先日—といっても四月だがーNHKスペシャルで「数学者は宇宙をつなげるか」という番組を見た。ABC予想を証明したという望月新一博士の「宇宙際タイヒミューラー理論(IUT)」と、その理論をめぐる数学者たちの論争のドキュメンタリーだった。
僕は文系人間なのでふわっと曖昧にしか理解できなかったが、IUTは既存の数学とは違う独自ルールの数学だった。同じと見なせるものは同じとするのが普通の数学なんだそうだが、IUTでは同じものを違うと見なす、とかなんとか。
既存の数学では解けないから、独自のルールを作ってそれで解く。それでいいのか?と思ったのかどうかは解らないが、査読を通過して正式に発表されたのに、納得してない数学者が多いらしい。
ちなみに「宇宙際」は、数学をひとつの宇宙と見なし、それとは別の数学宇宙を作り、互いに繋げた理論という意味らしい。「国際」みたいな。国際はインターナショナルじゃないですか。宇宙際はインターユニヴァース。タイヒミューラーは昔のドイツの数学者の名前。
僕はこの番組をみて、山口雅也の「生ける屍の死」を思い出した。
「生ける屍の死」は「このミステリーがすごい!」の20年間ランキングの2位に輝いた名作である。僕も好きで、大分前だけど二回か三回読んだ。
精巧に組み立てられた関係者の行動とタイムライン、複雑な人間関係を解き明かしていき、非常に納得のいく結末になっているのだが、本格推理小説かと問われると、ちょっと待って、と考えてしまう作品である。
その精密な論理展開は、人が死んでも生き返って普通に活動できるという設定の中でのものだからだ。独自ルールの上でのトリック、謎解きなのだ。
いや、すごく面白いんですよ。なるほどそうだったのか!の連続なんだけど、現実のルールの中での素晴らしいミステリーもたくさんある。作家達は身を削る思いで一年に一個できるかどうかのトリックを考えてるなかで、勝手なルールでやっていいんかい?!というね。それだったらいくらでも新しいトリック作れそうじゃん。本格じゃなくて変格っぽいかも?
だから「生ける屍の死」は2位止まりなんだよな。
「宇宙際タイヒミューラー理論」に似てるでしょ。状況が。
というふうに思考を巡らせ、これはブログに書けるな、と思ったのだが、改めて「生ける屍の死」を調べたら、その後の30年間ランキングで1位になってた。
ああいうのも受け入れられるようになったんだな。多様性の時代、か...(なんか違う)
というわけで、IUTもいずれ受け入れられて、正式に証明されたということになるんじゃないですかね。