その上で、この変化に対応するために数百万人が技能を覚え直す必要があるほか、政府も失業した労働者のために「より強固なセーフティーネット」を提供する必要があるかもしれないと指摘した。
世界人口の推計「2064年をピークに減少」
世界の人口がこれから減り続けていく、という予測は衝撃的だったね。
国連はもともと、2100年まで人口は増え続けるという推計を出していました。国連の予測は出生率低下をきちんと織り込んでいないのではないかという批判があり、米ワシントン大の研究者が2064年の97億人をピークに減少するという推計を公表しました。
50年ほど前は、人口爆発で食糧危機や深刻な環境汚染が広がり、地球が危機に陥ると懸念されていました。それから一転、わたしたちは人類史上初めてとなる世界人口の減少に直面することになります。歴史人口学者の鬼頭宏前静岡県立大学長は「次の文明システムへの転換期にある」と指摘しています。人口が増えないことを前提に社会をどう設計するか、まだ具体像は見えていません。
リモート時代に突入、人材獲得へ各国が知恵
デジタルノマド(遊牧民)とも呼ばれる優秀な人材を集めようと、リモートワークビザ(査証)を導入する国が相次いでいます。
通常の就労ビザはその国で雇用されないと取得できないのですが、一定額の所得などを条件に国外企業に遠隔勤務する人にも滞在を認めるビザです。
高所得者を呼び込み消費や投資を活性化させる狙いです。企業も国境の壁を越えて働ける環境を整えなければ、スキルをもった人材を確保できなくなるでしょう。
コロナ禍は医療や食品関連、物流などを支えるエッセンシャルワーカーの重要性も浮き彫りにしました。
遠隔勤務できないこうした職種の働き手をどう集めるかも課題です。
日本では6月に人手不足対策の在留資格「特定技能」について、食品製造や農業などの分野で長期就労を可能にしました。
移民を低賃金で一定期間だけ働かせるのではなく、長く働いてもらう仕組みが各国に広がるかもしれません。
侵攻の遠因にもなった人口減
ロシアによるウクライナ侵攻の背景にも人口減が関係しているようだ。
かつてプーチン大統領は「人口減は国家存亡の危機だ」と語っていました。旧ソ連の衰退は人口グラフを見れば一目瞭然です。体制崩壊直後の1992年、出生数が急落し、人口グラフ上で十字架を描くように死亡数と逆転しました。これが人口学者が指摘する「ロシアの十字架」です。
減り続けていたロシアの人口が一時的に持ち直したのは2014年です。ウクライナ南部クリミア半島の併合を宣言し、統計上の人口が約260万人増えました。無謀とも思える侵攻を続けるプーチン氏の狙いは、「在外同胞」と呼ぶ旧ソ連諸国住民の取り込みかもしれません。
出生数減少は社会全体の問題
スウェーデンの手厚い子育て支援は広く知られている。何がきっかけだったのだろう。
1930年代に出生数が急減し「このままではスウェーデン民族が消滅する」との危機感が高まりました。このことが今のスウェーデンの社会のあり方を形づくることになったのです。
きっかけは、のちにノーベル経済学賞を受賞するグンナー・ミュルダールによる妻との共著「人口問題の危機」。出生減が社会全体の問題であることを明確に示して当時ベストセラーになり、国を挙げた政策議論を巻き起こしました。それが現在の「育児の社会化」につながる手厚い政策を生み出していったのです。
今の日本にそれだけの危機感があり、社会のあり方を見直そうとする機運が生まれているでしょうか。求められるのは、先進的な政策を表面的にまねしようとすることではなく、90年前のスウェーデンのような強い危機感に根ざした「本物」の政策議論だと感じました。
AI・ロボット台頭でも、人手不足の懸念
人口減少を補うロボットなどの自動化技術への関心も高まっているね。
特に物流業や製造業でロボットの普及ペースが速くなっています。両業種とも人手不足が賃金を押し上げていて「人を雇うより、ロボットを入れる方がコスパが高い」状態になっています。
物流業の自動化率は1割に満たないので、ロボット市場の伸びしろは大きいです。
生成人工知能(AI)も台頭し、テクノロジーが雇用を奪う「技術的失業」に改めて注目が集まっていますが、現業系の仕事では人手不足の懸念の方がはるかに強いです。リクルートが3月に公表した予測では、2040年に国内で1100万人の労働力が不足する見通しです。
取材したある物流会社の経営者は「ロボットが雇用を奪う前に地方から働き手はいなくなる」と話していました。
人口減少時代の課題を正しく認識し、イノベーション(技術革新)をためらわないことが重要です。