ベートーヴェン:交響曲第7番
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
発売:1977年
LP:キングレコード(LONDON) GT 9127
カラヤンは日本へは何回来たのであろうか。調べてみると合計11回だったようだ。このLPレコードの発売は、7回目の1977年の時のものであろう。これらのうち、私は1981年10月31日、東京文化会館でのブラームス:交響曲第4番/交響曲第2番の演奏会を聴いたことを昨日のように思い出す。この頃、既にカラヤンの体調に異変が生じつつあったようで、片足を引きずりながら指揮台に登壇したのを見た時には一瞬びっくりした。その痛々しい姿が今でも目に焼き付いて離れない。逆に言うと、そうまでしてカラヤンは、日本公演に拘ったとも言うことができる。カラヤンは大のメカ好きで、当時の日本の音響機器には世界最高の製品が数多くあり、そんなこともカラヤンが日本に引き付けられた一因にもなっていたようでもある。カラヤンが亡くなった時に、その部屋に居たのは元バリトン歌手で当時のソニー社長の故大賀典雄氏であったことでも、カラヤンと日本の因縁の深さを感じざるを得ない。さて、このLPレコードのジャケットの帯には、「カラヤン/ウィーン・フィルのステレオによる唯一のベートーヴェン」と記載されている。正に貴重な録音なのだ。そういえばカラヤンはベルリン・フィルとの録音は数多く残しているが、ウィーン・フィルとの録音はそう多くはないことに思い当たる。そもそもウィーン・フィルは常任指揮者を置かないし、プライドも高そうなので、帝王カラヤンといえどもそう気易く指揮をするわけにいかなかったもしれない。それを裏付けるように、このLPレコードのA面のベートーヴェン:交響曲第7番の第1楽章および第2楽章を聴くと、いつもの“カラヤン節”は、少々湿りがちで、全開に至っていない。やはり、両者(カラヤンとウィーン・フィルの団員)が互いに様子見の綱引きをやっているように私には聴こえる。ワーグナーがこの7番を「舞踏の神化」となぞらえたような活力が聴き取れない。第1楽章および第2楽章の演奏だけを聴くと、何かを手探りで模索してしているかのような演奏に終始する。ところが、B面の第3楽章および第4楽章に入ると、ようやくにいつもの“カラヤン節”が全開する。その鋼鉄のような力強い表現に圧倒される。同時に「舞踏の神化」そのものの軽快な音の運びは聴いていて心地よい。特に第4楽章に入ると、弦、管、打楽器の全てがカラヤンの棒の下に結集して圧倒的な効果を発揮する。このLPレコードを聴くと、やはり帝王カラヤンをもってしても、ウィーン・フィルを統率するには一筋縄ではいかなかったのではなかろうか、との思いに至った録音ではあった。(LPC)