ドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲「ドゥムキー」
スーク:ヴァイオリンとピアノのための小品集
「愛の歌」「バラード」「メランコリー・メロディー」「ブルレスク」
ピアノ:レフ・オボーリン
ヴァイオリン:ダヴィッド・オイストラフ
チェロ:スビャトスラフ・クヌシェヴィッキー
録音:旧ソ連 MK
LP:ビクター音楽産業 SH‐7770
ドヴォルザークは、ボヘミアのプラハに近い村で生まれた作曲家である。このことがドヴォルザークの作曲家人生の原点にあり、民族音楽の泰斗として今日までその名を広く知らしめているのである。同じ境遇の作曲家としてスメタナがいるが、スメタナが交響詩などで民族意識を強く前面に立てたのに対し、ドヴォルザークは、交響曲や室内楽曲など、所謂絶対音楽においてその才能を発揮した。このため同じ土俵に立つブラームスと親交が厚かったようである。そんなドヴォルザークが作曲した室内楽曲の名曲が、今回のLPレコードのピアノ三重奏曲「ドゥムキー」である。ドヴォルザークは、全部で4曲のピアノ三重奏曲を作曲しているが、「ドゥムキー」は最後に作曲された曲であり、古今のピアノ三重奏曲の中でも傑作として知られている。ドゥムキーとは、ウクライナ地方を起源とするスラブ民族の哀歌「ドゥムカ」の複数形のことで、ゆっくりとした悲しげな部分と速く楽しげな部分とが交互に現れるのが特徴。全体は5つの楽章からなっているが、第1楽章が大きな2部形式で書かれているため、各部を1つの楽章と見た6楽章説もある。ここで演奏しているのが、ピアノ:レフ・オボーリン(1907年―1974年)、ヴァイオリン:ダヴィッド・オイストラフ(1908年―1974年)、チェロ:スビャトスラフ・クヌシェヴィッキー(1908年―1963年)という、当時のソ連が誇る最強の演奏者3人によるもの。今考えると同世代でよくこれほどの名人を当時のソ連が輩出できたもんだと感心するほど。三重奏曲の演奏は、名人が3人揃ったからといって必ずしも名演が聴かれるわけではないが、この録音での3人の息はピタリと合い、名曲「ドゥムキー」を、キリリと引き締まった名演奏で聴くことができる。このLPレコードのB面にはヨゼフ・スーク(1874年―1935年)のヴァイオリンの小品が4曲収録されている。スークはヴァイオリンを学んだ後、作曲をドヴォルザークに学んだ。スークのヴァイオリンの作品で最も有名なのは作品17の4曲であるが、このLPレコードには、第2曲の「情熱的に」が欠けており、代わりに作品7の1「愛の歌」が入っている。このスークの4曲のヴァイオリン小品も、ヴァイオリン:ダヴィッド・オイストラフ、ピアノ:レフ・オボーリンによる、しみじみと心に沁みる名演となっている。ただ、このLPレコードは惜しいことに録音の質が今一つ冴えない。(LPC)