時事解説「ディストピア」

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書評・近藤大介『金正恩の正体』(平凡社新書、2014年)

2015-04-20 21:34:29 | 北朝鮮
よくある北朝鮮バッシング本だが、出版社が平凡社というのがポイント


著者の近藤大介氏は「週刊現代」の副編集長を務める人物で、本書は
「現代ビジネス」などに自分が書いたコラムをベースに金正恩政権について語ったものである。


雑誌のコラム記事がベースという時点で、内容は押して知るべし。


例えば、正恩が張成沢を処刑した下りだが、本書によると、
飢えたシェパード犬がいる檻に入れられる拷問を受け、
 近距離から機関銃で掃射され、火炎放射器で身体を焼かれた
」そうだ。


真っ先に疑問に思ったのが、
日本人にとって入国すら難しい北朝鮮で秘密裏に実行された
処刑の一部始終をどうしてここまで詳しく書けるのだろうか
ということ。



なにせ、どう処刑されたのかはハッキリしておらず、やれ追撃砲で殺された、
やれ犬に喰われた、やれ一族郎党皆殺しだといろいろな噂話がまことしやかに飛び交ったのである。
(近藤氏の主張はそれらをミックスさせたような印象を受ける)



どこから情報を入手したのだろうか、情報提供主は誰なのだろうか?

調べてみたところ、どうも該当する文章は、
以前、週刊ビジネスに掲載した自分のコラム記事が元になっているらしい。


逆らう者は一族郎党すべて「処刑、処刑、処刑!」 狂乱の金正恩 幼児まで皆殺しの「凄惨現場」



ここで絶対に押さえておかなければならないポイントは、
同記事の情報源が韓国の情報機関(国情院)であることだ。



国情院は、元々は戦後韓国の独裁政権時に設立されたKCIAという機関が改称したもので、
反体制派の人間を北朝鮮のスパイにでっち上げ拷問、時には殺害すらする秘密警察だった。



先の大統領選挙の際には、国情院が2270個のツイッターアカウントを利用し、
2200万件ものコメントを書き込む事件が発生した。

そのほとんどが昨年末の大統領選挙や政治に関して、
朴槿恵候補(当時)を支持し対立候補を誹謗中傷する内容だったのである。



2013年にも脱北者の男性を北朝鮮のスパイとして逮捕したが、
証拠となった文書3件が全て偽造されたものが判明している。

同年、統合進歩党の李石基議員らを北朝鮮の手先と断定、「内乱陰謀」などの容疑で起訴したが、
重要証拠として提出された録音記録が272カ所も改ざんされていることが裁判中に確認された。


例えば、「具体的に準備しよう」という発言は「戦争を準備しよう」と、
「全面戦はだめだ」は「全面戦だ、全面戦」とすり替えられている。



この本は、そういうことをやっている連中から
聞いた話をもとに書かれたものなのだ。


他にも近藤氏は金日成偽者説など、学者の間では否定されている説を平気で採用していたりする。
先述の週刊現代の記事でも、虚偽の証言をしたことが判明されたシン・ドンヒョクの言葉を
そっくりそのまま紹介していたりと、どうも、情報の吟味をあまりしていない。


近藤は朴槿恵大統領のブレーンである鄭成長氏と
対談するなど、自身の情報源を韓国の反北朝鮮派から入手しているような印象を受ける。



週刊現代は、国情院からの情報を下にした
記事を今でも書いている。



問題は、こういう編集部の責任者の1人である近藤氏を左翼が支持していることだ。


平凡社は言うまでもなく、朝日新聞社の船橋洋一氏、元外務省官僚の孫崎享氏などが
彼の著書を絶賛している。これがどれだけ恐ろしいことなのか、想像はつくだろう。


国内の批判者を北朝鮮の手先だとデッチ上げ、逮捕するような機関の言うことを
100%の真実として日本の左翼が信じ込んでいるということだ。これは非常に危ない兆候だ。


日本の左翼の発言力が低下しているのは、右翼の台頭というよりは、
左翼の右傾化、すなわち、左翼が右翼と大差ない思考回路に陥っていることに起因する。



冷戦中は、国内の共産党を封じ込めるために、あてつけのように
共産党の敵対者、すなわち、ソ連や中国、北朝鮮と協力する左翼が少なからずいた。


ところが、冷戦終結後は簡単に自らの立場を捨て、逆に共産くさいものなら
何でもかんでもバッシングしてしまえという厚顔無恥な振る舞いをしている。


もちろん、正確な知識に裏打ちされたものなら結構だが、
実際には、この近藤のような右翼論客を絶賛している有様だ。


特に平凡社は、一方では日本の歴史改ざん行為やヘイト・スピーチを非難する本を売っている。

「差別反対!日本の右傾化反対!」と言いながら「北朝鮮をぶっ殺せ」と言っているようなもので、
これがどれほど矛盾した意味不明な、迷走した行為であるかは一目瞭然だ。

平凡社に限らず、岩波、朝日と今の日本の左翼系メディアは
殺人に反対しながら半殺しを推奨しているような滅茶苦茶なことをしている


これでは、誰もついてこないのは当たり前だろう。


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