『小田原フラワーセンター』
髙橋 嘉子さん 撮影
こうも寒くなると、新聞の訃報欄が急に賑やかになる。知らぬ人ばかりだけど、
その人の人生に思いを馳せたり、自分の年齢と比較をしたりで何やら落ち着かない。
今年も年賀状の欠礼挨拶が届き始めた。今日現在で9通にもなっている。
なかには私より一回り近くも若い会社の後輩があったり、殺しても死なないような
心身共にタフだった人があったりと様々である。
特に、若かった会社の後輩からの通知には驚いた。
彼は私が丁度課長になったばかりで柄にもなく、やる気十分で張り切っている時に
私の所に入って来た新入社員だった。
しかも偶然、目黒8中と言う同じ中学校で大学は違ったけれども、聞けば家も案外
近かったようだ。その上、彼が東横線の都立大駅へ出る道の途中に我が家があった
ようだ。我が家は道路に面した北側がアトリエで大きなガラス窓だった。
その窓が開いているとヌードの絵などが沢山見えたそうだ。親父が絵描きだったから
壁一面には様々な絵がかかっていた。
彼は駅に行く時はちょっと遠回りになるのだが、学生時代から彼はそのヌードを見る
為に必ずその前を通っていたという。
「え~、あの絵描きさんの家が高橋さんの家だったのですか!」と驚いた時の
彼の顔が目に浮かぶ。それだけに特に印象に残る人だった。
しばし瞑目して彼を偲んだ。「あいつがなぁ!」という感慨にひたった。
時間と言うやつは私の所だけではなく誰の所にも容赦なく、やって来て人々から若さと
そしてその人の運命通りに命とを奪っていくのだと,いまさらながら時の経過の無情さを思った。