シューマン:歌曲集「女の愛と生涯」
1.彼に会って以来
2.彼は誰よりも素晴らしい人
3.分からない、信じられない
4.わたしの指の指輪よ
5.手伝って、妹たち
6.やさしい人、あなたは見つめる
7.わたしの心に、わたしの胸に
8.今、あなたは初めてわたしを悲しませる
マーラー:リュッケルトの詩による3つの歌
1.わたしはこの世に忘れられ
2.ほのかなかおりを
3.真夜中に
コントラルト:カスリーン・フェリアー
ピアノ&指揮:ブルーノ・ワルター
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1949年9月、エディンバラ音楽祭のBBC放送による
発売:1978年
LP:キングレコード MX 9044
このLPレコードは、世界のクラシック音楽界の声楽と指揮をそれぞれ代表する2人が歴史的な出会いの後に生まれた貴重な録音である。英国生まれのコントラルト(アルト)歌手のカスリーン・フェリアー(1912年―1953年)は、普通高校において勉学し、卒業後に郵便局に入り、電話交換手の職にありつく。この時、高校で習っていたピアノ演奏で、地方のコンクールに入賞したり、音楽放送に出演するなどの余技的な活動を続けていたが、ある歌手の伴奏をしたことで、歌手としてのレッスンを受けることになる。1940年、ヘンデルの「救世主」の独唱者として公式に歌手としてのデビューを飾る。そして、1947年のエジンバラ音楽祭が2人の運命の出逢いとなる。ワルターはこの時、マーラーの「大地の歌」を指揮することになっており、推薦人を介してカスリーン・フェリアーと出会い、この時ワルターは「幼時の無邪気さと貴婦人の威厳を併せ持ち、そしてこと芸術に関しては、謙虚さと自信と同時に、常に初心者のような感動を忘れない人」とカスリーン・フェリアーを高く評価したのである。しかし、その後カスリーン・フェリアーは、当時はまだ不治の病であった癌に罹り、1953年、41歳の若さでこの世を去ってしまう。このため残された録音は、数こそ多くはないが、その1曲1曲が不朽の名盤揃いなのである。このLPレコードでも、シューマン:歌曲集「女の愛と生涯」とマーラー:リュッケルトの詩による3つの歌において、コントラルトならではの深い情念を持った、類稀な表現が聴くものに感動を与えずにはおかない。歌曲集「女の愛と生涯」は、シューマンが“歌曲の年”といわれる1840年に作曲した連作歌曲で、詩はアーデルベルト・フォン・シャミッソーによる。当時のシューマンは、クララ・ヴィークとの結婚という、自らの経験が作曲の背景にあったのは確かなこと。ピアノの独立性が高く、声楽と対等な立場で音楽表現が特徴で、シューベルトの影響を離れて新しい時代に入ったことを印象付ける作品。一方、マーラーは、フリードリッヒ・リュッケルトの詩により、当時としては画期的なオーケストラ伴奏による歌曲集「亡き子をしのぶ歌」に続き、「最後の七つの歌」を作曲したが、このLPレコードでは、よく歌われる「わたしはこの世に忘れられ」「ほのかなかおりを」「真夜中に」の3曲が取り上げられている。ワルターはピアノと指揮とで、カスリーン・フェリアーの伴奏役に徹し、見事な一体感をつくり出している。(LPC)