モーツァルト:クラリネット五重奏曲
フルート四重奏曲第1番
クラリネット:レオポルト・ウラッハ
<クラリネット五重奏曲>
弦楽四重奏:ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団
<フルート四重奏曲第1番>
フルート:ハンス・レズニチェック
ヴァイオリン:アントン・カンパー
ヴィオラ:エーリッヒ・ワイス
チェロ:フランツ・クヮルダ
発売:1965年
LP:キングレコード MH‐5202
モーツァルト:クラリネット五重奏曲は、1798年に作曲され、同じ年の12月に初演された。この頃は、モーツァルトが金銭的にかなり厳しい時期であった。この時は、どうも妻の病気で資金を使い果たしたようである。この時以外にも、晩年のモーツァルトは、経済的にどん底にあったのは事実である。しかし、その真の原因は今に至るまで明らかになってはいない。モーツァルトに浪費癖があったのか、それとも・・・? 謎のままだ。いずれにしても、クラリネット五重奏曲を書いた頃のモーツァルトは、金銭的に追い込まれていたのだ。だがしかし、クラリネット五重奏曲を聴くと、それとは正反対の、まるで天上の音楽を聴くが如く、クラリネットの澄んだ音色が響き渡り、幸福感に溢れた曲になっているから驚きだ。やはりこれは、俗世間とは離れて作曲できるという、天才にしか与えられない特権なのかもしれない。この曲は、友人のクラリネット奏者のシュタットラーに捧げられているが、モーツァルトは、クラリネットについての知識を、このシュタットラーから得ていたようである。モーツァルトは、クラリネット五重奏曲のほかにクラリネット協奏曲という名曲を遺しているが、クラリネット自体はあまり好きな楽器ではなかったようだ。ところが、こんな名曲を遺したということは、シュタットラーの適切な助言があればこそ、ということなのであろう。その意味では、我々リスナーは、シュタットラーに感謝しなければならないということになる。このLPレコードで演奏しているレオポルト・ウラッハ(1902年―1956年)は、ウィーン出身の名クラリネット奏者。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者などを務めた。このLPレコードでもウラッハは、その暖かみのある音色を、陰陽あわせて実に巧みに表現している。今に至るまで、いわゆるウィーン情緒溢れる音色を自在に表現できるクラリネット奏者は、このウラッハをおいて他にいない、と言ってもいいほどだ。B面に収められたフルート四重奏曲第1番にも同じことが言える。モーツァルトは、あまりフルートという楽器が好きではなかった。これは当時のフルートの音程が安定していなかったためらしい。しかし、このフルート四重奏曲第1番も、クラリネット五重奏曲同様、典雅さを湛えた、誠に美しい曲に仕上がっている。フルートのハンス・レズニチェックの演奏も、この曲の良さを最大限に引き出すことに成功している。(LPC)