ブルーシャムロック

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小生存じ上げませぬ

2012-12-21 12:15:53 | 信・どんど晴れ
あっけない死だった。今勤務している旅館の大女将が亡くなった。
大往生だった。
この人は、私自身がこの旅館にいることを最後まだ反対していた。
孫である柾樹と婚約者の朝倉なんとかにこだわって、自分が後継者とみた
私を執拗に妨害してきた。
「この人が存在するから此處に居ざるを得ない」
という皮肉に能く遭遇してきた。
数日前、突如発病して那覇の救急病院に運ばれることになった。
自衛隊のHelicopterがやってきて、倒れた大女将をそれに詰め込んで家族もこれに乗っていった
女将は私にこういった。
「佳奈ちゃん、後を頼みます」
とだ。
何故、私じゃなければいけないのだろうか。やはり後継者なのだろう。
仲居頭の時江さんはトカラ列島に帰る帰る、そればかり言っている。
この雑多雑多した時間、予約客も何件かあったので、私が指揮官代理にならざるを
得なかったのかもしれない。
幸い、女将も新一さんも那覇に行っている時間私にみんなついて来てくれた。
予約客も気持ちよく歸っていってくれた。
「やっぱり佳奈ちゃんじゃないとね。」
周りの仲居や板前もそんなことを言う。見え透いたお世辞はなにか侮辱されたような氣がする。
 数日後、大女将は物言わぬ姿で歸ってきた。
那覇で荼毘に付してきたのであろうか。
遺骨になっていた。
「こういうことでしたか。」
私はこの大女将という女性を憎み抜いていたし、いいImageは存在しない。
だからこういう言葉しか出てこない。
「たぶん、すぐ葬儀になるでしょう。」
女将は表情を変えていなかった。
葬儀の時、私は受け付けにいた。女将の親戚である蒲田の町工場を経営している人間、
他に、女将の旦那の親戚筋にあたる近畿圏在住の人間が来ていた。
関東にいたとき思ったけれども、やはり奄美地方は鹿児島本土や沖縄よりも関東に薄いと
思って居た。
ただ席に座って「よろしくお願いします」と言うだけである。
ふと目立つ人間が着た。
現在、コンサルタントとして、旅館の再建に力を貸している男性の前から、私と余り変わらない
年かさの男女がやってきた。
「田浦笙子」
女性の方はそう記入した。
男性の方は、何か不安げに記入しているが
「加賀美柾樹」
と記入する。
加賀美柾樹?!
「加賀美柾樹さんでしょうか?」
私はそう聞いた。
「はい。」
男性は不安げに答えた。
確かに加賀美柾樹だ。先日婚約者だった朝倉某と一緒に来た時より、傍らの女性に
尻に敷かれているのだろうか、そんな感じがした。
「あのー、松本佳奈さんですか。」
田浦とかいう女性が、私に答えた。
「はい。でも私は貴殿の事は存じ上げません」
と女性に返答する。
「そうですか。関東にお住まいの頃、高槻久留美という女性と住んでいませんでしたか?」
私は見ず知らずの女性に高槻の名前を言われてきょとんとした顔をした。
「私は石川県のq市で温泉旅館をやっている、高槻久留美の高校までの同級生です。
あなたのお話は帰省したおりに、良く聴かされております。」
と田浦女史は落ち着いて答えた。
「はあ・・・。」
私は帰す言葉が無かった。
「現在、私の旅館で女将修行をしていた朝倉さんを追ってやって来た柾樹さんとは
いい関係を築いております。」
と女史は言う。
「あのー、朝倉さんは・・。」
私は田浦さんに質問した。
「さぁ、私は彼女のその蹟は分かりません。もしかしたら浜に舞い戻ったのかもしれません。」
と笑った。
葬儀は滞りなく終わった
私も葬儀の蹟の酒盛りに付き合わされることになった。
蒲田の町工場の男は、
「佳奈ちゃんが、加賀美屋の後継を任しても大丈夫だな。何のために柾樹君は帰ってきたんだ
大女將に婚約者との間柄を引き裂かれたも同然だな。」
と酔いながら答えていた。
「いくら、大女將を嫌っていたとはいえ、その言い方は彼女が化けて出ます。」
と新一さんがお酌しながら釘を刺していた。
私は浮かない顔をして、焼酎のグラスを見ていた。
「佳奈さん、何を考えていらっしゃるんですか。もしかしたら昼間の石川の女性の事ですか。」
新一さんの奥さんが私に質問した。普段は私に話しかける人ではないのだが。
「はい。」
私は気の抜けた返事を返した。
「人気アニメのキャラの台詞を引用して{明日はいかようにでも変えられる}と述べていました。」
奥さんは言った。
「もし、明日がいかようにでも変えられるのであるならば、私の魔法の国は徳之島には無い
小田原にあるのではと考えています。」
魔法の国、これも人気アニメ{魔界伝説ペム}のあるエピソードに登場したゲストの
素っ頓狂な女性キャラが目ざしていた国の引用だ。
「じゃあ、あなたが言う魔法の国は小田原にあるならば、私は・・。」
言いかけたとき、新一さんが
「お前はここで死ぬまで初代と雙六遊びをするんだよ。」
と言った。
新一さんの声が聞こえる。
「俺の見立では、この加賀美屋は初代さんの魔法の国なのかもしれない。そこで
初代さんがもしかしたら、いかさま雙六をして手に入れた魔法の国を守る義務がある。」
と言う。彼の話を聞いていて例えに使った雙六遊びは、前述の高槻が好きだった
源氏物語や平家物語に描かれた時代にはしきりに遊ばれたゲームで、Rulesも煩雑だった
ものだと聞いている。もしそれだとしたら、実に初代さんとデスマッチをやり続ける事になる
「私は頭も悪いけれども、その雙六をやる度胸はあるよ。」
と新一さんに言った。
周りの人も納得はしていた。
仕方がない。英雄ごっこをやるか。
おわり












コメント
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