★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ワルターの名盤 モーツァルト:交響曲第40番/第41番「ジュピター」

2020-06-11 09:39:42 | 交響曲(モーツァルト)

モーツァルト:交響曲第40番/第41番「ジュピター」

指揮:ブルーノ・ワルター

管弦楽:ニューヨーク・フィルハーモニック

録音:1953年2月23日(交響曲第40番)/1956年3月5日(交響曲第41番)

LP:CBS・ソニー SOCF 110
 
 このLPレコードは、ワルター遺した数多くの録音の中でも、1、2を争うような優れたもので、現在でもこの録音を聴かずしてモーツァルトの交響曲演奏は語れない、と断言できるほどの名盤中の名盤である。交響曲第40番の演奏がアポロ的とするなら、さしずめ第41番「ジュピター」の演奏は、ディオニソス的な演奏と言ってもよかろう。ワルターは、これら2つの交響曲を指揮するに当たり、それまでの他の指揮者の演奏を聴き続けたのではないか。そして、2つの交響曲の演奏は、こうあらねばならないという深い信念に基づいて指揮したように私には聴こえる。一般的に第40番は、“悲しみの疾走”と表現されるように、テンポを早めに、劇的に演奏されることがほとんど。それに対しワルターは、テンポを柔軟に操ることによって、この曲の持つ真の魅力を引き出すことに見事成功している。そして、そこには、明るく大らかな世界が開けているのだ。ワルターは、決して“悲しみの疾走”を一方的にリスナーに押し付けるようなことなどは決してしない。それによって、神々しくも輝かしい第40番を新たに創造したのだと言ってもいいほどだ。一方、第41番は、実に堂々とした男性的なモーツァルトをつくりあげている。全てのぜい肉をはぎ取って、筋肉質で見事なバランスある演奏内容だ。単にこけおどし的な大きさを狙うのではなく、内省さが絡み合った雄大さであるので、聴いていて充実感に満たされる。このLPレコードのライナーノートにおいて、宇野功芳氏は、このワルターの第40番のレコードを最初に聴いた時の印象を、次のように記している。「ヴィオラの何というふっくらとしたさざ波、そしてそのリズムの上に、たっぷりと漸強弱をつけられた第1主題が心ゆくまで歌われる。もう駄目だ。陶酔と満足感のうちに、自分の身体が溶けていくのではないかと思われた」。それにしても、このLPレコードのニューヨーク・フィルの団員達の自発性に富んだ厚みのある響きは、正に特筆ものではある。ブルーノ・ワルター(1876年―1962年)は、ウィーン国立歌劇場音楽監督、バイエルン国立歌劇場音楽総監督、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団楽長、ニューヨーク・フィルハーモニック音楽監督、ベルリン・ドイツ・オペラ音楽監督を務めた、フルトヴェングラー、トスカニーニと並び称された巨匠中の巨匠である。第二次世界大戦が勃発するとスイスからアメリカへと逃れた。アメリカでは、カリフォルニア州ビバリーヒルズに居を構え、ニューヨーク・フィルハーモニックやメトロポリタン歌劇場などを指揮した。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇絶頂期のエリー・アメリンクが歌うシューマン歌曲集

2020-06-08 09:41:30 | 歌曲(女声)

~シューマン歌曲集~

   きみにささぐ op.25-1
   ことずて op.77-5
   あこがれ op.51-1
   問い op.35-9
   わたしの美しい星 op.101-4
   まつゆき草 op.79-27
   新緑 op.35-4
   時は春 op.79-24
   牛飼いのおとめ op.90-4
   森へのあこがれ op.35-5
   最後の花も枯れて op.104-6
   ジャスミンの木 op.27-4
   ちょうちょう op.79-2
   くるみの木 op.25-3
   てんとう虫 op.79-14
   小さいふくろう op.79-11
   森の語らい op.39-3
   ローレライ op.53-2
   海の妖精 op.125-1
   眠りの精 op.79-13
   トランプ占いの女 op.31-2

ソプラノ:エリー・アメリンク

ピアノ:イエルク・デムス

録音:1967年

LP:テイチク(ハルモニア ムンディ レコード) ULS-3150-H
 
 このLPレコードの帯に「アメリンクの絶頂期の名唱! 声の美しさが抜群!」とあるが、これだけでこのLPレコードの本質をずばり突いていると言ってもいいほどだ。ソプラノのエリ-・アメリンク(1933年生まれ)は、オランダのロッテルダムで生まれ、パリで往年の名歌手ピエール・ベルナックに師事。1958年度の「ジュネーブ国際コンクール」に優勝して以来、世界的な歌手として認められるようになる。数多くのレコード録音を行っており、1965年にはエディソン賞を受賞したほど。一般の歌手とは異なり、アメリンクはオペラの舞台には殆ど立たたず、その活動の場は、宗教音楽や歌曲であり、コンサート歌手として多くのファンを獲得していた。日本では、このようなケースは珍しくはないであろうが、欧米では、オペラ歌手以外で、一流の歌手の座を長らく維持することは、奇跡的なことと言ってもよかろう。アメリンクは、声の質自体が美しく、繊細で伸びやかな歌唱は、宗教曲やリートの世界によく適う。レパートリーは幅広く、モーツァルトやシューベルトのようなドイツ・リートだけでなく、フランスのメロディや、ガーシュウィンやバーバーの英語歌曲のほか、山田耕筰や中田喜直などの日本語歌曲までを原語で歌う。また、宗教曲でも演奏や録音を残している。そんなアメリンクがシューマンのリートから、得意とする21曲の曲目を選び抜き1枚のアルバムにまとめたのがこのLPレコードである。であるからには悪かろう筈もない。シューマンは、作曲家としての道を歩み始めた頃の作品は、全てピアノ曲であった。その後、クララ・ヴィークと結婚した30歳になると、今度は、方向を一転させリートの作曲に没頭することになる。いわゆるシューマンの“歌の年(1840年)”である。シューマンは生涯で200曲以上のリートを作曲したが、その半数がこの“歌の年”に集中している。シューマンの“歌の年”のリート作品は、シューベルトのそれとは異なり、多くが夢見るようなロマンの香りが馥郁と立ちこむ、幻想的な作品が多い。このLPレコードに収録されている半数が“歌の年”の作品であり、あとの半分はシューマン晩年の作品。アメリンクは、それら2つの作品群を美しくも巧みな表現で歌い分ける。シューマンのロマンの香り高いリート作品を、アメリンクの清楚で緻密で、そして美しい歌声で聴いたその瞬間から、もうリスナーは何かマジックにでも掛けられたかのように、その歌声に引き寄せられ、シューマンのリートの世界に誘われることになる。これはもう、夢の世界の中の体験とでも言ったらいいのであろうか。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇忘れ去られた名指揮者ケンペン指揮ベルリン・フィルのベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」

2020-06-04 09:35:42 | 交響曲(ベートーヴェン)

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」

指揮:パウル・ファン・ケンペン

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1953年5月26日~28日、ベルリン

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) 13PC‐260
 
 これは、オランダとドイツで活躍した名指揮者パウル・ファン・ケンペン(1893年―1955年)の雄大な指揮の有様を存分に鑑賞できる貴重なLPレコードである。私は最初に、このケンペンの「英雄」のLPレコードを聴いた時、「これはフルトヴェングラーの指揮のレコードの間違えではないのか」と疑ったほどである。よく“フルトヴェングラーの前にフルトヴェングラーなし、フルトヴェングラーの後にフルトヴェングラーなし”と言われるぐらいフルトヴェングラーは傑出した指揮者で、誰も真似などできないと信じられていた。しかし、このLPレコードを聴く限り、「フルトヴェングラーの後継者は実は居て、その名はケンペンだ」と言っても、あながち見当はずれでないのではなかろうかとも思われるほど、この「英雄」のケンペンの指揮ぶりは、空前絶後とも言えるほどスケールが大きく、力強さも申し分ない。ベルリン・フィルも、ケンペンに引きずられるように、一糸乱れぬ熱演を聴かせる。フルトヴェングラーが指揮台に立つだけで辺りの雰囲気が緊張感に包まれたといわれるが、このケンペンの「英雄」の緊張感もただごとではない。今、このような指揮をすると、「大時代がかっている指揮」とか「古臭い指揮」とか言われて嫌われることがしばしばだ。しかし、そんな今に時代だからこそ、逆にケンペンのような、“皆俺について来い”的な力強い指揮者の復活が望まれると考えるのは、私だけであろうか。ちなみに、この録音はCD化(ユニバーサルミュージック)されているようなので、一度お聴きになってみることをお薦めしたい。パウル・ファン・ケンペンは、オランダのハーグに近いライデンで1893年に生まれた。アムステルダム音楽院でヴァイオリンを学び、たった17歳でメンゲルベルクが音楽監督を務めていたアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサート・マスターに就任したというから驚きだ。1942年からはカラヤンの後任としてアーヘン国立歌劇場の音楽総監督に就任する。第二次世界大戦後の一時期、戦時中にナチスに協力したということでオランダでの演奏活動を禁止されたが、1949年には解除され、オランダ放送フィルの常任指揮者として復活を遂げた。さらに1953年にはブレーメン市立劇場音楽監督に就任し、ドイツにも戻ることができた。ようやく、本格的活動のスタートを切ったと思わた矢先、1955年に突然の死を迎え、帰らぬ人となる。享年62歳であった。今ではケンペンは、忘れ去られた指揮者となってしまった。実に悲しいことだ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ウィーンの名手たちによるブラームス:ホルン三重奏曲/クラリネット三重奏曲

2020-06-01 09:35:42 | 室内楽曲

ブラームス:ホルン三重奏曲
      クラリネット三重奏曲

<ホルン三重奏曲>

フランツ・コッホ(フレンチ・ホルン)
ワルター・バリリ(ヴァイオリン)
フランツ・ホレチェック(ピアノ)

<クラリネット三重奏曲>

レオポルド・ウラッハ(クラリネット)
フランツ・クワァルダ(チェロ)
フランツ・ホレチェック(ピアノ)

発売:1964年

LP:キングレコード:MH-5173
 
 LPレコードの音は、自然の滑らかさ、しかも温もりのある音質特性であるのが何より素晴らしい。ある人は「レコード以外の音が水道水とするなら、レコードの音は、こんこんと湧きいずる深い山峡の自然水のようだ」とLPレコードの音を評している。そんなLPレコードには、室内楽とはとりわけ肌合いが良さそうである。今回は、知る人ぞ知る的な曲とでも言える、室内楽の取って置きの名曲、ブラームス:ホルン三重奏曲とクラリネット三重奏曲の2曲がカップリングされたLPレコードである。これは晩秋か冬の夜に聴くのが一番似合いそうだ。しかも、演奏しているのが、当時、名人と謳われたフレンチ・ホルンのフランツ・コッホとクラリネットのレオポルド・ウラッハなので申し分ない。ヴァイオリンには、ウィーン・フィルのコンサートマスターを務め、バリリ弦楽四重奏団の主宰者でもあったワルター・バリリが加わっている。ブラームスは、ホルンを使った曲は、このホルン三重奏曲以外に作曲していないようであるが、決してホルンを軽視しいていたわけではなく、むしろ、交響曲や管弦楽曲などでは、ホルンを効果的に使っている。このホルン三重奏曲はブラームスが1865年5月に作曲した室内楽曲。この頃、ブラームスは、バーデン・バーデンで過ごしており、自然の中を散策していた時に、牧歌的なホルンに霊感を得て作曲したと言われている。ホルン、ヴァイオリン、ピアノという編成で演奏される全部で4楽章からなる曲。全体に牧歌的で、柔和で、ロマンの香りが漂う室内楽となっている。このレコードでのフランツ・コッホの演奏は、ブラームスの室内楽の特徴である、内省的で渋い表情がよく表わされている一方、フレンチ・ホルンのほのぼのとした雰囲気を辺り一面に漂わせ、室内楽の醍醐味を存分に味わせてくれる。ブラームスは晩年を迎え、創作意欲の減退を感じていたが、1891年のある日、クラリネットのリヒアルト・ミュールフェルトの優れた演奏を聴く機会があり、これで霊感を取り戻し、クラリネットの室内楽を一気に5曲書き上げることになる。その第1曲目がクラリネット三重奏曲だ。このLPレコードで演奏しているレオポルド・ウラッハ(1902年―1956年)は、ウィーン・フィルの団員として以外にも、室内楽でも活躍した伝説のクラリネット奏者である。このLPレコードでの演奏は、比類のない演奏技巧に加え、ブラームスの室内楽に欠かせない、奥行きのある深々とした演奏内容が、他の奏者では到底まねのできない境地にまで達していることが手に取るように分かる。(LPC)

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