ショスタコーヴィチ:交響曲第5番「革命」
指揮:キリル・コンドラシン
管弦楽:モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1964年、ソヴィエト連邦、モスクワ、コンセルヴァトワール大ホール
LP:ビクター音楽産業 VIC‐5168
旧ソ連の大作曲家ショスタコーヴィチ(1906年―1975年)は、生涯で15曲の交響曲を作曲した。この第5番は「革命」の名で親しまれており、現在でもコンサートにおける人気作品の一つに挙げられる。ショスタコーヴィチは幼少から才能を開花させた人だったらしく、恩師のグラズーノフから「我らがモーツァルト」という名称を付けられていたことからも分かる通り、若い頃からその才気を存分に発揮させていたことを窺わせる。そのまま有り余る才能を、何の抵抗もなしに発揮し続けていれば、現在の我々は、今あるショスタコーヴィチの作品群とは大分異なる別の作品群を聴いていたことであろう。つまり、ショスタコーヴィチは、ことあるごとに、時の共産党政権から「作品内容が社会主義リアリズム路線に沿っていない」と批判を浴び続けていたのだ。その批判に応えて作曲したのがこの「革命」交響曲だ。もっとも「革命」という副題は、日本で付けられたものであり、ショスタコーヴィチが付けたものではない。このため現在では「革命」という副題は使われないケースが多い。全4楽章を通して、“人生の苦悩を克服して歓喜を得る”といった曲想が、ベートーヴェンの「運命」交響曲にも似て、分りやすく表現されており、聴くものを感動させずにおかない。ただ、この交響曲の最後でショスタコーヴィチは、時の旧ソ連政府へ対するある隠された抵抗精神をさりげなく挿入していると指摘する向きもある。このLPレコードでは旧ソ連の名指揮者であったキリル・コンドラシン(1914年―1981年)が指揮している。キリル・コンドラシンは、モスクワで生まれる。1943年ボリショイ劇場常任指揮者、1960年モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団音楽監督に就任。1967年にはモスクワ・フィルとともに初来日し、マーラーの交響曲第9番を日本初演している。モスクワ・フィル在任中には、ショスタコーヴィチの交響曲第4番、交響曲第13番を初演している。また、モスクワ・フィルを指揮して、世界で初めてショスタコーヴィチの交響曲全集を録音を完成させた。1978年、オランダへ渡り、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団常任客演指揮者に就任。このLPレコードにおいてキリル・コンドラシンの指揮は、いたずらに感情的に走らず、曲の持つスケールの大きな音楽空間を巧みに描き切っており、心底からこの曲の真髄に触れることができる名指揮ぶりを聴かせてくれている。第4楽章の最後のティンパニーの深みのある響きなどは、LPレコード以外では絶対聴くことはできない。(LPC)