先日、東京ヤクルトスワローズの青木宣親選手が、今シーズン限りの引退を発表した。
僕が青木の存在を知ったのは、青木の入団1年目(2004年)のシーズン中だった。ものすごく足が速くて左打ちの外野手と聞いて、そういう選手が欲しかったんだよ、と思った。ひたすら流し打ちであたりそこねでも内野安打。塁に出れば走り回るファミスタのピノみたいな選手。あるいはイチローみたいな。そういうのが1番の打順にいると、ゲームでも現実でも得点力が高くなる。
ところが、その年の青木は期待外れだった。塁に出れば走るのだが、なかなか出塁してくれなかった。思ったより小柄でパワーもなかった。
翌年、突然ブレークした。シーズン200安打達成で首位打者。ただ、三塁側に転がしての内野安打が多かった。イチローもそういうの多いけど、青木はもっと極端だった。今の僕は、それも高度な技術だと理解しているが、当時の僕は、ちょっとセコいかも、と思っていた。
その後、盗塁王も獲り、また200安打を達成し(現在も2回達成はNPB史上唯一)、首位打者をさらに2回獲った。あの頃はラミレスも打ちまくっており、なんかすごい簡単に安打が出るなあという印象だった。が、二人の成績がチームの順位にあんまり関係なくて、うーん、て感じだった。当時は子供が生まれたばかりでそっちに忙しくて、あんまり野球見てなかったってのもある。
スワローズの順位にはそんなに貢献してなかった青木だが、2009年の第2回WBCでは大活躍した。采配とかオーダーに興味のあるプロ野球ファン(と原監督)としては、イチローは1番打者なのか3番がいいのか、ああ、イチローがもう一人いればなあ、と悩ましかったわけだが、そのもう一人のイチローみたいな選手として青木は3番に入って躍動した。
2011年、レギュラーに定借した2年目以来初めてスランプに陥り、青木の打率は3割を切った。素人目に見ても身体のキレが悪かった。疲れているようにも見えた。それなのに(確か)シーズン序盤から来年メジャー挑戦という話になっていて、こんなんで通用するのかと僕は冷ややかに見ていた。というのも、青木は自分の成績ーメジャーに評価されるためのーのために日々鍛錬しているような気が僕にはしていたし、今とは違って、ちょっとチャラかった。茶髪だったし。
この年は首位独走から終盤故障者続出で大失速。2位に落ちたことでCSを第1ステージからやらなきゃならなくなり、戦力が枯渇。第1ステージの対ジャイアンツ戦でコマを使い切り、ファイナルステージのドラゴンズ戦では1軍経験のない高卒1年目の山田哲人を緊急招集する事態にまでなった。そんな中、小川監督は後に「特攻」「明日なき戦い」と言われた鬼采配で4番青木という奇策を繰り出すのだが、靱帯を切りながら投げ続けた館山が力尽きて終戦。僕は非力な青木が4番じゃなあ、でも他にいないんだよなあと悲しい気持ちになった。
不調な2011年だったが、予定通り青木は海を渡った。日本最終年の不調が嘘のように青木は打ちまくった。メジャー7年間で、ほとんど2割7分以上は大変なことだ。そして、毎年違うチームにいた。頭部死球でめまいがするみたいなことを聞いたときは心配した。青木はもうチャラくなく、スワローズ出身の活躍しているメジャーの選手だった。
そして日本復帰。メジャーから帰ってくる選手は古巣に行かないこともある。井口とか城島とか。でも青木はスワローズを選んだ。スワローズを愛しているとまで言った。黒田がパドレスの21億円のオファーを蹴ってカープに復帰したとき、スポーツライターか誰かが「一流のアスリートはキャリアの頂点を極めたあと、ふるさとに帰ってくる」と言っていたが、青木もまさにそれだった。
復帰初年度、いきなり3割2分7厘。もちろん規定打席到達。ネットでは「なんやこのおっさん」との声があふれた。メジャー末期は一寸衰えを見せていたので、僕はほっとした。ベンチでもエラーした村上宗隆を厳しく叱責するなど、渡米前のチャラさは何だったのかという先輩ぶり。中心となってチームをまとめ、一時キャプテンも務めた。
そして2021年に念願の日本一。スワローズ復帰時に、このチームを優勝させると宣言したのを実行して見せた。この年はそこまでの個人成績ではなかったが、代打とかでもなく、ほぼフル出場してのセリーグ制覇、日本シリーズ制覇だった。若手主体のチームが優勝するなか、ベテランとして少しは試合に出ました、という優勝ではなかった。
現在、スワローズにはオスナとサンタナという優良外国人選手がいて、他ファンからうらやましがられている。オスナとサンタナは1年目に「エイオキさんが一生懸命真面目に練習しているので俺たちもやらざるを得ない」と言っていた。同時期にメジャーでプレイしていた、ちょっと年上の先輩エイオキは、成績的にも彼らにとってスーパースターだったらしい。本人たちの性格や素質ももちろんだが、いま両外国人が打線の主軸として常時活躍してくれているのは、青木の影響が非常に大きいと僕は思っている。
引退会見で青木は、プロ野球生活を振り返って「全部やりきった、100点満点です」と言っていた。たくさんタイトルを獲り、日本代表としてWBC連覇に貢献。メジャーでも活躍してワールドシリーズまで出て、スワローズで日本一。確かに、もう思い残すことはないだろう。野球選手としてやれることは全部、獲れるものは全部獲った。デビューから見続けた贔屓チームの選手が、そう言い切って引退するのを目撃するなんて、なんて幸せな気分なのだろうと僕は思った。