★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇バルトーク夫妻のピアノ演奏によるバルトーク:2台のピアノと打楽器のためのソナタ他

2020-10-26 09:41:54 | 室内楽曲

バルトーク:2台のピアノと打楽器のためのソナタ
      10の小曲(ピアノ曲集「子供のために」より)
      トランシルヴァニアの夕べ(「10のやさしい小曲」より)
      熊踊り(「10のやさしい小曲」より)

ピアノ:ベラ・バルトーク
    ディッタ・パーストーリー・バルトーク

打楽器:ハリー・ベイカー
    エドワード・J・ラブサン

録音:ピーター・バルトーク

発売:1977年7月

LP:日本コロムビア OW‐7711‐VX

 これは、バルトーク夫妻がピアニストとして、バルトークの作品を録音した貴重なLPレコードである。バルトーク自身優れたピアニストであった。1940年4月13日に、ワシントンの国会図書館ホールで行われた、バルトークのピアノ伴奏によるシゲティとのヴァイオリンリサイタルの模様は、今日録音が残っている。この時の録音を聴くと、バルトークは、ピアニストとして活動しても一流のピアニストとして後世に名を残したのではなかろうかとさえ思われるほどの腕前だ。このLPレコードでは、妻のディッタ・パーストーリーのとの共演であるので、息もピタリと合い、申し分のない演奏内容だ。当時の実際の演奏会においても、この曲は、この二人のピアノで演奏されたという。さらに、この録音が夫妻の次男ですぐれた音響技師であったピーター・バルトークによってなされており、このLPレコードは、正にバルトーク一家総出演で実現した記念碑的録音だ。バルトークのアメリカでの音楽生活は、恵まれていたように思われるかもしれないが、実際はその逆で、無視されることも少なくなかったようである。このLPレコードのA面およびB面の最初のトラックに収められている「2台のピアノと打楽器のためのソナタ」は、1937年8月に完成した作品で、1940年には「2台のピアノのための協奏曲」に編曲されている。全体は、緊張感漂う曲で、あたかも抽象絵画を見ているようにも感じられる。バルトークは民俗音楽の取集に全力で取り組んだことは知られているが、この曲には民俗音楽的な要素は感じられない。バルトークは、民俗音楽から吸収した音自体のエキスを一つの作品に昇華させたかのような曲だ。この作品によってバルトークが如何に音自体をを厳しく見つめていた作曲家であったかが分かる曲となっている。次の「10の小曲」は、ピアノ曲集「子供のために」から、ハンガリー民俗音楽を集めた第1巻から10曲を選んだもので、聴いていて自然に楽しくなる作品。「トランシルヴァニアの夕べ」と「熊踊り」は、「10のやさしい小曲」の第5番と第10番からの曲で、2曲ともとても親しみのもてる作品。このLPレコードの「2台のピアノと打楽器のためのソナタ」の演奏は、極限の緊張感が漂う演奏で、聴いていて自然に手に汗握るほど。この曲が今から67年前に書かれた作品とは思えないほど、現代的な感覚に満ちている。そしてここでの演奏内容は、一層現代的感覚を研ぎ澄ましたようなものに進化させている。この作品およびこの演奏は、今でこそ、その真の評価ができるのではないかと感じた。(LPC)

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