かつて有名人などが「座右の銘は何ですか…?」と新聞記者らに質問をされている光景をよく見かけた。しかし最近ではこの言葉はあまり使われなくなった。その分この言葉が持つ「常に身近に備えて戒めとする格言」という正確な意味を解さない人が増えてきたのかも知れない。
かなり以前のことだけれど、市役所の広報担当の仕事をしていた頃「座右の銘は何ですか…?」と取材相手に聞いたら…「玉ネギ作りですわ。ワシの作る玉ネギはええ玉ネギでっせ」と答えた人がいた。それ以後、僕はもう誰にもその質問はしないことにした(笑)。
元プロボクシング世界王者の具志堅用高さんは、「座右の銘は…?」と聞かれ「1.5です」と答えたという。それは「左右の目」でしょ。ま、この話はウソかマコトか知りませんけど…。
話はコロッと変わりますが…
以前勤めていた市役所の隣に警察署があった。ある時、僕は何かの用事でその警察署に出向き、カウンターの中へ入り、デスクの間をぬって奥の署長室へ行ったことがある。その途中で一人の男性職員(むろん警察官であろう)が、机に向かって鉛筆で、画用紙のようなものに絵を描いていたのが目に入った。通りすがりにチラッとその絵を見ると、髪の長い若い女性の顔が描かれていた。絵はほぼ出来上がっていたようだったが、僕は「なんだ?仕事中に若い女の絵を描いて遊んでいるのか?」と不審に思った。
後に警察の人にそれを話すと、「あ、それは、似顔絵の練習をしていたのでしょう」と言った。事件・事故などの際、目撃者の話を聴いて、特定の人物の似顔絵を描いたりすることもあるという。それを専門に日ごろから訓練をしている警察官もいるので、たぶんその男性もそうだったのでしょう、ということだった。
警察にはいろんなことをする人がいるんだなぁ、と感心したものだが、先週、新聞に小さく載っていた記事を見たとき、その話を思い出した。
その記事は…
まぶたのほくろ…容疑者だ!
通勤中の電車内 見当たり捜査員が逮捕
という見出しで始まっていた。
兵庫県警の巡査部長(30)が9日、通勤中の電車内で窃盗の常習犯の疑いで指名手配されていた男に気づき、逮捕したというのである。
巡査部長は容疑者150人の顔を覚え、街の中で捜す「見当たり捜査員」で、その時、電車の座席で居眠っていた男の右のまぶたのほくろに見覚えがあり、逮捕に至ったという。
僕は「見当たり捜査員」という言葉を、寡聞にして知らなかった。顔見知りの女性との雑談の中でその話をすると、「見当たり捜査ナントカというテレビドラマもあったようですよ」いうことだった。ふ~ん、そうか、ドラマにもなっていたのか…。なら、その存在を知っている人も多いのかもしれない。
それにしても、警察の人にもいろいろな仕事があるのですね~。
日ごろからせっせと似顔絵の練習をしている警察官もいれば、150人からの指名手配犯の顔をじ~っと眺めてその特徴を頭の中に叩き込み、繁華街などで見つけ出すという警察官もいる。な~るほど、そういう地道で執念深い(?)仕事が僕たちの知らないところで行われているのだなと思うと、警察の人たちに敬意を表したくなる。
仕事とはいえ、大勢の顔を覚えるというのは並大抵のことではないだろう。それも実際に会って覚えるのではなく、写真を見るだけである。新聞記事に出ていた捜査員も、電車で居眠っている男の顔をみただけで、よくわかったなぁ、と感心する。それだけでもすごい「特技」ではないか。
しかしまあ、街を歩きながら、道行く人々の顔を次々にジロ~ッと眺めながら、「うっ、似てるぞ、いや、違うか…?」なんてことを繰り返す毎日ってどんなんだろうな、とも想像してしまう。
…で、こういう「見当たり捜査員」の人に、「座右の銘は何ですか…?」と尋ねたとしたら、どんな答えが返ってくるだろうか…?
言うまでもなく…
「そりゃぁ、あなた、“人を見たら泥棒と思え”ですわ」
…という答えでしょうね。きっと。