ところで財布がなかったら不便でしょう…
妻や職場の人たちが、そう言って心配してくれる。
ま~ね。不便と言えば不便だけど、
また落としやしないかと不安なので、新しく購入する気持が湧いてこない。
…ということで、まだ、しつこく財布の話を続けています。
ひとつのネタを何回繰り返せば気が済むんだ…と言われそうだけど。
しかし、僕はつい先日、ルイ・ヴィトンの財布を手に入れたのだから、これはもう、ゼッタイに書かないわけにはいかないのだ。
14年前、パリの凱旋門の近くにあるルイ・ヴィトンの本店を初めて訪れたときは、団体の旅行だったので、無理やりに連れて行かれたのも同然であった。しかし来たからには何か記念になるものを、と思ったけれど、どれもまあ高価なものばかりで、なかなか適当なのが見つからない。結局、お世話になった人のお土産にと、一番安かったキーホルダーを買うのがやっとであった。
だいたい、こういうブランドの品物というのに、僕はあまり縁がない。これまで持っていたコーチの財布にしても、グアムだったかハワイだったかへ行った帰りの空港で、ドルが余ったので「何でもいい」から買っただけである。
それが、このたび財布を失ったのをきっかけに、ルイ・ヴィトンを持つことになったのだから、運命のめぐり合わせというものは皮肉である。
それでは、ご紹介しましょう。
これが、僕の新しく持つことになったルイ・ヴィトンの財布です。
中には「ジャル・マイレージ・バンク」というカードと、
勤務先で再発行してもらった自分の職員証が入っています。
でもなぜ、ブランド品に縁の薄い僕がこれを持つことになったのか?
実は、数日前のわが家での夕食時、「財布、やっぱりいるかなぁ…」
僕がそうブツブツ言っていたときに、そばにいた長男が、
「財布やったら、ひとつ、新しい財布があるで。それ、使う?」
と言ってくれた。
「おお! 渡りに船とはこのこと。使う、使う。何でもいいから使う」
「ほんなら、持ってくるわ。もらった物やけど」
そう言って長男は席を外し、しばらくたって、
「これ。使う? ほんまに?」
と、僕に手渡したのが、このルイ・ヴィトンの財布であった。
「なに…? これ。どうしたん?」
「ルイ・ヴィトンやけど、もらいもんやねん」
僕はびっくり仰天した。
「こ、こ、こんなもん、誰がくれるねん?」
「会社の先輩が、海外旅行に行って来きはって、『これ、欲しかったらあげるで』と言うたんで、もらった」
「えらい、気前のええ人やな~。いいの…? こんな高いもんもらって」
「いいよ…? ニセモノやから」
「えっ…?」
「もちろん、ニセモノやんか。誰がほんまモンくれるのん」
な~~~~~るほどぉ~~~。
そらそ~やわな。
大して親しくもない人が、ほんまモンのヴィトンなんか、くれるわけないわ。
それでも、体裁はヴィトンである。
こんなのを使っていると詐欺罪か何かで捕まるのか…?
そんなこともないだろう。まあ、財布だったらなんでもいいんだし。
「あ、その財布やけど…」
と、長男が口をはさんだ。
「言っとくけど、お金の出し入れをするとき、そろ~っとやらなあかんで。
すぐに破れるらしいからね。ちゃちな作りやから、と言うてはった」
「…そうか? すぐに破れるのか…」
「カンボジアへ旅行した時に買ってきはったそうやで。
日本円で、160円ぐらいやった、と言うてはったわ」
…160円。
カンボジア版のルイ・ヴィトン。値段が…160円 !
なんじゃ、そら。
…ということで、いま、僕はバッグの中に、160円のルイ・ヴィトンを潜ませているのである。
今度この財布を失ったら、警察になんと届け出るか…むずかしいなぁ。
「財布のメーカーは?」
「あのぉ、いちおうルイ・ヴィトンですけど…」
「購入価格はいくらぐらいでしたか?」
「160円です」
…な~んて、警察で言えないもんね。
やっぱり、別に新しい財布を買ったほうがいいかもしれない。