- 松永史談会 -

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横井時敬校閲・高島平三郎編『国語漢文・農業読本3訂第一版』、明治44年

2015年04月06日 | 教養(Culture)
高島平三郎編纂、横井時敬(東京帝大・農科大学教授)校閲。東京春秋堂書店刊 3巻本、初版は高島平三郎、井上正賀共編、普及舎刊(明治35)、4巻本。


巻の1は146頁、巻の2は150頁、巻の3は172頁・・・・非常に状態の良いものが入手できた。


向かって右が明治35年普及舎版(全190頁。以下旧版と略称)、左は今回入手した明治44年東京春秋堂書店版(以下新版と略称)


旧版巻一の目次。1873年(明治6年)に、福澤諭吉、森有礼、西周、中村正直、加藤弘之らと明六社を結成した西村茂樹「国民第一の心得」で始まった。


新版巻一の目次。新訂中等国語読本から引用された「富士山」で始まった。


農学校、国語漢文用教科書として編纂されたようだ。毎年一巻づつ学習した。全1-3巻でも全1-4巻でも内容的には共に完結性があるようだ。肩に所蔵印が押されているが、所有者(@東津軽郡)が2人。second hand状態で後輩に譲られたのだろか。


旧版には単元の終わりに練習問題が付されている。新版ではこのエクササイズ部分は削除されている。

農業学校用の国語漢文教科書だが、中身は引用文集で、農業に関する話題に引き付ける形で、生徒の興味を引きそうな歴史・文学から外国のことなどバラエティーに富む。


新版は献本されたもので「藤原蔵書」印、目次をみても文字通りの「読本」の体裁。系統だった知識を伝授しようとするものではない。


新版の冒頭は「富士山」


旧版と違い新版では写真入り。美しく雄大な富士山の姿に神国の日本の姿を重ね合わせるという思考様式が登場。旧版→新版とで教科書の編集方針が大きく変化する。


以下の画像はすべて新版での話だが、教育勅語の次は岩倉具視の猪苗代湖通水式祝辞


そして最新の話題としての飛行機の話


おっと、「軍神」として神格化された広瀬中佐銅像

広瀬は本庄重政同様に神社の祭神として祀られる。神社に祭られることは日本人の感情と思考の中では最上級の顕彰方法であったわけだ。しかし、こうした日本人の心性は一歩間違えるとあやまった個人崇拝に堕す危険性をもはらんでいることでもある


皇居外苑の楠公像+元禄5年(1692年)水戸光圀公(みとみつくにこう)(義公)が建てた「嗚呼忠臣楠子之墓」の碑(明治天皇が再興した神戸・湊川神社)の写真も掲載。

日清・日露の2つの戦争後の世相を反映するかのように国家に求心力を与えるために横井時敬の農業と皇室との関係を論じた一文を紹介して巻の3は終わる。当時の時代精神を教科書面で作り出していった書籍群の中の一冊だ。


それに対して旧版の最後を飾る教材は井上円了の随筆中の文章。主旨は日本人の気質に関して性急で一時を争う気質を櫻花にたとえ、こうしたあり方に対してパッと咲いてさっと散る桜より、忍耐辛抱のできる日本人を育てていくには花期がながく、寒い雪の季節に百花に先駆けて咲く梅の花の在り方に感化を受ける方がよいかも、というもの。
新版は富士山に神国日本のイメージをダブらせ、軍神広瀬中佐万歳、つまり桜花をよしとする雰囲気が横溢していたが、旧版の方はそういう面での国家主義的硬直性はまだ控えめだった。

これは当時の文教政策や編纂者高島平三郎自身の思想的立ち位置の変化(右旋回)をある程度反映したものだっただろ。


これまでに集めた高島平三郎の著書(単著・共著を含む)
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