★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇マスネのピアノ“秘曲”をアルド・チッコリーニが弾く

2020-03-30 09:33:50 | 器楽曲(ピアノ)

マスネ:4手のためのピアノ曲集:「過ぎ去りし年」(第1集~第4集)

         第1集「夏の午後」
         第2集「秋の日々」
         第3集「冬の夕暮れ」
         第4集「春の朝」
    
    4手のためのピアノ曲:3つの行進曲
                聖母マリア―ガレリアの踊り
                第1組曲
                2つの子守歌
      
ピアノ:アルド・チッコリーニ

録音:1979年1月22日、3月15日、6月26日、12月13日

LP:東芝EMI EAC‐50012
 
 このLPレコードは、名ピアニストのアルド・チッコリーニ(1925年―2015年)による、フランスの作曲家のマスネ(1842年―1912年)の“秘曲”とでもいうべき、いずれも4手のためのピアノ曲が収録されている。マスネというと直ぐに「タイスの瞑想曲」を思い浮かべるリスナーが多いのではないだろうか。マスネは、オペラ作曲者として19世紀末から20世紀の初めにかけて大変人気があったが、現在では「マノン」と「ウェルテル」などを除き、そのほとんどが忘れ去られてしまっている。マスネは、1853年、11歳でパリ国立高等音楽学校へ入学し、1862年には、カンタータ「ダヴィッド・リッツィオ」で世界的に有名な作曲賞の「ローマ賞」を受賞。オペラ作品の成功作としては、1884年の「マノン」、1892年の「ウェルテル」それに1894年の「タイス」が挙げられる。マスネは、オペラの他には、バレエ、オラトリオ、カンタータ、管弦楽作品、ピアノ曲さらに200以上の歌曲を作曲している。このLPレコードで演奏しているアルド・チッコリーニは、イタリア・ナポリ出身で、フランスで活躍した名ピアニスト。1949年パリの「ロン・ティボー国際コンクール」に優勝。1969年にはフランスに帰化している。パリ音楽院で教鞭を執ったこともあり、フランス近代音楽の解釈者として世界的にもに著名である。80歳を超えても第一線のピアニストとして活躍し、高齢にもかかわらず来日し、日本の聴衆に深い感銘を与えた。このLPレコードに収録された曲は、通常では滅多に聴くことのない曲ではあるが、いずれの曲もフランス風の洗練された感覚が魅力になっている。マスネの曲は、特にメロディーが美しいことで知られているが、これらのピアノ曲も例外でなく、いずれも甘美とも言える美しいメロディーに覆い尽くされている。4手のためのピアノ曲集:「過ぎ去り年」は、マスネ版「四季」とも呼べる作品で、第1巻から順に夏・秋・冬・春と辿り、1年が巡るようになっている。題名の「過ぎ去り年」とは、遠く去った昔の年月ではなく、自分が過ごしてきたこの1年を意味している。作曲年代は、パリ音楽院の作曲科の教授を退いた1896年、54歳の時で、作曲家として脂の乗り切った頃の作品。この曲は、全曲を演奏するのに30分近くを要し、いかにもマスネらしい、美しい旋律に溢れた佳曲。アルド・チッコリーニは、これらの“秘曲”を愛情を持って弾いている。通常ではあまり聴くことができないが、今後、これらのマスネの優れたピアノ曲が聴かれる機会が増えてほしいものだ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ショーソン:交響曲変ロ長調/交響詩「祭りの夕べ」

2020-03-26 09:41:25 | 交響曲

ショーソン:交響曲変ロ長調
      交響詩「祭りの夕べ」

指揮:ミシェル・プラッソン

管弦楽:トゥールーズ市立管弦楽団

LP:東芝EMI EAC‐40184
 
 このLPレコードは、フランス人の作曲家エルネスト・ショーソンの2曲の作品を収めたものである。ショーソンというと「詩曲」が余りにも有名である反面、ショーソンのその他の作品を聴く機会が正直あまりなく、その作曲家像も我々日本人としては、いまいちピンとこないのではなかろうか。ショーソンは、大学で法律を学んだ後、24歳でパリ音楽院に入学する。叙情性と憂愁を含んだ独特の作風で作曲活動を展開し、ヴァイオリンとオーケストラのための「詩曲」、オーケストラ伴奏の歌曲「愛と海の詩」、交響曲変ロ長調のほか、多くの歌曲や室内楽曲を発表した。しかし、突然の事故で短い一生を終えることになる。それは、1899年6月にパリ郊外を自転車で散策中に柱に頭を打ち付けて即死したのだ。享年44歳であった。ショーソンは、セザール・フランクを師と仰ぐ、いわゆる“フランキスト”の一人であった。その頃、ショーソンはフランス音楽を広く知らしめるために設立された国民音楽協会の書記に就任している。ちなみに同協会の会長がフランク、書記がショーソンとダンディ、会計がフォーレであることで分かるとおり、フランス音楽の大御所が名を連ねている。この後フランスは、デュカス、ルーセル、オネゲル、ミヨーといった我々にもお馴染みの作曲家を輩出することになる。このLPレコードに収められているショーソン:交響曲変ロ長調は、あの有名なフランクの交響曲が書かれた直後に完成した作品で、全体が3楽章からなる交響曲という珍しいスタイルを取り、フランクの影響が強く反映されている。フランクの影響を受けた交響曲といっても、その陰鬱な抒情味と甘美なメロディーは、ショーソンなくしては成し得ない独自の世界を形作っていることも確か。基本的にはフランス音楽特有なエレガンスさには貫かれているものの、時にワーグナーを思わせる壮大な響きを奏でる場面やブルックナーの交響曲のように聴こえる一瞬もある。私個人としては甘美なメロディーに彩られた、如何にもフランスの作曲家の作品らしい微妙な彩を持った第2楽章に引き付けられる。交響詩「祭りの夕べ」は、交響曲変ロ長調の7年後に書かれた作品。イタリアの美しい自然の中において作曲されたこともあり、友人であったドビュッシーの作品にも似た、微妙な管弦楽の色合いの美しさが印象的な秀作。パリ出身のミシェル・プラッソン(1933年生まれ)指揮トゥールーズ市立管弦楽団の演奏は、ショーソンの叙情性と憂愁味を存分に表現し切っている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ロストロポーヴィッチのショパン&ショスタコーヴィッチ:チェロソナタ(ライヴ録音盤)

2020-03-23 09:32:49 | 室内楽曲(チェロ)

ショパン:チェロソナタ
ショスタコーヴィッチ:チェロソナタ

チェロ:ムスティスラフ・ロストロポーヴィッチ

ピアノ:アレクサンダー・デデューヒン

発売:1977年4月

LP:日本コロムビア OZ‐7530‐BS(ライヴ録音盤)
 
 このLPレコードは、チェロの巨匠ロストロポーヴィッチ(1927年―2007年)が残したライヴ録音という点で貴重な記録である。ロストロポーヴィッチは、「生の演奏でその真価を発揮するタイプの演奏家であった」と言われており、このLPレコードの存在価値は大きい。この辺のいきさつについて、このLPレコードのライナーノートで小石忠男氏が次のように書いている。「このレコードは、以上二人(ロストロポーヴィッチとデデューヒン)のコンビによる演奏会の実況録音で、聴衆のノイズや拍手、ちょっとした調弦の音までが収められている。この演奏がどこで収録されたものかはわからないが、ロストロポーヴィッチがデデューヒンと演奏していたのは、1974年の(米国)移住以前と思われるので、この録音も74年よりも前のものと推定される。このうちショスタコーヴィッチのチェロソナタは、かつてソ連で録音された作曲者との共演がレコード化されていたが、ショパンのチェロソナタは、現在までカタログにない」。ムスティスラフ・ロストロポーヴィチはアゼルバイジャン(旧ソビエト連邦)出身のチェリスト・指揮者である。モスクワ音楽院で学び、「全ソビエト音楽コンクール」金賞受賞などの輝かしい受賞歴を持つほか、1951年と1953年に「スターリン賞」を、1963年に「レーニン賞」を、さらに1966年 に「人民芸術家」の称号を受けるなど、旧ソ連における国民的英雄であった。しかし、1970年に 社会主義を批判した作家アレクサンドル・ソルジェニーツィンを擁護したことで旧ソビエト当局から「反体制者」とみなされ、国内での演奏活動の停止および外国での出演契約も破棄されてしまう。これに抗議して、ロストロポーヴィッチは1974年に米国に亡命。これにより一旦は国籍が剥奪されるが、1990年に旧ソ連で16年ぶりに凱旋公演を行い、国籍を回復する。この録音は、今から40年以上前のライヴ録音であるので、決して良い音質とは言えない。2曲の演奏とも実際の演奏会での録音なので、コンサートの緊張感がそのままリスナーに伝わって来る。ここでのロストロポーヴィッチの演奏は、うねるように起伏を大きく取り、しかも、いとも軽々とチェロを弾きこなす。これにより、ショパン:チェロソナタは、深遠さとスケールの大きな曲へと変身を遂げる。そして、ショスタコーヴィッチ:チェロソナタは、細部まで克明に演奏されることにより、その美しさが魔法の如く生み出される。このLPレコードを聴き、ロストロポーヴィッチが不世出のチェリストであったことを再認識させられた。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ターリッヒ指揮チェコ・フィルによるドヴォルザーク:交響曲第8番/ヤナーチェク(ターリッヒ編曲):交響組曲「利口な女狐の物語」

2020-03-19 09:42:57 | 交響曲

ドヴォルザーク:交響曲第8番
ヤナーチェク(ターリッヒ編曲):交響組曲「利口な女狐の物語」

指揮:ヴァーツラフ・ターリッヒ

管弦楽:チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1997年7月

LP:日本コロムビア OW‐7704‐S
 
 これは、チェコの大指揮者のヴァーツラフ・ターリッヒ(1883年―1961年)を偲ぶLPレコードだ。どちらかと言えば“歴史的名盤”の範疇に入る録音なのかもしれないが、決して鑑賞に向かないほどでもなく、ターリッヒ指揮チェコ・フィルの名演を堪能することができる貴重な録音である。演奏しているチェコ・フィルは、最初に指揮をしたのがドヴォルザークであり、今日の世界的な一流オーケストラに育て上げたのがターリッヒであった。チェコの首都プラハには1881年に建てられたプラハ国民劇場があるが、同劇場のオーケストラのメンバーを中心として、チェコ・フィルハーモニー協会が設立され、その2年後の1896年に、ドヴォルザークが自作を指揮して、現在のチェコ・フィルが誕生したのであった。そして、1919年にターリッヒが常任指揮者に迎えられ、以後、22年間にわたってターリッヒは、チェコ・フィルの技能を大幅に向上させ、魅力的な音質と独特なリズム感を持った、世界でも有数のオーケストラへと育て上げたのである。ターリッヒの指揮の特徴は、現代的な合理的な感覚をベースとして、ボヘミアの民族的な香りを巧みに融合させたところにある。ヴァーツラフ・ターリヒは、モラヴィアの出身。プラハ音楽院を卒業後、ベルリン・フィルのコンサート・マスターに就任後、指揮者に転向。このLPレコードには、ターリッヒ指揮チェコ・フィルの演奏で、ターリッヒと同郷のドヴォルザークとヤナーチェクの作品が収められている。正調のドヴォルザークそしてヤナーチェックを聴くことができる歴史的録音とでも言えようか。ドヴォルザーク:交響曲第8番は、しばしば「イギリス」という愛称で呼ばれるが、これはただ単に最初にイギリスで出版されたので付けられただけで深い意味はない。有名な新世界交響曲の4年前に書き上げられ、ドヴォルザークの“田園交響曲”とでも言えるほどボヘミアの民族色が反映された曲で、哀愁に満ちたそのメロディーを聴いたら二度と忘れられない魅力を秘めている。ここでのターリッヒ指揮チェコ・フィルの演奏は、民族の共感に溢れ、心の底に響くような熱い情熱と、明快な圧倒される表現力でリスナーを魅了して止まない。一方、ヤナーチェク:交響組曲「利口な女狐の物語」は、ヤナーチェクの歌劇「利口な女狐の物語」をターリッヒが交響組曲に編曲した作品。普段はあまり演奏されない曲ではあるが、“チェコの真夏の夜の夢”とも言われる幻想的な曲だ。豊かなボヘミヤの自然の息吹が肌で感じられるような心地良い演奏に仕上がっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ベルリン弦楽四重奏団員によるベートーヴェン:弦楽三重奏曲第2番/第3番/第4番

2020-03-16 09:33:39 | 室内楽曲

ベートーヴェン:弦楽三重奏曲第2番 ト長調Op.9‐1
              第3番 ニ長調Op.9‐2
              第4番 ハ短調Op.9‐3

弦楽三重奏:ベルリン弦楽四重奏団員
          
          カール・ズスケ(ヴァイオリン)
          カール=ハインツドムス(ヴィオラ)
          マティアス・プフェンダー(チェロ)

LP:日本コロムビア(eurodisc) OQ‐7112‐K

発売:1976年4月
 
 ベートーヴェンは、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロによる弦楽三重奏曲を4曲とセレナーデ1曲の合計5曲を残している。これらはいずれもベートーヴェンの20歳代の初期の作品に当る。これらの中で、1798年に完成したOp.9の3曲は、初期の作品とはいえ、モーツァルトの世界から抜け出し、いよいよベートーヴェンらしい顔を覗かし始めた頃の作品である。この3曲の弦楽三重奏曲は、中期から後期にかけてベートーヴェンが作曲した傑作の森の陰に隠れ、あまり話題に上ることもなく、また、演奏の機会も決して多くはない。しかし、改めてこの3曲を聴いてみると、後年花開くベートーヴェンの才能の最初の萌芽が聴き取れ、実に興味深い作品であることに気づく。ベートーヴェンは、以後弦楽三重奏曲は書かず、もっぱら弦楽四重奏曲に傾倒する。これは、ベートーヴェンが、より深い音色を弦楽器の求めた結果であることが推測される。弦楽三重奏曲第2番ト長調Op.9‐1は、隅々まで眼の行き届いたがっちりとした構成力が印象に残る初期の力作。同第3番ニ長調Op.9‐2は、詩的な雰囲気を漂わせ、哀愁味も持ったロマン的な作品。そして、同第4番ハ短調Op.9‐3は、初期の器楽作品の中でも傑作と目される曲で、緊張感が全体を包み込み、曲の盛り上げ方も非凡なものが感じ取れる。これら3曲を、このLPレコードで演奏しているのは、ベルリン弦楽四重奏団員のヴァイオリン:カール・ズスケ、ヴィオラ:カール=ハインツドムス、チェロ:マティアス・プフェンダーの3人である。ベルリン弦楽四重奏団とは、1965年に、ゲヴァントハウス管弦楽団のコンサートマスターを経て、ベルリン国立管弦楽団の第1コンサートマスターを務めていたカール・ズスケ(1934年生まれ)を中心に結成された旧東ドイツ屈指のカルテットのこと。当初は、ズスケ弦楽四重奏団と称していたが1970年に改称し、以後ベルリン弦楽四重奏団として活躍することになる。1973年には来日も果たしている。カール・ズスケは、モーツァルトのヴァイオリンソナタなどの名録音も残しているが、音色に透明感があり、常にきっちとした構成美で演奏し、日本でも多くのファンを持っていた。このLPレコーでの演奏は、卓越した演奏技術に貫かれた安定感のある演奏内容となっており、それに加えて、音色が美しく、爽やかな印象を醸し出し、実に魅力的な演奏だ。それにしても今後、ベートーヴェン初期の、これら3曲の魅力的な弦楽三重奏曲の演奏機会が増えることを願うばかりだ。(LPC)

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