★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇巨匠カール・ズスケ率いるベルリン弦楽四重奏団のモーツァルト:弦楽四重奏曲第16番/第17番「狩」

2020-10-12 09:33:08 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

モーツァルト:弦楽四重奏曲第16番/第17番「狩」

弦楽四重奏:ベルリン弦楽四重奏団

           カール・ズスケ(第一ヴァイオリン)
           クラウス・ペータース(第二ヴァイオリン)
           カール=ハインツ・ドムス(ヴィオラ)
           マティアス・プフェンダー(チェロ)

発売:1980年4月

LP:日本コロムビア OC‐7292‐K

 モーツァルトは、生涯でで23曲の弦楽四重奏曲を作曲している。14歳の誕生日を迎えて直ぐの1770年1月末に、ザルツブルクを立ちイタリアのミラノに到着した。そして同年3月末にミラノからローマに向かう途中のローディという町で第1番の弦楽四重奏曲が書かれている。1772年10月、16歳となったモーツァルトは、第3回目のイタリア旅行へと旅立つ。この直前書き上げられたのが第2番の弦楽四重奏曲である。続く、第3番から第7番まではミラノ到着後に書かれたため、”ミラノ四重奏曲”と呼ばれている。6曲とも3楽章形式で、ディヴェルティメント風な作品となっている。1773年7月、17歳となったモーツァルトは、ウィーンに職を求める旅に出て、そのウィーンで一気に書き上げられたのが”ウィーン四重奏曲”と呼ばれる第8番から第13番の弦楽四重奏曲である。これら6曲はハイドンの弦楽四重奏曲に倣い、すべて4つの楽章からなっており、ここにモーツァルト独自の世界を持つ弦楽四重奏曲が完成することになる。その後、10年余りの歳月が経ち、モーツァルトはザルツブルグを引き払い、ウィーンに居を構えることになるが、そんな中、1782年に第14番の「春」と呼ばれる弦楽四重奏曲を完成させる。そして、その後書かれた5曲とともにハイドンに献呈された。”ハイドン・セット”の完成である。今回のLPレコードは、モーツァルトが作曲した”ハイドン・セット”の中から、第16番と第17番「狩」を収録したもの。演奏するのは、ベルリン弦楽四重奏団。このカルテットは、旧東ドイツの団体で、第一ヴァイオリンのカール・ズスケを中心に結成され、全員がベルリンのシュターツ・カペレで重要なメンバーであった奏者たちだ。1966年「ジュネーヴ国際音楽コンクール」で受賞するなど、当時国際的に活躍したカルテットであった。1973年に初来日を果たしている。カール・ズスケはヴァイオリンの独奏者としても有名で、日本でも多くのファンを有していた。このLPレコードでのベルリン弦楽四重奏団の演奏は、2曲とも正統的な演奏と言えるもので、何より格調が高いのが特徴。澄んだ弦楽器の音色が、何とも言えない微妙なニュアンスを醸し出し、その優雅さにおいてこれを上回るカルテットを、私は今日に至るまであまり聴いた記憶がない。4人の奏者の息がぴたりと合い、一部の隙がないのだが、リスナーに少しの緊張感も与えず弾き進む。普通、弦楽四重奏曲というと内向的な雰囲気が漂いがちだが、このベルリン弦楽四重奏団の演奏は、そんなことは微塵も感じさせず、清々しい印象をリスナーに与え続ける。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ミラン・トゥルコヴィッチのモーツァルト:ファゴット協奏曲/コゼルー:ファゴット協奏曲/ウェーバー:ファゴット協奏曲

2020-10-08 09:41:01 | 協奏曲

モーツァルト:ファゴット協奏曲K.191
コゼルー:ファゴット協奏曲
ウェーバー:ファゴット協奏曲Op.75

ファゴット:ミラン・トゥルコヴィッチ

指揮:ハンス=マルティン・シュナイト

管弦楽:バンベルク交響楽団

録音:1972年1月8日~9日、29日、バンベルク、クルトゥーアラウム

LP:ポリドール(ドイツグラモフォン) SE 8010

 これは、ファゴット協奏曲を3曲収めた珍しいLPレコードだ。ファゴットは、低音部を受け持つ木管楽器。似た木管楽器としてはオーボエがある。オーボエは、オーケストラの音合わせに使われるなど、人間に声に近く、それだけに馴染み深い感がする。一方、ファゴットは、低音部を受け持つだけに、その存在は比較的地味である。一種近寄りがたい雰囲気も漂わせる一方、時々おどけるような表現にも使われる場合もあり、さらには歌わせるような場面ではその実力を如何なく発揮し、オーケストラには欠かせない楽器となっている。モーツァルト:ファゴット協奏曲K.191は、1774年頃に作曲された、モーツァルト唯一のファゴット協奏曲。全部で3つの楽章からなり、ファゴット演奏の優れた技巧を要すると同時に、フランス趣味のギャラントな作品に仕上がっている。次の曲は、コゼルー:ファゴット協奏曲。コルゼーという人はハイドンとほぼ同世代のハンガリーの作曲家である。生涯の大半をプラハの教会で過ごし、52曲のミサ、それに400曲近い宗教曲を残している。ファゴット協奏曲は、マンハイム楽派から影響を受けた作品。3曲目は、ウェーバー:ファゴット協奏曲。ウェーバーは、ドイツオペラの伝統を継承しつつ、有名な「魔弾の射手」によってドイツ・ロマン派のオペラ様式を完成させた作曲家として知られ、「舞踏への勧誘」などの器楽曲も遺している。モーツァルトの妻コンスタンツェは、父方の従姉にあたる。ウェーバーのファゴット協奏曲は、ファゴットの音域や表情の多様な変化が巧みに捉えられた作品に仕上がっている。このLPレコードでファゴットを演奏しているミラン・トゥルコヴィッチについて、このLPレコードのライナーノートで石井 宏氏が次のように紹介している。「エールベルガーなきあと現在のウィーンのファゴットのナンバー・ワンに数えられているのがミラン・トゥルコヴィッチ(1939年生まれ)である。このLPレコードに最初に針を落とした時、私は、思わず、エールベルガーの再来かと、一瞬耳を疑ったものだった。彼は、1967年(28歳)以来、名門ウィーン・フィルハーモニーのソロ・ファゴットとして活躍しており、その名は世界各国の土の上に印されている」。このLPレコードでのミラン・トゥルコヴィッチの演奏は、如何にも軽々とファゴットを吹いていることに驚かされる。品格があり、しかもその奥行きの深い表現力は、ミラン・トゥルコヴィッチがファゴットの第一人者であることを強く印象付けられる録音だ。20年ほど前よりは指揮者としての活動を展開。(LPC) 

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◇クラシック音楽LP◇オーレル・ニコレ&小林道夫の初期モーツァルト:フルートソナタ集

2020-10-05 10:02:40 | 室内楽曲

モーツァルト:フルートソナタ 変ロ長調 K.10
               ト長調 K.11
                                     イ長調 K.12
               ヘ長調 K.13
               ハ長調 K.14
               変ロ長調 K.15

                   アンダンテとアレグレット K.404

フルート:オーレル・ニコレ

ピアノ:小林道夫

録音:1974年3月29日、ポリドール、スタジオNo.1

LP:ポリドール(グラモフォンレコード) MGW 5217

 これは、モーツアルトがまだ8歳の時の作品(K.10~15)6曲および26歳頃の作品(K.404)1曲を、フルートの名手のオーレル・ニコレとピアノの名手の小林道夫による演奏を収めたLPレコードである。これらの作品は、現在では通常、ヴァイオリンソナタとして知られているが、もともと楽譜には「チェンバロソナタ、ヴァイオリンまたはフルート(チェロ)伴奏付き」と表記された作品である。つまり、現在モーツァルトのヴァイオリンソナタで知られている作品は、作曲当時はヴァイオリン伴奏付きのチェンバロソナタであったのだ。それも場合によっては、ヴァイオリンの代わりにフルートでも代替可能であったのである。その結果、この2人のコンビにより録音がなされたというわけである。モーツァルトは、1963年6月9日に父レオポルドに連れられて、母と4歳年上の姉ナンネルとともに、故郷のザルツブルクを出発し、パリ、ロンドンに向かった。一行は、同年11月18日にパリに入り、5か月間の滞在の後、1764年4月23日にロンドンに到着する。結局、ロンドンには15か月滞在することになるが、当時8歳モーツァルトは交響曲などのほかに、このLPレコードに収められているフルートソナタ6曲も作曲している。一方、アンダンテとアレグレットK.404は、1782年(26歳)頃、ウィーンで妻コンスタンツェのために書かれた作品。もともと別々の2曲であったが、1804年になって一つに組み合わされて「ピアノとヴァイオリンのためのソナチネ」として出版された。フルートのオーレル・ニコレ(1926年―2016年)は、スイス出身。1948年にはジュネーブ国際コンクールで第1位、1950年から1959年までベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席フルート奏者を務めた。一方、ピアノの小林道夫(1933年生まれ)は、1955年東京藝術大学を卒業後、伴奏者として幅広い活動を開始。ピアノ奏者、チェンバロ奏者、フォルテピアノ奏者、指揮者として幅広い活動を展開。特にバッハのスペシャリストとして名高い。このLPレコードでの2人は、モーツァルトの天衣無縫さを存分に表現した演奏内容を披瀝している。K.10~15の6曲のフルートソナタは、8歳の子供が作曲した作品だけに、内容についてどうのこうの言うことはないが、天賦の才が見え隠れし、後年のモーツァルトを予言するかのようでもある。このようなモーツァルトの子供時代の作品の録音は、“レコードの時代”であったからこそ実現したのだと思う。その意味では貴重な録音だ。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽LP◇ジャン・マルティノン指揮フランス国立放送局管弦楽団 の フローラン・シュミット:「詩篇47」/「サロメの悲劇」

2020-10-01 09:46:51 | 管弦楽曲

フローラン・シュミット:「詩篇47」
              「サロメの悲劇」

指揮:ジャン・マルティノン

管弦楽:フランス国立放送局管弦楽団

<詩篇47>

ソプラノ:アンドレア・ギオー
オルガン:ガストン・リテーズ
合唱指揮:マルセル・クーロー
合唱:フランス国立放送曲合唱団

<サロメの悲劇>

合唱指揮:ジャック・ジュイノー
合唱:フランス国立放送局女声合唱団

LP:東芝EMI EAC‐40126

 フローラン・シュミット(1870年―1958年)は、フランス作曲界の大御所であった人であるが、日本ではあまり知られてはいない。ただ、このLPレコードの「詩篇」と「サロメの悲劇」だけは、代表作として現在でもCDの新譜がリリースされている。この2曲を聴くと、我々が抱く優雅で繊細なフランス音楽とは異なり、どちらかというとベルリオーズの「幻想交響曲」やオルフの「カルミナ・ブラーナ」のような劇的な力強い感じの曲に近い。それもそのはずで、名前から想像できる通りに、シュミットにはドイツ人の血が流れており、生まれたのもドイツに近いブラモンという所。シュミットは、1889年にパリ音楽院に入学し、デュポア、ジュダルジュ、マスネ、フォーレらに師事。世代的には、シェーベルクに近いが、作風は保守的であり、当時フランスでは“アンデパンダン(独立独歩の人)”と呼ばれていたという。このLPレコードに収録された2曲は、そうしたシュミットの作風を代表する曲で、古典的な手法に加え、壮大なオーケストラ作品となっている。「詩篇47」のテキストは、旧約聖書47番で、管弦楽、オルガン、合唱と独唱のために書かれた。一方、「サロメの悲劇」は、「詩篇47」が作曲された後の1907年に書かれた。「サロメの悲劇」とは、新訳聖書のマルコ伝に出てくる話で、ワイルドなどの戯曲で知られる。ヘロディアスは、夫を捨て、娘のサロメを連れてユダヤ王のヘロデと一緒になるが、予言者ヨハネはヘロデの行為を激しく非難する。ヘロデの誕生日に舞を舞ったサロメは、ヘロデから褒美は何なんなりとの申し出に、ヨハネの首と答え、その結果、盆の上にヨハネの首が乗せられ運ばれてくるという話。このLPレコードで、これら2曲を指揮しているのが、フランスの名指揮者ジャン・マルティノン(1910年―1976年)で、イスラエル・フィルハ音楽監督、シカゴ交響楽団音楽監督、フランス国立管弦楽団首席指揮者・音楽監督などを務めた。 ジャン・マルティノンもドイツ系の血が流れていたとのことで、シュミットの作品との相性がいいことが、このLPレコードの演奏から聴き取れる。2曲の演奏とも、透明感ある指揮ぶりで、全体がすっきりとした印象を受け、分かりやすい表現に大いに納得がいく。しかも、オーケストラから発散される力強いエネルギーは、ドイツ系オーケストラに少しも引けを取らないどころか、ドイツ系オーケストラでは表現が難しい、妖艶で不気味な「サロメの悲劇」の雰囲気が、じわじわと伝わってくる。これはもう、この曲の決定盤と言ってもいいのかもしれない。(LPC)

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