
山中恒の「おれがあいつであいつがおれで」を読んだ。小学6年生の男の子と女の子の頭の中身が入れ替わる話で、大林宣彦監督の映画「転校生」の原作である。
「転校生」の原作ということは、「君の名は。」の元ネタとも言えるだろう。
後発の映像作品と違い、まだ身体的な性差がそれほどでもない年齢なので、えっ?!とかおっ!?とかいうシーンや描写は少ない。一美は美人で胸もあるという設定だが、一夫がそっちの興味が薄い奴なので、瀧くんのように毎朝揉んで、へぇこうなってんだあ、みたいなのはない。
だが、入れ替わりで想定されるトラブルはちゃんとしている。親戚の顔がわからないとか、生理が来るはずだから移動教室は行かないでくれとか。特に、一美が自分の身体を心配して頻繁に一夫の家(一美の家)に来るため、一美の母が警戒するシーンが多いのだが、もし入れ替わりが発生したら、本当にありそうな展開だった。
文章だと入れ替わりの表現が難しい。一夫の台詞は「〜デスワヨ」などと、ふざけて女言葉を使う男子、みたいな表記で区別できるようになってはいるのだが、実写やアニメと違って女の声で男のセリフ、にはならない。読んでてもそういうふうに聞こえてこない。大林宣彦がいち早く映像化したのは正しかった。
無理に挟んだようなエピソードがある。一夫が校長先生と一緒に入院して弱みを握る話は、ドタバタしすぎだし、全体の流れを考えると不要だった。「小6時代」という雑誌に連載されていたそうなので、今月号は目先を変えて、みたいな要請があったのかもしれない。
一夫が男子を「オスガキ」と呼称するのも、現代の感覚ではよくわからない。当時のリアルな少年少女の言葉使いなんだろうか。時代設定は、たぶん1970年代だ。
山中恒は児童文学の重鎮なので、男女が入れ替わってウヒョヒョみたいな話では終わらない(というかそもそもそういう話ではない)。一夫は女の子の人生も大変なんだと嫌というほど知らされ、一美は一夫が本当は優しい少年だと文字通り体験して、互いに好きになっていく。物語の大きなテーマとしては「男女の相互理解」なんだと思う。
終盤、展開が端折られて、大急ぎで解決して、慌ててまとめた感じになってるのが残念。ペース配分に問題あり。最終章は、今なら最低でも2号分に分け、エピローグもつけると思う。