★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇巨匠ハンス・リヒター=ハーザーとカラヤン指揮ベルリン・フィルのブラームス:ピアノ協奏曲第2番

2020-08-13 10:09:19 | 協奏曲(ピアノ)

ブラームス:ピアノ協奏曲第2番

ピアノ:ハンス・リヒター=ハーザー

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

LP:東芝EMI(SERAPHIM) EAC‐30081

 ブラームスのピアノ協奏曲第2番は、通常のピアノ協奏曲とは異なり、スケルツォ楽章を備えた全4楽章で構成されている。時には“ピアノ独奏を伴う交響曲”などとも呼ばれることがあるほどの大作で、ピアノ演奏の難しさでも有名な曲である。ピアノ協奏曲第1番は、若いころの激しい情熱で一気に書き上げたような曲であるのに対して、第1番から22年後に書かれたこの第2番は、がらりと雰囲気を変え、明るく伸びやかで、大らかな曲想が全体を覆っている。これは、2回目のイタリア旅行から帰国後に書かれたためと言われている。初演は、1881年11月にブラームス本人の独奏でブダペストにおいて行われ、好評を得たという。難曲として知られるこの曲の初演をブラームス自身が行ったということは、当時、ブラームスはピアニストとしても一流の腕を持っていたということになる。このLpレコードでピアノ演奏を行っているハンス・リヒター=ハーザー(1912年ー1980年)は、ドイツ・ドレスデン出身の名ピアニストであった。1928年から演奏活動を開始し、1930年「ベヒシュタイン賞」を受賞。 第二次世界大戦中からデトモルトに移り住み、1945年から1947年までデトモルト交響楽団の指揮者も務めた。また、1946年から1962年まで北西ドイツ音楽アカデミーでピアノ科主任教授としてピアノを教えた教育者でもあった。さらに、作曲家としても交響曲や2曲のピアノ協奏曲など数多くの作品を書いている。このようにハンス・リヒター=ハーザーは、単なる一ピアニストという以上に多分野で活躍した音楽家であったのである。ハンス・リヒター=ハーザーの演奏は、厳格なドイツ音楽の様式美に基づいたものであることは間違いない。ただ、それは堅苦しいということではなく、実に包容力のある奥深さがその背後に窺うことができる。このLpレコードでの演奏は、カラヤンとベルリン・フィルの名伴奏を得て、実に瑞々しい演奏を披露している。全体は、がっちりした構成美に貫かれており、如何にもブラームスらしい渋さが聴き取れる。しかし、単にそれだけには留まらず、曲全体からロマンの香りが匂い立つようなピアノ演奏の優雅さで覆われているのだ。特に第3楽章のアンダンテの楽章は、ハンス・リヒター=ハーザーのピアノ演奏は、実に柔らかく美しい響きで、夢幻的な境地にリスナーを誘い込む。ここでの演奏は、手先の技巧というより、魂のこもった精神的な安らぎが横溢する演奏内容と言っていいだろう。続く第4楽章でも、歌うような滑らかさのあるピアノ演奏が何とも印象的。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇エド・デ・ワールト指揮ドレスデン国立管弦楽団のモーツァルト:セレナード第5番

2020-08-10 09:52:20 | 管弦楽曲

モーツァルト:セレナード第5番K.204(213b)

ヴァイオリン:ウト・ウギ

指揮:エド・デ・ワールト

管弦楽:ドレスデン国立管弦楽団(シュタッツカペレ・ドレスデン)

録音:1973年11月17日ー23日/1974年5月12日-13日、ドレスデン

LP:日本フォノグラフ(フィリップスレコード) 18PC-82(6500 967)

 このLPレコードで指揮しているのは、若き日のオランダ出身指揮者エド・デ・ワールト(1941年生まれ )である。エド・デ・ワールトは、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の次席オーボエ奏者を経て、1964年に23歳で、ニューヨークの「国際ディミトリー・ミトロプーロス指揮コンクール」で優勝を果たす。ロッテルダム・フィル(1973年ー1985年)、サンフランシスコ交響楽団(1977年ー1985年)の、それぞれ音楽監督を務める。さらに、1995年から2004年までシドニー交響楽団の首席指揮者ならびに芸術顧問を務める。2009年よりミルウォーキー交響楽団の音楽監督に、また2011年よりロイヤル・フランダース・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任している。エド・デ・ワールトの指揮ぶりは、正に正統派そのもので、極端な誇張や奇を衒うこととは無縁である。しかし、決して形式ばって堅苦しいものではなく、あくまでそのつくり出す音楽は、瑞々しく、清新さに溢れたものとなっている。エド・デ・ワールトは、低迷しているオーケストラを、最高のレベルまで引き上げる能力に長けており、これまで多くのオーケストラの質の向上を実現させてきた実績を持つ。このLPレコードの指揮でも、エド・デ・ワールトが有する、素直で豊かな表現力とが如何なく発揮されている。演奏しているのは、1548年に設立された旧東ドイツの名門オーケストラのシュターツカペレ・ドレスデン。2012年からはクリスティアン・ティーレマンが務めている。さて、このLPレコードに収録されているモーツァルト:セレナード第5番K.204(213b)は、現在演奏されることはあまり多くはない。モーツァルト:セレナードというと、第6番「セレナータ・ノットルナ」、第7番「ハフナー」、第9番「ポストホルン」、第10番「グラン・パルティータ」、第13番「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」などが、現在よく演奏される。セレナード第5番は、これらに著名なセレナーデを生み出したルーツともいうべき曲。このセレナードは、もともと、7楽章からなるが、通常、初演の時に最初に演奏された行進曲K.215(213b)が第1楽章として演奏されるようで、このLPレコードでも、この慣習によっている。演奏内容は、軽快なテンポで、実にはつらつとしたもので小気味良い。同時にシュタッツカペレ・ドレスデンの深みの音色が、このセレナードに奥行きを持たせることに成功している。たまには、モーツァルトのあまり名の知られていないセレナードを聴くのも、新鮮味があってなかなかいいものだ。心から癒された。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇クレンペラーのモーツァルト:交響曲第38番「プラハ」/歌劇「フィガロの結婚」序曲/交響曲第39番

2020-08-06 09:42:12 | 交響曲(モーツァルト)

モーツァルト:交響曲第38番「プラハ」
       歌劇「フィガロの結婚」序曲
       交響曲第39番

指揮:オットー・クレンペラー

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団
    ニュー・フィルハーモニア管弦楽団(歌劇「フィガロの結婚」序曲)

録音:1962年3月6日~8日、26~28日、キングスウエイ・ホール
                 (交響曲第38番「プラハ」/交響曲第39番)
   1964年10月29日~28日、11月9日、14日、アビー・ロード・スタジオ
                 (歌劇「フィガロの結婚」序曲)

LP:東芝EMI EAC‐40048

 このLPレコードは、20世紀を代表する指揮者の一人である巨匠オットー・クレンペラー(1885年―1973年)が、フィルハーモニア管弦楽団を指揮して、モーツァルトの交響曲を演奏したものだ。ドイツ出身の指揮者らしく、クレンペラーが得意としていたのは、ドイツ古典派・ロマン派の作品である。クレンペラーは、フランクフルトのホッホ音楽院で学び、22歳でマーラーの推挙を受け、プラハのドイツ歌劇場の指揮者に就任。さらにクロル歌劇場の音楽監督に就任するが、その後、ナチス政権を嫌い、アメリカへ亡命することとなる。アメリカでは、ロサンジェルス・フィルやピッツバーグ交響楽団を指揮し、両楽団の再建に大いに貢献する。しかし、1939年に脳腫瘍を患い、これによりアメリカにおける活動の場は絶たれてしまう。第二次世界大戦後になると、クレンペラーは、ドイツの市民権を回復。そして、1959年このLPレコードで指揮しているフィルハーモニア管弦楽団の常任指揮者に就任し、以後、同楽団とのコンビで一連の録音を行い、戦前の知名度の復活にものの見事に成功するのである。しかしながら、英国EMIのレコード録音専門のオーケストラであったフィルハーモニア管弦楽団は、その後、フィルハーモニア管弦楽団の創立者であるウォルター・レッグが同楽団を売却したことで、存続できなくなり、楽団員が自主経営し、ニュー・フィルハーモニア管弦楽団と名称が変わる。その後、またもとの名称に戻るのであるが、この時、クレンペラーは会長に就任して、両者の関係はそのまま継続されることとなった。クレンペラーの指揮ぶりは、一般的に「表面的な美しさよりも、遅く、厳格なテンポにより楽曲の形式感・構築性を強調するスタイル」とよく言われるが、このLPレコードのクレンペラーの指揮は、正にこの言葉どおり、ゆっくりとしたテンポで、武骨なほど力強く、曲の全体の構成をことさら強調するような演奏内容である。現在では、このような演奏をする指揮者は少なくなってしまった。つまり、クレンペラーの指揮は、ある意味では大時代がかった、現代感覚とは逆行するような演奏内容とも言える。しかし、そうであるからこそ、今、クレンペラーの指揮の独自性に耳を傾けることは重要なことではあるまいか。そこには、現代の指揮者が見落としている、音楽の本質が隠されているように思われてならない。このLPレコードに収められたクレンペラーのモーツァルトの演奏を聴きながら、ふと、そんなことが頭をよぎった。(LPC) 

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◇クラシック音楽LP◇ボロディン四重奏団のボロディン:弦楽四重奏曲第2番/ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第8番

2020-08-03 09:36:03 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

ボロディン:弦楽四重奏曲第2番
ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第8番

弦楽四重奏:ボロディン四重奏団

        ロスティスラフ・ドゥビンスキー(第1ヴァイオリン)
        ヤロスラフ・アレキサンドロフ(第2ヴァイオリン)
        ドミトリ・シェバリン(ビオラ)
        ヴァレンティンベルリンスキー(チェロ)

 ボロディンは、ロシアのぺテレブルグの生まれだが、このぺテレブルグという土地柄は、民族的音楽運動の盛んなところで、ボロディンは、バラキレフ、キュイ、ムソルグスキー、リムスキー=コルサコフらとともに「五人組」という名のグループを結成し、ロシア国民音楽の発展に寄与した。同時に、ボロディンは、ペテルブルク外科医学アカデミーの化学教授という役割を持っていたため、作品の数は多くはなかった。しかし、現在では、このLPレコードに収録されている弦楽四重奏曲第2番をはじめとして、交響詩「中央アジアの草原にて」、歌劇「イーゴリ公」、交響曲第2番などで親しまれている。これらの曲は、伝統的な音楽に根差すと同時に、ロシア的な民族的な哀愁を強く感じさせるのが特徴だ。ボロディンは、弦楽四重奏曲を2曲書いたが、第1番は、現在ではほとんど演奏されることはない。それに対し、第2番は、特に第3楽章の「夜想曲」と題されたアンダンテの楽章の哀愁を帯びたメロディーが何とも言えず甘美でであり、古今の弦楽四重奏曲の中でも人気のある曲となっている。この弦楽四重奏曲は、全部で4つの楽章からなるが、第3楽章以外もなかなか魅力的だ。この曲が、今でも人気があるのは、ドイツ音楽の上に、スラブの民族的衣装を身に着けているようだからかもしれない。一方、このLPレコードのB面にはショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第8番が収録されている。ショスタコーヴィチは、全部で15曲の弦楽四重奏曲を書いているが、一般にはこの第8番が最高傑作とされている。それは、「ファシズムと戦争の犠牲者の想い出に捧げる」と書かれていることも大いに影響していると思われる。つまり“戦いの弦楽四重奏”だということだ。実際聴いてみると全楽章にわたり異様なほどの緊張感が漂い、ただ事ではない雰囲気が忍び寄る。これはショスタコーヴィチ自身の心の葛藤を描き出したのではないかという説が有力だ。ショスタコーヴィチは、外面はともかく、旧ソ連政府へ対する反発を最後まで持ち続けていたからだ。このLPレコードには、A面とB面とでは、まったく相反するような内容を持った曲が収録されている。普通のカルテットなら、お手上げのようなこの組み合わせでも、ボロディン四重奏団は、冷静に弾き分け、実に見事な演奏を披露する。ボロディン四重奏団は、ボロディンの曲では、明るい爽快感を前面に押し出す一方、ショスタコーヴィチの曲においては、内向的で暗く陰鬱な表情を巧みに表現する。このLPレコードは、ボロディン四重奏団の演奏の幅広さを見せつけた録音である。(LPC)

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