヒットしても交通事故とは関係の無い裁判例であることも多いので、有益な情報が得られないこともあります。
判例検索サービスといっても、全ての裁判例を載せているのではなく、判例情報雑誌などにのせられた裁判例、つまり、セレクトされた裁判例だけをのせているからです。
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カルテなどの医療記録の翻訳

2007年05月21日 | 交通事故民事
 カルテなどの医療記録は、日本語で書かれていますし、はじめから終わりまで何が書いてあるのかわからないということはありえませんが、交通事故訴訟でどの部分が必要で、どのように読みといていくのかは、文系だけの教育を受けてきたものにはそう簡単にできません。

 日本語で書かれている部分があるとはいえ、英語又は英語の略語の部分も多く、これを翻訳しなければならないからです。

 翻訳をするのは、そうしなければ意味がとれないからということもありますが、日本の裁判所では、日本語で裁判を行うことと法律で決められているということもあります。

 その法律の条文をそのままあげておきますと、
「裁判所では、日本語を用いる」
となっています(裁判所法74条)。

 この翻訳の作業を専門に行う業者さんというのもいるのですが、数枚であれば業者さんを頼むまでもないので、自分で行うこともあります。

 インターネットも普及していなかった時代は、専門の辞書を脇においてひたすらそれを調べるという方法をとらざるをえませんでしたが、現在では、インターネットで相当なところまで調べることができますし、そういう意味では、格段に作業が楽になったと思います。

 もっとも、単に訳がわかっただけでは、訴訟に必要な主張ができませんから、その意味まで調べなければなりません。
 
 法律の本を読む作業とはまた違った作業であり、かなりきついものですが、そのような作業を通してより被害者の治療の経過や後遺障害の程度をしることができることになります。
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カルテなどの医療記録の検討

2007年05月18日 | 交通事故民事
 交通事故の後遺障害のケースでは、カルテなどの医療記録を検討するという作業が必要になることが多いです。

 場合によっては、裁判の証拠として提出されることがあります。

 弁護士になるまではカルテなど見たこともなかったので、「カルテはドイツ語で書かれている」と思っていましたが、そんなことありません。
 ドイツ語はほとんど見かけません。
 今は、ほとんどが英語、又は英語の略語です。

 日本語で書かれている部分もありますし、最近は、患者さんやその家族への説明をきちんとする病院が増えたせいか、説明用紙の控えが入っていたりして、それはわかりやすい日本語で書かれていますから、カルテなどをみても全然わからないということはありません。

 カルテなどを検討する上で、一番の問題点は、急いで手書きで書かれているために字、それ自体が読みにくいというか、読めない場合があるということです。

 看護記録は、看護師さんがほかの人にも読めるように書かなければなりませんから、おおむねきれいな字で書かれていますし、読みやすいです。

 問題は、お医者さんの書いたものです。
 
 自分で読めればいいやと思っているせいか、それとも医者ならこの程度は全員読めるべきだということなのか、読めないものが少なくありません。

 自分のメモということならば、他の人が読めなくてもかまいませんが、カルテは患者さんのために書かれているものですし、場合によっては裁判に提出されて他の人の目に触れるわけです。

 お医者さんにはこういう観点から、カルテを少なくとも読める字で書いてほしいと思っています。

 電子カルテが完全に普及すれば、このような問題は改善されるのでしょうが、電子カルテの整備にはお金もかかることですし、手書きの時代はまだまだ続くのではないかと思っています。

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加害者側の弁護士(代理人)

2007年05月16日 | 未分類
 記事に対してのコメントをしていただいている方、ありがとうございます。
 コメントについてひとつひとつお返事を書くことが難しいので、今後の記事の中でコメントにふれさせていただくこともあろうかと思いますので、よろしくお願いいたします。

 さて、今日の本題ですが、加害者側の弁護士(代理人)についてです。
 交通事故被害者のもとに、加害者の代理人であるという弁護士から、通知が届くことがあります。

「本件の事故について受任しました。以後、加害者に直接連絡されることなく、当職宛にご連絡下さい」などと書かれており、非常にびっくりされる方が多いと思います。

このような弁護士からの通知は、加害者が保険会社の担当者との交渉が行きづまったときになされることが多いだけに、被害者側としては、「なぜこちらが弁護士を依頼しているわけでもないのに、加害者側が弁護士を依頼するのか、損保会社の責任はどうなっているのか」という思いをもたれる方もおります。

交通事故事件で、加害者側が弁護士を依頼する仕組みですが、加害者側が任意保険に加入しているときは、任意保険会社が示談代行する特約がついていることが多く、任意保険の担当者と、被害者側は折衝することになります。

このようなことから、被害者側は、任意保険会社が直接の当事者のような気持ちをもつことになりますが、法律上は、あくまで直接の当事者は加害者側です。任意保険会社は、加害者側が負う損害賠償金を代行して支払っていることになります。ですから、被害者側は、加害者側に対して損害賠償の請求ができる法律上の権利をもっています。
任意保険会社は、あくまで示談の「代行」をしているだけなので、被害者が加害者に対して直接交渉しようとすることを止める法律上の権限はありません。
ですから、加害者が交渉しないですむためには、加害者側が弁護士を代理人として依頼することになります。
この弁護士費用は、任意保険会社が支払いますので、実際には加害者側は、弁護士の委任状に署名押印するだけであり、交渉の方向性は任意保険会社の担当と、加害者側の弁護士で行われるということが多いです。

このように、加害者側の弁護士(代理人)は、法律上は加害者から依頼される形になっているけれども、実際上は損保会社の意向が強く反映し、それによって加害者側のストレスが一層増すということが応々にして起こります。


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交通事故被害者の悩みの原因

2007年05月14日 | 未分類
交通事故のご相談や、法律上の手続きなどをしておりますと、被害者やその家族の方々が、様々な悩みをもっておられることがわかります。

その悩みの原因は
1 交通事故に遭って怪我を負い、場合によっては後遺障害を負ったり、死亡という不幸な出来事がおこるというのが、最も直接的なものですが、それに
2 交通事故に遭わなければ、出会わなかったであろう人々との人間関係のストレスが加わっています。

交通事故に遭うことで
① 加害者
② 保険会社
と顔をあわせたり、話し合いをもったりする場面が、でてきてしまいます。

加害者の態度が不誠実だと、それだけで非常なストレスになりますし、加害者の態度が一応誠実なものであっても、保険会社の担当者の対応が、被害者に苦痛をもたらす場合もあります。

特に、保険会社では、監督官庁である金融庁から、不払いの問題で、行政処分を受けるように、保険金の支払い体制がガタガタになっている状況です。

最近、私が受けたご相談の中でも「保険会社の担当者に連絡しても、連絡が遅い、連絡をくれない」という被害者側の声も耳にします。被害者側が何度も督促しているのに、保険会社の対応が全くなされないというのは、連絡、報告というコミュニケーションの基本的なところが欠落しているということであり、保険会社にこの部分の是正を、強く求めたいところです。


被害者としては、保険会社の担当者を信頼して、支払い関係等の手続きを進めなければならないだけに、この信頼関係が崩れることは、被害者を途方に暮れさせることになってしまうからです。

コメント (2)
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高次脳機能障害の自賠責認定システムに少し見直しがあったようです

2007年05月11日 | 高次脳機能障害
 高次脳機能障害の自賠責認定システムに少し見直しがあったようです。

 損害保険料率算出機構のホームページを見ていましたら、本年(2007年)4月から、認定システムを見直しを行ったということで、リーフレットも作られていました(リーフレットがPDF形式で配布されています→こちら
 
 これによると、

 高次脳機能障害の認定に必要な事故直後の意識障害に関する情報(時間・程度等)や当該被害者の症状に関する情報(具体的にどのような行動に支障が生じているのか等)などを詳細に把握し、より的確な等級認定を行えるようにするため、調査様式を改定する。

ということが改定ポイントとして書かれています。

 どのように調査様式が改定されたのかまでは書かれていませんので、詳細はわからないのですが、以前よりもチェックポイントが多くなったのではないかと思います。

 以前から、
「高次脳機能障害の認定に必要な事故直後の意識障害に関する情報(時間・程度等)」
については、
 ”頭部外傷後の意識障害についての所見”
という書式があり、

 「該被害者の症状に関する情報(具体的にどのような行動に支障が生じているのか等)」については、
 ”脳外傷による精神症状等についての具体的な所見”
という書式で把握していたはずですが、これらが改訂されるようです。



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高次脳機能障害の場合の自賠責の異議申し立て

2007年05月09日 | 高次脳機能障害
 高次脳機能障害の場合、自賠責保険の後遺症認定は高次脳機能障害専門部会(「高次脳機能障害審査会」ともいうそうです)が行うことについて、前回書きました。

 それでは、認定に不満があって、異議申し立てをするという場合、どこがその審査を取り扱うのでしょうか。

 調べてみましたら、高次脳機能障害審査会には、
 「地区審査会」と「本部審査会」
があり、この二つが役割分担をして行っていることがわかりました。

 後遺症認定の最初の認定は「地区審査会」で行われます。

 その後、異議申し立てがされたケースは、「本部審査会」で審査を行います。

ということでした。

 このことは、平成12年12月18日に出された
 ”自賠責保険における高次脳機能障害認定システムについて”という
     高次脳機能障害認定システム確立検討委員会の報告書
に載っていました。

 つまり、地区審査会で行われたことを、本部審査会でチェックする体制を取っています。

 しかし、わかったのはここまでであり、「地区審査会」というのがどの範囲で区切られているのか(都道府県単位なのか、もっと広域なのか)やそれぞれの審査会がどの程度の人数でどのように審査されているのかの実態はよくわかりませんでした。

 損害保険料率算出機構に直接連絡して聞いてみれば教えていただけるのかもしれませんが、残念ながらなかなかそこまで調べるまで手が回りません。
  
 

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