ブラームス:弦楽六重奏曲第1番/第2番
弦楽六重奏:ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団
アントン・カンパー(第1ヴァイオリン)
カール・マリア・ティッツェ(第2ヴァイオリン)
エーリッヒ・ヴァイス(ヴィオラ)
フランツ・クヴァルダ(チェロ)
フェルディナンド・シュタングラー(第2ヴィオラ/第1番)
ウィルヘルム・ヒューブナー(第2ヴィオラ/第2番)
ギュンター・ヴァイス(第2チェロ)
LP:東芝EMI IWB‐60045
ブラームスは、弦楽四重奏曲にヴィオラ1、チェロ1を加えた弦楽六重奏曲を、第1番と第2番の2曲作曲している。弦楽四重奏曲を3曲しか作曲しなかったのに対し、弦楽六重奏曲は2曲作曲したということになる。これは、ベートーヴェンとは異なり、ブラームスの志向としては、弦楽四重奏曲よりは、より重厚な響きがある弦楽六重奏曲に向いていたためであろう。第1番は、1859年に着手され、翌1860年夏に完成した。全4楽章は、明るい牧歌的なメロディーに溢れており、このためこの第1番を愛好するリスナーは多い。第2番は、第1番を作曲した5年後の1865年に完成した。この曲は「アガーテ六重奏曲」と呼ばれることがある。それは、ブラームスが、声の美しい女性、アガーテ・フォン・シーボルトに、結局は結ばれぬ恋心を抱いた頃の作品であるからだ。ブラームスは、結婚に至らなかった呵責の念をこの作品に込めたと言われている。そう言われて聴いてみると、第1番は牧歌的で明るい曲調の作品に仕上がっているのに対し、この第2番は、思索的で心の内面を覗き込むような内省的な曲となっている。悲恋の感情なのであろうか、デリケートな感情が克明に描写され、第1番には無い奥深さを感じさせる作品となっている。このLPレコードで演奏しているのは、ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団を中心としたメンバーである。ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の創設は1934年で、戦後2度来日を果たしている。ウィーン交響楽団のメンバーだった第1ヴァイオリンのアントン・カンパー(1903年―1989年)を中心に、流れるような美しい、そして甘い音色が際立った演奏をする弦楽四重奏団として、当時多くのファンを有していた。要するにウィーン・コンツェルトハウス四重奏団は、古きよき時代を思い起こさせる、ウィーン情緒たっぷりの弦楽四重奏団であったのだ。1967年カンパーの現役引退を機に解散した。このLPレコードでの第1番の演奏は、通常我々が耳にする明るく牧歌的で、スケールを大きく取った第1番の演奏とは大分異なり、弦楽四重奏のメンバーが主導権を握り、実に緻密で清らかな流れに沿った静寂な演奏に終始する。私はこの演奏については、何か、新しい第1番の世界を聴いたかのような感じを受けた。一方、第2番の方は、6人が対等な関係を維持し、如何にも弦楽六重奏曲的な広がりの演奏を繰り広げる。特に、第2番特有なデリケートな曲調を、実に緻密な演奏で表現し切っているところは、見事と言うしかない。(LPC)