
本作は、20年前にファミ通の編集者「風のように永田」だった著者がWebで連載していたFFXI日記を書籍化し、さらに電子化されたものである。
何度も書いてるが、僕もかつてFFXIをプレイしていた。プレイ開始直後に、まだWebに残っていたこの連載を全部コピペしてテキストで保存。何度も読み返して刺激を受けつつ、自分の冒険を進めていった。
プレイ日記ではあるが、実際のプレイの記述はそんなに多くない。ゲーム外の話も多い。プレステのBBユニットを手に入れる苦労とか、会社の回線が繋がらないとか、FFXIのせいで見た変な夢の話なんかも綴られている。
10回に1回くらいの頻度で語られる戦闘の話はどれも秀逸だった。FFXIの戦闘はシビアで、雑魚相手でもミスすると普通に死ぬ。死ぬと経験値が削られ、下手するとレベルが下がる。人と助け合わなければ死ぬ世界で、いろんな人と交流したり、戦術を学んだり、工夫したり、死んだり死ななかったりしたエピソードが、感情移入しやすい文章で書かれている。
屈強な仲間のHPが、ドスン、ドスン、ドスンという奇妙な間隔で減って、HPの数字が真っ赤な0になっ
たシーン。
ガルレージュ要塞地下の奥で、死んだ仲間を蘇生するために、チャットで座標を確認しながら手探りで進むベテラン白魔導士のシーン。
敵がリンクしてピンチになり、誰かが「救援出します」と言って救援要請を出し、周りのPTが一斉に助けに来てすぐ立ち去るシーン。
といったあたりがお気に入りのシーンである。やってれば、もう、あるある!!というシーンばかりである。

ゲームのプレイ日記なのに、目から水が出てくるシーンもある。
当時はゲーム内で知り合っても、ゲームの外で連絡を取るのが簡単ではなかった。ゲームを離れると今生の別れとなることがよくあった。本作では、サーバーの移動による別れと、それにまつわるいい話なんかも収録されている。
書籍化されるにあたり、連載時にはなかった「吟遊詩人編」が追加された。あの後永田さんがどうなったのかを知るために購入。
どうなったかは分かったが、全体的にリライトされ、表現がマイルドになった。悪い商人の喩えとして「越後屋」と書いてたのが別の表現に置き換わったりした。文章のキレ味が若干落ちた。悪くはないが、テキスト版は消せないなと思った。
それから20年後。唐突にKindle版発売である。本はまだ持っているが、収納ボックスの奥底にあって取り出しにくく、いつでも読める状態ではないし、電子版だけの後書きがあるというので買ってみた。永田さんが「ほぼ日」にいることは知ってるし、ていうかTwitterでフォローしてるけど、彼とFFXIがどうなったのかは分かってなかった。それが分かるかも。
結論から言うと、永田さんはもうFFXIをやってないらしい。そりゃそうだよね。僕だって引退したもん。
当時の僕は本作に影響されて、自分のホームページで、僕自身のFFXI冒険譚を書き始めた。プロバイダーが変わったり、ホームページというものが廃れたりしてその連載は自然消滅したが、それから20年近く経ち、後継として始めたのが当ブログの「サブ子の旅」だったりする。

古き良き時代のMMORPGの雰囲気を知りたいという変わった人たちに本作をお勧めする。FFXIVの吉田P/Dが語るウルティマオンラインの武勇伝が好きなヒカセンとかは楽しめるんじゃないかな。