善き人のためのソナタ
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原題:Das Leben der Anderen
英題:The Lives of Others
製作:2006年 ドイツ
製作:クイリン・ベルク マックス・ヴィーデマン
監督・脚本:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
出演:ウルリッヒ・ミューエ マルティナ・ゲデック セバスチャン・コッホ
東ドイツのシュタージをテーマに製作された初の作品「善き人のためのソナタ」です。これは数年に一度出会えるかどうかの私にとって、大変心に残る作品のひとつとなりました。
1984年の東ベルリン。国家保安省(シュタージ)の局員ヴィースラー大尉(ウルリッヒ・ミューエ)は国家に忠誠を誓う勤勉で真面目な男です。ある日彼は、反体制の疑いのある劇作家ドライマン(セバスチャン・コッホ)とその同棲相手の舞台女優クリスタ(マルティナ・ゲデック )を監視するよう命じられます。早速ドライマンのアパートには盗聴器が仕掛けられ、ヴィースラーはいつものように徹底した監視を開始するのです。しかし、音楽や文学を語り合い、深く愛し合う彼らの世界にヴィースラーは次第に共鳴していくのです。
深く、深く心に染み入る作品でした。
統一直前の東ドイツを描いた作品といえば、ちょっぴりコミカルで風刺の効いた「グッバイ、レーニン!」が記憶に新しいですが、本作では全く違う切り口で東ドイツを描いています。
1989年に崩壊したベルリンの壁。あれから約20年。これまで国内でタブー視されてきた「シュタージュ」を描いた初の作品です。製作スタッフの中には、シュタージュと接触した人も居たそうです。驚くことに、その体験はこの作品を制作するにあたるまでの17年間一度も口にしたことがなかったそうです。あるいは彼らの中では「過去」ではないのかもしれません。
ヴィースラーはドイツ人の典型のような几帳面で生真面目な男です。
ある日ドライマンの部屋から流れてきた「善き人のためのソナタ」。
それを聴いた時から彼の人生は大きく変わり始めます。
「これを本気で聴いた人は悪人になれない」
その曲には自殺した演出家イェルスカからのメッセージが添えられています。愛と自由を求める芸術家たちにヴィースラーは感情移入しちゃうんですね。
言葉少ない主人公を演じたウルリッヒ・ミューエの繊細な演技は秀逸で、その微妙な表情から彼の孤独が切ないほど伝わってきます。
それだけに、ラストの「私のための本だ」という言葉と彼の誇らしげな表情は言葉にできない感動を生みます。
・善き人のためのソナタ@映画生活
・前田有一の超映画批評