シェーンベルク:浄夜(弦楽六重奏のための)
セレナード(七重奏とバリトンのための)
指揮:ピエール・ブーレーズ
演奏:浄夜(弦楽六重奏のための)
ドメーヌ・ミュージカル・アンサンブルのメンバー
ジャック・パルナン(ヴァイオリン)
マルセル・シャルパンティエ(ヴァイオリン)
D.マルトン(ヴィオラ)
セルジュ・コロ(ヴィオラ)
ピエール・パナスゥー(チェロ)
M.トゥルニュ(チェロ)
セレナード(七重奏とバリトンのための)
ドメーヌ・ミュージカル・アンサンブル
バリトン:ルイ=ジャック・ロンドゥロウ
発売:1975年1月
LP:日本コロムビア OW-7572-EV
フランスにおいてドビュッシーが活躍し始めた頃、ウィーンにおいてはシェーンベルクが個性的で新しい音楽の様式を模索し始め、調性を否定した12音音楽へとたどり着くことことになる。しかし、今でこそ現代音楽の旗手のシェーンベルクであっても初期の頃は、後期ロマン主義の音楽に基づいて作曲しており、その代表作と目されるのが、今回のLPレコードのA面に収められた「浄夜」である。一方、12音音楽に基づいて作曲された作品の一つである「セレナード」がB面に収録されている。「浄夜」は、同時代のドイツの詩人リヒャルト・デーメルが1899年に出版した詩集「女と世界」に基づき、シェーンベルクが作曲した曲で、元は弦楽六重奏のための曲であったが、1917年に自ら弦楽合奏用に編曲し、さらに1943年には、その改訂版も書いている。この「浄夜」は、シェーンベルクがワーグナーやブラームスから影響を受けた頃の作品だけに、弦の微妙で多様な色彩の変化が限りなく美しい作品。要するに後期ロマン派風の作品に仕上がっているわけであるが、その後、シェーンベルクが行き着いた12音音楽の片鱗も垣間見える。デーメルの詩集「女と世界」の内容は、寒い月夜に二人の若い男女が暗い森の中で交わす会話からなっている。女は他人の子を身ごもっていることを告白するが、男はこの清らかな夜のように、二人の愛情で、その子が浄められて、自分の子のようになったと言って許すのがそのストーリー。このLPレコードには、ピエール・ブーレーズの指揮とドメーヌ・ミュージカル・アンサンブルの6人のメンバー達の演奏が収められている。このLPレコーではブーレーズは、非常にゆっくりとしたテンポで曲をスタートさせる。曲が進むうちに徐々に森の奥の雰囲気が辺りを覆う様子が表現されるが、過度にロマンチックな要素は敢えて排除しているかのようである。この録音は、曲の骨格をくっきりと浮かび上がらせ、筋肉質の演奏に徹している。この作品後、シェーンベルクは、自分の作風と音楽語法に疑問を感じ、ほぼ10年間の沈黙の時期に入る。そして、この10年の間に、12音技法という全く新しい作曲技法を編み出したのである。そして、その沈黙を破って初めて書かれたのが、このLPレコードのB面に収められている、七重奏とバリトンのための「セレナード」という作品だ。全体は、「行進曲」「メヌエット」「変奏曲」「ソネット」「舞踏の情景」「(言葉なき)歌」「フィナーレ」の7つの楽章からなる。この曲は、“12音音楽創始者シェーンベルク”の面目躍如たる作品。演奏は精緻を極める。(LPC)