モーツァルト:フルートソナタ 変ロ長調 K.10
ト長調 K.11
イ長調 K.12
ヘ長調 K.13
ハ長調 K.14
変ロ長調 K.15
アンダンテとアレグレット K.404
フルート:オーレル・ニコレ
ピアノ:小林道夫
録音:1974年3月29日、ポリドール、スタジオNo.1
LP:ポリドール(グラモフォンレコード) MGW 5217
これは、モーツアルトがまだ8歳の時の作品(K.10~15)6曲および26歳頃の作品(K.404)1曲を、フルートの名手のオーレル・ニコレとピアノの名手の小林道夫による演奏を収めたLPレコードである。これらの作品は、現在では通常、ヴァイオリンソナタとして知られているが、もともと楽譜には「チェンバロソナタ、ヴァイオリンまたはフルート(チェロ)伴奏付き」と表記された作品である。つまり、現在モーツァルトのヴァイオリンソナタで知られている作品は、作曲当時はヴァイオリン伴奏付きのチェンバロソナタであったのだ。それも場合によっては、ヴァイオリンの代わりにフルートでも代替可能であったのである。その結果、この2人のコンビにより録音がなされたというわけである。モーツァルトは、1963年6月9日に父レオポルドに連れられて、母と4歳年上の姉ナンネルとともに、故郷のザルツブルクを出発し、パリ、ロンドンに向かった。一行は、同年11月18日にパリに入り、5か月間の滞在の後、1764年4月23日にロンドンに到着する。結局、ロンドンには15か月滞在することになるが、当時8歳モーツァルトは交響曲などのほかに、このLPレコードに収められているフルートソナタ6曲も作曲している。一方、アンダンテとアレグレットK.404は、1782年(26歳)頃、ウィーンで妻コンスタンツェのために書かれた作品。もともと別々の2曲であったが、1804年になって一つに組み合わされて「ピアノとヴァイオリンのためのソナチネ」として出版された。フルートのオーレル・ニコレ(1926年―2016年)は、スイス出身。1948年にはジュネーブ国際コンクールで第1位、1950年から1959年までベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席フルート奏者を務めた。一方、ピアノの小林道夫(1933年生まれ)は、1955年東京藝術大学を卒業後、伴奏者として幅広い活動を開始。ピアノ奏者、チェンバロ奏者、フォルテピアノ奏者、指揮者として幅広い活動を展開。特にバッハのスペシャリストとして名高い。このLPレコードでの2人は、モーツァルトの天衣無縫さを存分に表現した演奏内容を披瀝している。K.10~15の6曲のフルートソナタは、8歳の子供が作曲した作品だけに、内容についてどうのこうの言うことはないが、天賦の才が見え隠れし、後年のモーツァルトを予言するかのようでもある。このようなモーツァルトの子供時代の作品の録音は、“レコードの時代”であったからこそ実現したのだと思う。その意味では貴重な録音だ。(蔵 志津久)