※ネタバレすると思うのでご注意ください。
huluオリジナルで制作されたらしいが、年末年始に地上波でやってたのを録画して見た。
僕は世代的にも新本格派の波をモロに被っている。綾辻行人もまあまあ読んだ。館シリーズは黒猫館までは読んだ。その中では、時計館が面白かった。
十角館は綾辻行人のデビュー作である。当時、いかにも習作っぽいなと思った。大学生だけで無人島で過ごすという状況が強引だし、有名な推理作家の名前で呼び合うのも痛い。プロットやトリックは面白いのだが、登場人物の性格や、状況設定に説得力がない。トリックは凄くても人間が描けていないといわれた、当時の新本格派が叩かれた典型的なパターンの作品だった。と思う。
あれからウン十年経って、このドラマ阪のアオリは「あの一行の衝撃」「まさかの実写化!」である。いや、習作でしょ。調べたら、結構いろんなランクに入ってる。えー、衝撃は時計館のほうが上でしょ。なんなら「霧越邸」とか「切断された死体の問題」のほうが、綾辻作品としては上だろう。
と思いながら見始めました。犯人とトリックはなんとなくしか覚えていない状態で。
序盤、何故かワクワクしない。ミステリ好きならワクワクするシチュエーションなのに。島に行くメンバー皆、演技がわざとらしいというか、学生の自主制作映画っぽいからか。十角館もセットとCGなのが丸わかりだし。
エラリイの態度がイライラする。こんなキャラだっけ? 綺麗どころがアガサだけ。それもなんかイマイチ。女王様気取りだからか? 肌もざらついてるような。と思って後で調べたら長濱ねるだった。いや、なかなかの演技力(手のひらクルー)。全然分からんかった。
青木崇高の島田潔がいい。飄々とした、と称されるキャラクター、それを演じた人はたくさんいるが、その中でも最も飄々としていた。その分、推理力はどうなんだという感じだったが。江南くんは大根だった。彼のモノローグ的な部分は本筋にあまり影響しなかったので、全体のテンポを悪くしていた。トンチンカンな推理ばかりだし。
オルツィ、カーが殺された。この2人は出番短くてかわいそう。アガサが毒殺された。華がいなくなって絵的に大丈夫か? ルルゥが撲殺された。これだけ毛色が違う。足跡がこれみよがしに映るが、特に推理はせず。
本土では島田潔とコナン君が執拗に手紙の謎を追う。紅次郎が東京03の角田晃広なので、真剣味にかけるというか、仲村トオルの弟には見えんなあ。
エラリィ、ポウ、ヴァンだけになった。「そして誰もいなくなった」ならここからが本番だが、タバコの毒であっさりポウが死んだ。ミステリ好きならタバコは警戒しろよ。犬神家の一族を読んでいないのか?
で、十角館炎上で6人死亡のニュースが流れる。2人になってからの決戦はないんだっけ。
今までモリスと呼ばれていた守須が、君はなんと呼ばれているのかと訊かれて答える。「ヴァン・ダインです」と。
これが衝撃の一行なわけだ。犯人は本土と行き来してた千織の彼氏だってのは覚えてたけど、具体的に誰かは考えないようにしてたのでびっくりしたわ。
これで全て了解。海外の有名推理作家の名前で呼び合う痛い慣習は、島と本土で一人二役やるためだ。本土では江南は一度も守須をヴァンと呼んでいない。その不自然さも、そういうノリが嫌でサークルをやめたというエクスキューズが序盤にあるので問題ない。さらに、守須ならモーリス(ルブラン)かい?と揶揄われて苦笑するシーンもあった。前髪を下ろす/下ろさないの変装?もあり、トリックの一番キモになるここについては、うまく処理できてたと思う。
痛い呼び名にもちゃんと意味があった。やっぱりその辺の刑事ドラマとはビックリのレベルが違うわ、と感心したのだが、一緒に見ていたうちの奥さんは「ヴァン・ダインです」の瞬間、無反応だった。
そうか、彼女はS・S・ヴァン・ダインを知らんのだ…。
全部見終わった後、あの一行でびっくりしたかを訊いた。島にいたヴァンだということはわかったけど、動機が分からなかったので無反応だったらしい。洗い物をしながらみてたりしたからか、あの演出だと分かりにくいのか。
守須が髪型を変えるのは、実際には必要ないはず(実写化のための無理やりな工夫)という意見もあるが、風邪引いてる演技の補助くらいにはなるぞ。顔隠せてたから。犯行計画を詰めた瓶とかやりすぎな感もあるが、やっぱり一流のミステリ作家が書いたちゃんとした原作があると違うなと感じた作品でした。