ブラームス:2つのラプソディー第1番/第2番op.79
カプリチオop.76の1~2
インテルメツォop.76の4
幻想曲第1曲~第7曲op.116
ピアノ:ウィルヘルム・ケンプ
LP:日本グラモフォン SMG‐1256
ブラームスのピアノ曲というと、3つのピアノソナタ、2つのピアノ協奏曲、さらのパガニーニ変奏曲のような力の入った初期から中期にかけての大曲を思い浮かべる。これらはいずれも重厚でロマン性に富んだ雄大な曲想が特徴で、作曲家としての若き日のブラームスの意欲が、巨大なエネルギーを伴って溢れ返るようでもある。そんな力強いピアノ作品の作風は、中期後半から晩年に掛けて、がらりと一変する。何か枯淡の境地に至って、遥か昔を偲ぶかのような雰囲気を漂わす一連の小品のピアノ独奏曲を書き始める。そんなブラームス中期後半から後期に掛けてのピアノ独奏曲を集めたのがこのLPレコードなのである。つまり、これらの曲に、明るく軽快なロマンの香りを求めようとしても、それは無いものねだりというものだ。もうそこにいるのは、かつてのエネルギーの丈を思いっきり鍵盤に爆発させた若々しいブラームスではない。老人が自分の人生を振り返り、遠く彼方を思い浮かべる孤独感と諦観を抱いた晩年のブラームスの姿だ。しかし、そんな作品なんて面白くなさそう、と考えるのは早計なのだ。成る程、間奏曲(このLPレコードには収録されていない)は、瞑想的で沈潜的な曲が多いかもしれないが、このLPレコードに収録されているラプソディー、カプリチオ、インテルメツォ、幻想曲は、いずれも間奏曲ほど内向的でなく、スケルツォ的で活発な曲が多く、聴きやすい。2つのラプソディー第1番/第2番op.79は、1879年の夏に避暑地のペルチャッハで書かれた。ラプソディー(狂詩曲)というよりバラードに近い曲想を持つ。作品76は、4曲ずつのカプリチオとインテルメツォとからなる。第1曲は、1871年に書かれ、残りの曲は1878年夏にペルチャッハで書かれた。幻想曲第1曲~第7曲op.116は、3曲のカプリチオと4曲のインテルメツォからなるが、何故、幻想曲という名がつかられたは分からない。このLPレコードで演奏しているのはドイツの名ピアニストのウィルヘルム・ケンプ(1895年―1991年)。ケンプの演奏は、あくまでも音楽に真正面から向き合い、誠実に演奏を行う。心の奥底からの共感を基に演奏する。当時、ケンプを日本のリスナーは敬愛し、またケンプも日本に好意を持ち、しばしば来日していた。そんなケンプが心の奥底からブラームスの世界に浸り、名演を聴かせてくれるのがこのLPレコードなのだ。(LPC)