『 庭の小さな花シリーズ―(9/10)』
吾れ誕生す。地球は曙を迎えた。彼は人々を照らし、周りの人々に喜びと幸せを
与えるだろう。これではまるでキリストかお釈迦様の誕生のようだ。
本来ならこれに近い誕生の筈が、現実の私は貧乏絵描きの父とやさしい母との間に、
兄と姉そして私と三年続けての年子の末っ子として東京で生まれた。
体が弱かったらしい。自由人の父親とやさしいがちょっと心配症の母とのどちらの
遺伝子をより多く受け継いだのだろうか。
体形は父親、顔立ちは母親似とよく言われてきた。絵の素質は遺伝しなかったが,
酒好きだけは間違いなく遺伝した。心配症は母親譲りだろうか。
金持ちにも偉い人にもなれなかったが、それでも「仏のターさん」とずうっと言われ
自分でもそれを自負していた。
今まで些細なことは(例えばスピード違反や未成年飲酒や喫煙など)別にして、大きな
悪いこと、反道徳的なことなど(想像の世界では別だが)や刑事も民事事件も起こさず、
人に恨まれることもなく、過ごしてくることが出来た。
あまり褒められることもなかったが、怒ることも怒りの対象になることも少なかったと思う。
きっと両親も体の弱かったあの子が85歳にもなってと、驚きながら良かった良かったと
笑っていることだろう。
自分でもまさかと思っているのだが、これからの85才以降の未知の世界を、誇り高き後々期
高齢者として、より自分を律しながら、それでも自然体で楽しく過ごしたいと思っている。
さて今夜はテーブルには、ごちそうと特上のお酒が並び、やがてケーキとワインが出て皆が
集まって賑やかな筈なのだが……。