ハイドン:「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」op.51(弦楽四重奏曲版)
序奏
ソナタⅠ 「父よ、彼らをお許しください。なぜなら彼らは
何をしているかを自分でも分かっていないからで
す」
(ルカの福音書23章34節)
ソナタⅡ 「アーメン、私はあなたに言う。今日、あなた
は、私とともに天国にいるであろう」
(ルカの福音書23章43節)
ソナタⅢ 「女よ、これがあなたの子です。弟子よ、これが
あなたの母です」
(ヨハネの福音書19章26節-27節)
ソナタⅣ 「わが神よ、わが神よ、何ゆえ私を見捨て給うた
のか」
(マルコの福音書15章34節)
ソナタⅤ 「私は渇いている」
(ヨハネの福音書19章28節)
ソナタⅥ 「これで終わった」
(ヨハネの福音書19章30節)
ソナタⅦ 「父よ、御手に私の霊をゆだねます」
(ルカの福音書23章46節)
地震
弦楽四重奏:ゲヴァントハウス弦楽四重奏団
第1ヴァイオリン:カール・ズスケ
第2ヴァイオリン:ギョルギオ・クレーナー
ヴィオラ:ディートマー・ハルマン
チェロ:ユルンヤーコブ・ティム
録音:1980年1月30日~2月1日、11月14日~16日、ドレスデン・ルカ教会
LP:徳間音楽工業(ドイツシャルプラッテンレコード) ET‐5133
ハイドンの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」の原曲は、1785年に作曲された管弦楽曲版であるが、1787年にハイドン自ら弦楽四重奏曲用に編曲して、これが当時大ヒットしたらしい。管弦楽曲であるとそうしょっちゅう演奏できるものではないが、弦楽四重奏曲なら手軽にどこでも演奏できるからだろう。当時はCDもないしFM放送もインターネットもない時代だったので、弦楽四重奏版は信仰心の厚い人々にとってはこの上ない演奏形式であったに違いない。ちなみに、この管弦楽曲版と弦楽四重奏曲版のほかに、出版社が用意したチェンバロ用あるいは初期のピアノ用の編曲もハイドンが監修したという。このほか合唱用のカンタータ版もあるというから、当時のこの曲に対する人気のほどがうかがえる。そもそもハイドンがこの曲を作曲したきっかけは、教会の祈祷会において、キリストの最後の七つの言葉が説教される際に奏でられる音楽を、教会からの依頼があってのことである。この教会とは、カディスのサント・ロザリオ教区教会のことで、毎年四旬節の間に信者たちが集まり、キリストの受難とその最後の言葉を黙想する音楽付きの祈祷会が行われていた。礼拝式の後、司祭は十字架上におけるキリストの最後の七つの言葉の一つを唱え、それに基づく説教を行う。そして司祭は祭壇の前でぬかずき、信者と共にキリストの受難について黙想する。その時の音楽をハイドンが受け作曲したというわけである。「序奏」と最後の「地震」を挟み、キリストの最後の七つの言葉を一曲一曲ごとに噛み砕いたような形式で進行する。最後の曲の「地震」とは、マグダラのマリアがキリストの墓にやってきたとき大地震が起こり、墓を封印した石がわきにころがり、天使がその上にすわった。つまり、この「地震」とは、キリストは墓から出て復活した故事に基づく描写的な音楽なのである。このようなことから、この曲は通常の弦楽四重奏の曲の構成とは全く異なったものとなる。ここではそんな宗教曲を、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のメンバーがその構成員となっているゲヴァントハウス弦楽四重奏団が、実に丁寧にしっとりと弾いている。このLPレコードが録音された時の第1ヴァイオリンは、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のコンサートマスターであった、あの有名なカール・ズスケ(1934年生まれ)である。例え、キリスト教信者でなくても、聴き終わった後は、何か清々しい気分に浸ることができる格調高い演奏内容に仕上がっている。(LPC)