朝鮮新報というメディアは総連傘下のメディアだけあって、
日本のメディアが天皇のフィリピン訪問を敬語で報道するように、
金正恩に対しては敬語を使い、やたらと北朝鮮を称えるわけではあるが、
それゆえに日本のメディアとは違った視点で国際ニュースが分析されている。
「天皇皇后両陛下は、26日午後、フィリピンの首都マニラの国際空港に到着し、
親善訪問のスタートを切られました。
両陛下は、現地時間の午後2時45分、マニラの国際空港に到着されました。
両陛下のフィリピン訪問は昭和37年以来54年ぶりで、
両陛下は、タラップを降りると、出迎えたアキノ大統領や姉のアベリャダさんと、
にこやかに握手をしてことばを交わされました。
そして、天皇陛下の首に白いレイがかけられ、皇后さまには黄色の花束が贈られました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160126/k10010386411000.html」
上のような記事が堂々と書かれている現状、朝鮮新報が日本のメディアより異常だとは思わない。
(アメリカを主軸とした日本・フィリピン・アメリカ・韓国の軍事同盟の強化が展開される今、
このような訪問の裏にある政治的動機について一言ぐらいコメントしても良いはずでは?)
さて、元外務省の役人で、東大、日大、明治学院大等で教鞭をふるった浅井基文氏が
先の北朝鮮の水爆実験とそれに関連する米韓日の動きについて朝鮮新報に持論を寄稿した。
朝鮮新報はハッカー対策のために登録制となっており、無登録者には読むことが出来ない。
これは、少々残念なことなので、以下に同氏の論説を紹介したいと思う。
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朝鮮の水爆実験と半島情勢/浅井基文
米国の頑なな朝鮮政策に風穴を
○国際社会へのメッセージ
誰もが驚いた朝鮮の1月6日の水爆実験だったが、朝鮮が実験に踏み切ったのは、
米国が朝鮮の新提案を無視した結果というのが、「8月事態」後の経緯を追った私の結論だ。
8月事態とは、昨年8月4日に起こった地雷爆発による
韓国兵士の負傷事件をきっかけに一触即発の対決が起こり、
北南の最高位接触によって辛うじて危機を乗り越えた一連の事態に対する朝鮮の呼称だ。
朝鮮が8月事態の教訓を如何に重視しているかは、李洙墉外相の10月1日の国連総会演説に明らかだ。
同外相は、
「8月の事態は国連と非正常な関係にある朝鮮半島に現存する平和が
どれほど脆弱であるかを明らかにした」と指摘し、
「停戦協定を平和協定に替えることは、一刻の猶予も許さない切実な問題となった」として、
「米国が停戦協定を平和協定に替えることに同意するならば、
わが国政府は朝鮮半島で戦争と衝突を防止するための建設的な対話を行う用意ができている」
と提案した。その後朝鮮は、11月末まで米国に提案をくり返した。
しかし、米国は朝鮮の提案を完全に無視した(8月事態の教訓を得たはずの韓国は米国の意のままだ)。
これに対し、昨年12月24日付朝鮮中央通信は、2015年の朝鮮半島情勢詳報を発表し、
最後に「米国が対朝鮮敵視政策を撤回せず、あくまでも『北朝鮮崩壊』という妄想の道を選択するなら、
それに対するわれわれの応えは米国の想像を絶するものになる」と警告した。
その「応え」が1月6日の水爆実験だった。
米国が朝鮮の提案に応じていれば、朝鮮が実験を行うことはなかった。
これが、朝鮮の米国及び国際社会に対する最大のメッセージだ。
つまり、朝鮮の核開発にストップがかかるかどうかはひとえに米国の対朝鮮政策如何ということだ。
対米直接交渉に的を絞る朝鮮は、
「われわれは過去…6者会談で非核化の論議を先に行ってみた…が…失敗を免れなかった」
(昨年10月18日付朝鮮外務省声明)として、6者会談を見限る姿勢も示している。
○外交的解決求める
中露両国政府は、朝鮮の水爆実験を安保理決議違反と批判している。
しかし、強硬対応を主張する米韓日に対しては、
関係諸国の自制を強調し、6者会談による外交的解決を呼びかける共同歩調だ。
中露が慎重姿勢を堅持しているのは、8月事態の一触即発の危険性を深刻に認識したからと思われる。
朝鮮に対する先制攻撃を織り込んだ「米韓共同局地挑発作戦計画」の発表(13年)、
朝鮮半島有事に一つの照準を合わせた安倍政権による安保法制制定(15年)にも、
中露は警戒を強めているに違いない。
ただし、中国メディアで8月事態を正面から取り上げたものはなく、
また、中露両政府は6者協議再開を強く主張している。
○核問題解決に有害無益な日本
広島・長崎を体験した日本人の反核感情は根強い。
しかし、日米安保体制を肯定する多くの日本人は、
朝鮮の「核の脅威」に対して米国の「核の傘」を当然視もする。
その結果、朝鮮の核開発に対する拒否感は留まるところがない。
しかも日本人は安全保障問題については大勢迎合の傾向が強い。
したがって日本は、朝鮮の核問題に建設的役割を担う主体的能力はゼロだ。
米日韓は朝鮮の非核化だけを問題にする。しかし、6者協議の主題は朝鮮半島の非核化だ。
つまり、朝鮮の非核化と米国の韓国に対する「核の傘」提供の撤回がセットだ。
これを実現するためには、米日韓と朝鮮との間の相互不信除去が不可欠だ。
朝鮮の10月以来の対米提案は、「平和協定締結→相互信頼確立→半島非核化」を目指す。
これに対して6者協議は、「約束対約束、行動対行動」の原則に従い、
「非核化に向けた約束相互履行→相互信頼蓄積→朝鮮半島の平和と安定構築」を考える
(15年のイラン核問題に関する国際合意の事例)。
ただし、両者のアプローチが両立しないわけではない。
要は、頑なな米国の対朝鮮政策に風穴を開けることであり、
半島情勢打開のカギはここにある(16年は米大統領選挙なので、事態が動くのは17年以後だろう)。
http://chosonsinbo.com/jp/2016/01/20160128suk-2/
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北朝鮮を異常視し、右翼と大差ない反応を示す凡百の知識人のそれとはレベルそのものが違う評論。
浅井氏は多くの著作を書いており、どれも一読に値するが、誰でも読める&中身があるという点では、
2014年に大月書店から出版された『すっきりわかる!集団的自衛権Q&A』を推す。
集団的自衛権を国際政治に関連付けて語ろうとする本は多いようで少ない気がする。
私が再三主張している「中国・北朝鮮の脅威の不在」を主張している本は本書ぐらいである。
書名は軟派な響きを有しているが、中身はなかなか骨太で、加えて、
節ごとにポイントがまとめられているので、まとめ欄だけ読めば1~2日で読了が可能だ。
日本のメディアが天皇のフィリピン訪問を敬語で報道するように、
金正恩に対しては敬語を使い、やたらと北朝鮮を称えるわけではあるが、
それゆえに日本のメディアとは違った視点で国際ニュースが分析されている。
「天皇皇后両陛下は、26日午後、フィリピンの首都マニラの国際空港に到着し、
親善訪問のスタートを切られました。
両陛下は、現地時間の午後2時45分、マニラの国際空港に到着されました。
両陛下のフィリピン訪問は昭和37年以来54年ぶりで、
両陛下は、タラップを降りると、出迎えたアキノ大統領や姉のアベリャダさんと、
にこやかに握手をしてことばを交わされました。
そして、天皇陛下の首に白いレイがかけられ、皇后さまには黄色の花束が贈られました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160126/k10010386411000.html」
上のような記事が堂々と書かれている現状、朝鮮新報が日本のメディアより異常だとは思わない。
(アメリカを主軸とした日本・フィリピン・アメリカ・韓国の軍事同盟の強化が展開される今、
このような訪問の裏にある政治的動機について一言ぐらいコメントしても良いはずでは?)
さて、元外務省の役人で、東大、日大、明治学院大等で教鞭をふるった浅井基文氏が
先の北朝鮮の水爆実験とそれに関連する米韓日の動きについて朝鮮新報に持論を寄稿した。
朝鮮新報はハッカー対策のために登録制となっており、無登録者には読むことが出来ない。
これは、少々残念なことなので、以下に同氏の論説を紹介したいと思う。
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朝鮮の水爆実験と半島情勢/浅井基文
米国の頑なな朝鮮政策に風穴を
○国際社会へのメッセージ
誰もが驚いた朝鮮の1月6日の水爆実験だったが、朝鮮が実験に踏み切ったのは、
米国が朝鮮の新提案を無視した結果というのが、「8月事態」後の経緯を追った私の結論だ。
8月事態とは、昨年8月4日に起こった地雷爆発による
韓国兵士の負傷事件をきっかけに一触即発の対決が起こり、
北南の最高位接触によって辛うじて危機を乗り越えた一連の事態に対する朝鮮の呼称だ。
朝鮮が8月事態の教訓を如何に重視しているかは、李洙墉外相の10月1日の国連総会演説に明らかだ。
同外相は、
「8月の事態は国連と非正常な関係にある朝鮮半島に現存する平和が
どれほど脆弱であるかを明らかにした」と指摘し、
「停戦協定を平和協定に替えることは、一刻の猶予も許さない切実な問題となった」として、
「米国が停戦協定を平和協定に替えることに同意するならば、
わが国政府は朝鮮半島で戦争と衝突を防止するための建設的な対話を行う用意ができている」
と提案した。その後朝鮮は、11月末まで米国に提案をくり返した。
しかし、米国は朝鮮の提案を完全に無視した(8月事態の教訓を得たはずの韓国は米国の意のままだ)。
これに対し、昨年12月24日付朝鮮中央通信は、2015年の朝鮮半島情勢詳報を発表し、
最後に「米国が対朝鮮敵視政策を撤回せず、あくまでも『北朝鮮崩壊』という妄想の道を選択するなら、
それに対するわれわれの応えは米国の想像を絶するものになる」と警告した。
その「応え」が1月6日の水爆実験だった。
米国が朝鮮の提案に応じていれば、朝鮮が実験を行うことはなかった。
これが、朝鮮の米国及び国際社会に対する最大のメッセージだ。
つまり、朝鮮の核開発にストップがかかるかどうかはひとえに米国の対朝鮮政策如何ということだ。
対米直接交渉に的を絞る朝鮮は、
「われわれは過去…6者会談で非核化の論議を先に行ってみた…が…失敗を免れなかった」
(昨年10月18日付朝鮮外務省声明)として、6者会談を見限る姿勢も示している。
○外交的解決求める
中露両国政府は、朝鮮の水爆実験を安保理決議違反と批判している。
しかし、強硬対応を主張する米韓日に対しては、
関係諸国の自制を強調し、6者会談による外交的解決を呼びかける共同歩調だ。
中露が慎重姿勢を堅持しているのは、8月事態の一触即発の危険性を深刻に認識したからと思われる。
朝鮮に対する先制攻撃を織り込んだ「米韓共同局地挑発作戦計画」の発表(13年)、
朝鮮半島有事に一つの照準を合わせた安倍政権による安保法制制定(15年)にも、
中露は警戒を強めているに違いない。
ただし、中国メディアで8月事態を正面から取り上げたものはなく、
また、中露両政府は6者協議再開を強く主張している。
○核問題解決に有害無益な日本
広島・長崎を体験した日本人の反核感情は根強い。
しかし、日米安保体制を肯定する多くの日本人は、
朝鮮の「核の脅威」に対して米国の「核の傘」を当然視もする。
その結果、朝鮮の核開発に対する拒否感は留まるところがない。
しかも日本人は安全保障問題については大勢迎合の傾向が強い。
したがって日本は、朝鮮の核問題に建設的役割を担う主体的能力はゼロだ。
米日韓は朝鮮の非核化だけを問題にする。しかし、6者協議の主題は朝鮮半島の非核化だ。
つまり、朝鮮の非核化と米国の韓国に対する「核の傘」提供の撤回がセットだ。
これを実現するためには、米日韓と朝鮮との間の相互不信除去が不可欠だ。
朝鮮の10月以来の対米提案は、「平和協定締結→相互信頼確立→半島非核化」を目指す。
これに対して6者協議は、「約束対約束、行動対行動」の原則に従い、
「非核化に向けた約束相互履行→相互信頼蓄積→朝鮮半島の平和と安定構築」を考える
(15年のイラン核問題に関する国際合意の事例)。
ただし、両者のアプローチが両立しないわけではない。
要は、頑なな米国の対朝鮮政策に風穴を開けることであり、
半島情勢打開のカギはここにある(16年は米大統領選挙なので、事態が動くのは17年以後だろう)。
http://chosonsinbo.com/jp/2016/01/20160128suk-2/
---------------------------------------------------------
北朝鮮を異常視し、右翼と大差ない反応を示す凡百の知識人のそれとはレベルそのものが違う評論。
浅井氏は多くの著作を書いており、どれも一読に値するが、誰でも読める&中身があるという点では、
2014年に大月書店から出版された『すっきりわかる!集団的自衛権Q&A』を推す。
集団的自衛権を国際政治に関連付けて語ろうとする本は多いようで少ない気がする。
私が再三主張している「中国・北朝鮮の脅威の不在」を主張している本は本書ぐらいである。
書名は軟派な響きを有しているが、中身はなかなか骨太で、加えて、
節ごとにポイントがまとめられているので、まとめ欄だけ読めば1~2日で読了が可能だ。