モーツァルト:弦楽五重奏曲第4番/第6番
<第4番>
アマデウス四重奏団
セシル・アロノウィッツ(第2ヴィオラ)
<第6番>
ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団
フェルディナント・シュタングラー(第2ヴィオラ)
発売:1964年
LP:キングレコード(ウェストミンスター) MH5164
モーツァルトは、弦楽五重奏曲を6曲、つまり第1番K.174、第2番k.406(516b)、第3番K.515、第4番K.516、第5番K.593、第6番K.614を作曲している。ところがこのLPレコードのジャケットには、「第5番K.516」「第7番K.614」と記載されているのだ。これは多分、現在では偽作と見なされている「13管楽器のセレナーデ」を編曲したK.46を第1番にしたためと思われる。つまり今回のLPレコードで演奏されているのは、第4番と第6番である。弦楽五重奏曲第3番と第4番の関係は、よく交響曲第40番と第41番の関係になぞらえられる。短調と長調の順番が逆ではあるが、弦楽五重奏曲第3番は交響曲第41番に、弦楽五重奏曲第4番は交響曲第40番に類似しており、いずれの曲も、その内容は、モーツァルトの曲の中でも一際充実したものとなっている。そして弦楽五重奏曲第6番もモーツァルト晩年の憂愁を含んだ名曲として知られている。今回演奏しているのは、第4番が第2ヴィオラにセシル・アロノウィッツを加えたアマデウス四重奏団、第6番が第2ヴィオラにフェルディナント・シュタングラーを加えたウィーン・コンツェルトハウス四重奏団である。アマデウス弦楽四重奏団は、1950年代から1970年代に活躍した弦楽四重奏団で、実に39年間という長きにわたり同一メンバーで活動を行った団体でもあった。ここでは、まるで羽毛が風に揺れ動いているかのような、優雅でロマンティックな演奏に終始する。このためモーツァルトの短調の曲が持つ陰鬱で暗いという印象よりも、仄かな憂いを含んだ優美さが、ここでは最善の形となって表現され切っている。ある意味、天上の音楽の表現とでも言ったらよいのであろうか。これほど微妙な表現力を持ったカルテットには、現在あまりお目にかかれなくなってしまった。一方、ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団は、ウィーン・フィルの第一ヴァイオリン奏者の一人、アントン・カンパーを中心として結成された弦楽四重奏団。名前の通りウィーン情緒たっぷりとした表現力を特徴とし、当時はバリリ四重奏団と双璧をなすカルテットとして多くのファンを有していた。ここでの演奏は、ウィーン情緒というより、メリハリの利いたすっきりとした演奏内容を披露する。モーツァルト晩年に書かれたこの弦楽五重奏曲第6番は、悟りの心境にも似た静かな安らぎの精神性に満ちた曲だが、そんな曲を、一見淡々として弾き進む。その演奏は、モーツァルトに対する限りない敬愛が込められていることが聴き取れ、聴き終えた後に深い満足感を得ることができる。(LPC)