モーツァルト:交響曲第40番
交響曲第41番「ジュピター」
指揮:フェレンツ・フリッチャイ
管弦楽:ウィーン交響楽団
発売:1974年
LP:ポリドール MH 5002
このLPレコードは、モーツァルトの交響曲第40番と交響曲第41番「ジュピター」を、名指揮者フェレンツ・フリッチャイ(1914年―1963年)がウィーン交響楽団を指揮した録音。モーツァルトの晩年は、常に資金繰りに苦しめられていた。だから、晩年は金になる作曲や演奏活動に多くの時間が割かれたわけであるが、そんな切羽詰まった時に、交響曲の二大傑作である交響曲第40番および交響曲第41番「ジュピター」が生まれたのだから驚きだ。まあ交響曲第40番は悲壮感漂う曲想なので理解がいくが、交響曲第41番は「ジュピター」という愛称が付くほど、堂々として威厳に満ちた曲想であることは、奇跡的なことも言える。この2曲を指揮しているのがベルリン・ドイツ交響楽団首席指揮者、ベルリン・ドイツ・オペラ音楽監督、バイエルン国立歌劇場音楽総監督などを歴任したハンガリー出身の指揮者フェレンツ・フリッチャイである。ブダペスト音楽院で学び、1947年、オットー・クレンペラーの代役としてザルツブルク音楽祭で一躍脚光を浴びた。ドイツでの活躍に加え、1953年、ボストン交響楽団を指揮してアメリカでもデビューを果した。しかし、白血病のため48歳の若さで他界しまう。その才能を惜しんで、バリトンのフィッシャー=ディースカウは「フリッチャイ協会」を設立したほど。指揮者として成熟の直前のその死は、多くの人々に惜しまれた。幸い、フリッチャイが指揮した録音は比較的多く、現在でもそのCDを入手することができる。フリッチャイの指揮の特徴は、オーケストラを自分の情熱的な指揮に完全に一体化し、集中度が限りなく高い演奏を聴かせてくれること。今回のウィーン交響楽団を指揮した録音は、そんなフリッチャイのいつもの姿勢とは少々異なり、より理性の勝った指揮ぶりを聴かせる。特に交響曲第40番の指揮のこのことが顕著に表れる。しかし、聴き終えると、理性の勝った今回の指揮の方が余計にモーツァルトの“疾走する悲しみ”をリスナーは実感できるともいえる。このことをフリッチャイは計算しての指揮したのだろうか。それともウィーン交響楽団の持つ特質を考えた末の結論だったのか。これに対し交響曲第41番「ジュピター」の指揮は、いつものフリッチャイが少々戻り、集中力の高い、情熱的でスケールの大きい演奏を披露する。特に第1楽章に、このことが顕著だ。いずれにしてもフリッチャイは、指揮者として大成の直前に亡くなってしまったということを、このLPレコード聴くことにより、実感させられる。(LPC)