シューマン:ピアノ三重奏曲第1番/第2番
ピアノ三重奏:ボザール・トリオ
メナヘム・プレスラー(ピアノ)
イシドーア・コーエン(ヴァイオリン)
バーナード・グリーンハウス(チェロ)
LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) 13PC‐165
シューマンには、「歌曲の年」「交響曲の年」それに「室内楽の年」と呼ばれる年があり、それぞれのジャンルの曲を集中的に作曲した。「室内楽の年」と呼ばれる年は、1842年であり、この年に入ると、3曲の弦楽四重奏曲を一気に書き上げ、さらに、ピアノ五重奏曲、ピアノ四重奏曲という傑作を世に送り出している。しかし、ピアノ、ヴァイオリン、チェロによる「4つの幻想小曲」以外、この年には本格的なピアノ三重奏曲には手を染めていない。これは何故か?その理由は詳らかではない。私の推測にしか過ぎないが、シューマンのこの時期というと、過度とも言えるほどロマンの色濃い作品を書いていたわけで、なるべく弦の多い形式の曲に傾斜していたためではなかろうか。シューマンは、この5年後の1847年にピアノ三重奏曲第1番を書き上げ、さらに1851年までにあと2曲を書き加え、全3曲のピアノ三重奏曲を完成させている。この頃のシューマンは、若い頃からのロマンの雰囲気に加え、古典形式への傾斜も見せ、複雑な作曲環境の中にあり、さらに、徐々に神経障害の兆候も見られ、決して順調とは言えない環境にあった。このため、3曲あるピアノ三重奏曲のうち、現在、よく演奏されるのは早い時期に書かれた第1番であり、第2番、第3番は晦渋な作品としての位置づけが一般的であるようだ。しかし、よく聴くと第2番、第3番もシューマンでしか表現できないような、繊細さが込められた作品となっている。このLPレコードには、ボザール・トリオの演奏で第1番と第2番とが収められている。ボザール・トリオは、米国のピアノ三重奏団で、1955年にピアニストのメナヘム・プレスラー(1923年―2023年)によって結成され、2008年のルツェルン音楽祭のコンサートをもって解散したが、その演奏内容は常に高い評価を勝ち得ていた。このLPレコードでのボザール・トリオの演奏も、シューマン独特のロマンの色濃い雰囲気を最大限発揮させ、リスナーはその名演に釘付けとなる。3人の息がぴたりと合い、一部の隙のない演奏を聴かせる。第1番は、伸び伸びとしたロマン豊かな響きが、とりわけ魅力的な演奏だ。第2番は、一般的に言って晦渋な作品かもしれないが、シューマン愛好家にとってはお宝的作品。特に第2楽章、第3楽章の哀愁を帯びたボザール・トリオの演奏を一度でも聴いたら、二度と忘れられなくなる。(LPC)